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コラム column

2014年2月28日

著作権裁判ファッション

「Fashion Lawへのご招待
   ―ファッション・ショーと著作権(東京地裁平成25年7月19日判決)」

弁護士  永井幸輔(骨董通り法律事務所 for the Arts)


「Fashion Law」という言葉をご存知でしょうか。昨今、このFashion Lawに対する注目が国際的に高まりつつあるようです。アメリカでは近時、フォーダム大学ロヨラ大学等の複数のロースクールでFashion Lawのプログラムが設けられ、またファッション分野の専門法律書*1などもリリースされています。また、欧州では、デジタル化した文化資産をアーカイヴする巨大電子図書館「Europeana」のファッション版、「Europeana Fashion portal」が2013年12月にスタートしており、ファッションの知的財産権に関するガイドライン『FASHION AND INTELLECTUAL PROPERTY』なども公表されています。

他方で、日本では、まだこの分野に関する注目度が十分には高くないように思いますが 、2013年の7月、ファッション・ショーの著作物性が争点となった判決が東京地方裁判所において行われました。同様の判決は他に見当たらず、またファッションに関する著作権法分野の裁判例自体が少ないこともあり、ファッションという分野と著作権を検討するにあたり、注目すべき裁判例と言えるでしょう。

そこで、今回は上記の事件を題材に、ファッション・ショーの著作物性について検討してみたいと思います。


■ファッション・ショーについて

事件について話す前に、ファッション・ショーについて少し補足しましょう。 ファッション・ショーでは、(ブランドやデザイナーによってもかなり異なりますが)典型的には、デザイナーの服を着たモデルが、観客席の間に作られる細長い舞台(ランウェイ)を音楽等の演出の下で歩き、観客に対してその服や世界観が表現されます。
年2回、多くの著名なメゾン・ブランドが新作を発表するパリ・コレクションやニューヨーク・コレクションなどの4大コレクションが有名ですが、日本でも1985年から東京コレクション(ジャパン・ファッション・ウィーク)が開催されています。期間中は都内の様々な場所でショーが行われ、デザイナーやモデル、ブランド関係者、プレス、その他ショーに参加する多くの関係者で賑わいます。
美しく、ときに前衛的な衣服を身にまとったモデルが、ランウェイを縫うように歩いたりポージングする姿は、演劇やライブとも異なるファッション・ショー独特の世界観を見せてくれます。昨今は、インターネットでも数多くのショーを見ることができます。下記のFashion TVでも、ショーの映像やその準備の様子、様々なクリエイターがどのようにショーを作り上げているのかを垣間見ることができるので、本コラムと併せてご覧いただくとイメージしていただきやすいと思います。


■事案のあらまし

この事件では、原告であるイベントの企画制作やコンサルティングを業務とする有限会社マックスアヴェール(原告会社)と、マックスからイベントの企画運営を受託していた人物(原告A)が、被告である日本放送協会(NHK)と、日本でもファスト・ファッションのブランドとして著名な「Forever21」の日本でのプロモーション代理店である株式会社ワグに対して訴えを提起しました。詳しい事情は次のとおりです。

2009年6月6日、マックスと原告Aは、六本木ヒルズで開催されたForever21の衣装等を使用したファッション・ショーを開催しました。このファッション・ショーは、原告らの許諾の下、ファッション専門チャンネル「Fashion TV」を運営する株式会社JFCCが撮影し、Fashion TVで放送されました。
2009年6月12日、NHKは、テレビ情報番組「特報首都圏」の「"激安"ファストファッション~グローバル企業が狙うニッポン~」の回において、JFCCからの提供を受けた上記ファッション・ショーの映像(本映像)を約40秒間使いました。
原告らは、NHKとワグに対して、本映像の使用及びAの氏名の非表示は、マックスの著作権(公衆送信権)と著作隣接権(放送権)を侵害し、また原告Aの著作者人格権及び実演家人格権(氏名表示権)を侵害したとして、マックスは943万4790円の、原告Aは110万円の損害賠償を請求しました。


■事件のポイント

さて、この事件で主に争点となったのは、ファッション・ショーが「著作物」に該当するか否かです。NHKの本映像の使用が、著作権(公衆送信権)・著作者人格権の侵害にあたるというためには、その前提として、ファッション・ショー(のいずれかの部分)が「著作物」に該当し、著作権等によって保護されている必要があります。なお、NHKはJFCCから本映像の利用許諾を受けていると思われ、本映像自体の著作権は問題にはならないと思われます。

裁判では、原告らは以下の各点について、ショーのテーマに沿うように選択・決定されたものであり、それぞれ「著作物」にあたると主張しました。
 ① 個々のモデルに施された化粧(メイク)や髪型のスタイリング
 ② 着用する衣服の選択及び相互のコーディネート
 ③ 装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート
 ④ 舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け
 ⑤ 舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け
 ⑥ これら化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート
 ⑦ モデルの出演順序及び背景に流される映像

結論として、裁判所は、上記7点(と本映像の共通部分。後述)のいずれについても著作物にはあたらないとして、著作権等の侵害を認めず、原告らの請求を棄却しました。どのように結論に至ったのか、詳しく見て行きましょう。

(1) 判断基準

裁判所は、まず判断基準として、著作権法上、表現上の創作性がないものは著作物に該当しないとした上で、その作品が「創作的」に表現されたものであるというためには、厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するとしました。
これは、従来の判例や通説と同様の解釈を取っているものと言えそうです。

また、裁判所は、作品の全体について表現上の創作性があるだけではなく、著作権が侵害されたと主張する部分―すなわち、上記7点と本映像の共通部分について、創作的な表現であり、著作物であることを要するといいます。
すなわち、原告らが主張した上記7点(=原告作品)のうち、NHKが使用した本映像(=被告作品)に具体的に映りこんでいる部分(=原告作品と被告作品で共通する部分)を特定した上で、これが創作的な表現にあたる場合には著作権侵害が成立することになります。つまり、この事件で著作物性の有無が検討されたのは上記7点の、しかも本映像に映りこんでいる部分に限られ、個々のメイクやヘアスタイル、コーディネート、振り付け等そのものの著作物性や、ファッション・ショー全体を一つの作品と見た場合の著作物性などについては、この判決では判断されていない点に注意が必要です。

それでは、この判断基準に基づいて、上記7点についてそれぞれどのように裁判所が著作物性を否定したのか、確認してみましょう。

(2) 各要素の著作物性の検討

 ①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング

  髪型 化粧
a 下ろした髪全体を後ろに流した髪型 アイシャドーやアイライン、
口紅等を用いた華やかな
化粧
b 緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型
c 耳上の髪をまとめ、
耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型
d 全体に強めにカールを付けて下ろした髪型

裁判所は、上記 a~dの化粧及び髪型は、いずれも一般的なもので、作成者の個性が創作的に表現されているとは認め難いと判断しました。
また、仮に創作性が認められても、本映像で使われているのは、動くモデルを約2秒から約9秒程度撮影したもので、顔や髪型が映る時間がごく短いこと、暗い室内で照明を当てながら撮影されたもので、アイラインの引き方やまつ毛の流し方、目元、唇等における微妙な色の工夫等の細部を本映像から読み取ることはできないとしました。

 ②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート、③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート

  コーディネートの内容
a 黒のレース素材のトップス、豹柄のスカート、黒のベルト、紫色の輪状の耳飾り及び黒のヘッドドレスの組み合わせ
b 白地に黒の水玉模様のワンピースに黒のベルト、パールネックレス、ピンクと黒のヘッドドレスの組み合わせ
c 緑色のワンピース、銀色の腕輪、黒のヘッドドレスの組み合わせ
d 黒のワンピースと黒のヘッドドレスの組み合わせ
e 黒の毛皮のコート、紫色のトップス、黒のスカート、紫色のバッグ、ヘッドドレスの組み合わせ

裁判所は、上記 a~eの衣服とアクセサリーはいずれも既成品で、そのほとんどはForever21の商品で大量販売が予定され、また購入者がこれを組み合わせて身に着けることが当然に予定されているというべきといいます。また、通常と著しく異なる特殊な組み合わせ方であるなど、独自の個性の表れと言える特殊又は特徴的な点がない限り、ありふれたものであり創作性がないと判断しました。

 ④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け、⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け

  振り付けの内容
a モデルが手を前後に大きく振りながら歩き、立ち止まって両手を腰に当てた上で、腰を向かって左、右(向かって左、右を指す。以下同じ。)の順にゆっくりと大きくひねる様子
b モデルがゆっくりと前方に歩く様子
c モデルが両手を腰に当てて歩き、立ち止まって、手を腰に当てたまま、肩を揺らす様子
d モデルが腕を下ろして揺らしながら歩き、やや斜め前方を向いて立ち止まって、左右に向きを変えながら肩と下ろした腕を揺らす様子
e モデルが左手に持った紙袋から右手で中身を出し、左手に移し替えた上、右の手の平を広げて耳に当て、さらに、体の横で両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりをした上、左手に持っていた物を右手で投げる様子
f モデルが両手を腰の高い位置に当てて歩き、立ち止まって体をひねった後、後ろを向き、歩きながら毛皮のコートを脱ぐ様子

裁判所は、上記 a~fの振り付けのいずれについても、ファッション・ショーにおけるモデルのポーズ・動作として特段目新しくなく、作成者の個性が表現として表れているものとは認められないと判断しました。

 ⑥上記 a~eの化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート
裁判所は、上記ア~ウのいずれもありふれたもので創作性が認められず、または創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われていると認められず、これらの各要素が組み合わされることにより、作成者の個性の表出と言える新たな印象が生み出されているとは認められないと判断しました。

 ⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像

  出演順序の内容
a 8名のモデルが、それぞれ2着ないし3着(合計20通り)の衣装を身に着けて出演
b 出演順序は、モデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等の便宜的な要素を考慮して決定
c 出演順序は、ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に、その次はシックに、その後は再びカラフルに等)も考慮して決定

裁判所は、上記 a~cの出演順序には、思想又は感情が創作的に表現されているとは認められず、また、仮に創作性が認められるとしても、本映像はファッション・ショーの各場面を順不同に流したもので、上記出演順序については本映像からは感得できないと判断しました。

また、裁判所は、背景映像の写り込みについて、背景映像がややぼやけて映っており、本映像と原告の主張する背景映像とが同一であるか否かも判然とせず、また映る時間が数秒程度と極めて短いことなどから、背景映像の具体的内容を把握するのも困難であると判断しました。

(3) 小括

以上、上記7点のいずれについても著作物性は認められず、したがって著作物性が認められることを前提とするマックスの著作権(公衆送信権)・著作者人格権の侵害は認められませんでした。なお、著作隣接権(放送権)・実演家人格権(氏名表示権)の侵害も認められていません *3


■ファッション・ショーは著作権で保護されるのか/保護すべきか

まず留意すべきなのは、この判決では、ショーで具体的に使用されたメイクやヘアスタイル、コーディネート、振付等について、本映像に写り込んだ限度でのみ著作物性が判断されており、一般論として、ファッション・ショーにおけるメイクやヘアスタイル、コーディネート、振付にはおよそ著作物性が認められないと判断されたわけではありません。メイクやコーディネート等の著作物性について言えば、判決の射程はかなり限定的なのではないでしょうか。

次に、メイクやコーディネート等について、これらに著作権が認められるということは、すなわち当該メイクやコーディネート等について他の人が自由に利用できなくなるということを示します。例えば、判決でも指摘されているとおり、服やアクセサリーは購入者が自由に組み合わせることが予定されていますが、そのコーディネートに著作権による拘束力を広く及ぼしてしまうと、ショーや雑誌等のメディアでのスタイリングに支障をきたす可能性も考えられます。メイクについても、人の顔に施す以上、色の選択、アイメイクやリップメイクの乗せ方などには一定の制限があり、広く著作権を認めてしまうと、商用では自由にメイクを行えなくなる可能性があるでしょう。ヘアスタイルについても同様です。

判決で、メイクやヘアスタイルについて「一般的」であるが故に創作性が認められないとされた点や、コーディネートについて「独自の個性の表れと言える特殊又は特徴的な点」がなければ創作性が認められないとされた点は、購入者や利用者の自由をある程度残す趣旨とも考えられます。(ただ、本件のメイクやコーディネートについて具体的な検討をほぼ行われておらず、事案に踏み込んだ判断があればより説得的だったように思います。)

さらに、振り付けについては、社交ダンスの振り付けの著作物性に関する裁判例として、「Shall we ダンス?」事件(東京地裁平成24年2月28日)が参考になります。同事件の判決では、社交ダンスの振り付けについては、個々のステップや身体の動き自体には著作物性は認められないものの、ステップを組み合わせてアレンジするなどして一つの流れのあるダンスについては、それが単なる既存のステップの組み合わせにとどまらない独創性を備えた場合には、著作物性が認められるとされました。同判決については、「独創性」とは何か、どの程度のものが求められるのかやや不明ですが、上記の典型的なファッション・ショーにおけるモデルのランウェイの歩き方や身振りなどは、服を見せるという目的から制約があるほか、伝統的にある程度セオリーも見られるところです。したがって、これらの振付について著作物性が認められるのは相当に難しいのかも知れません。

加えて、以上のショーを構成する各要素の検討とは異なり、化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のショー全体のコーディネートについて、個々の要素を有機的結合体と考えて、ショーそのものを一個の著作物と考えることも理論上考えられそうです(文化法研究会『舞台芸術と法律ハンドブック』芸団協出版部、P49〔桑野雄一郎執筆部分〕、福井健策・二関辰郎『ライブ・エンタテインメントの著作権』社団法人著作権情報センター、P109)。ただ、これも映画や演劇と比較したときに、ショー全体を一つの作品と言えるだけの一体性があるかどうか、検討が必要でしょう。


■おわりに―ファッションと法

今回はファッション・ショーについての判決を取り上げましたが、ファッション・デザインについては、いわゆる「応用美術」との関係で、興味深い議論もあります。すなわち、ファッション・デザインは、純粋美術とは異なる、衣服という実用品且つ大量生産品のための表現として応用美術とされ、著作権による保護は十分には受けてきませんでした(原則として、意匠権による保護)。
しかし、著作権による制限を受けなったが故に、ファッション・デザインは先人のデザインのリミックスやオマージュを文化的のみならず法的にも受け入れ、今日目覚ましい発展を遂げているとの見解もあります(ジョアンナ・ブレイクリー『ファッション界の自由な文化から学ぶこと』*4

近年、ファッションと法についての論考も(アメリカ法を中心に)多く発表されるようになっていますが、ファッション・デザインについての知的財産権の保護をより強く主張する見解もあれば、逆に模倣を広く認めてイノベーションに繋げるべきであるとする見解もあるようです。近時商標法や意匠法の改正が検討されている日本でも、今後ファッションにおいてどのような法的解釈が可能で、また法制度が望ましいのか、長い時間をかけて考えて行く必要がありそうです。
本稿がその一端になれば幸いです。

以上



*1:
Guillermo C. Jimenez, Barbara Kolsun『Fashion Law: A Guide for Designers, Fashion Executives and Attorneys』(Fairchild Books, 2014)。なお、第2版も2014年3月13日に刊行予定。

*2:
ファッションと法を取り扱った例として、筆者自身が関わるものであるが、「ファッションは更新できるのか?会議」。ファッションと法を巡る様々な問題や、法的な視点がファッションに与える創造性について、トピックの一つに取り上げている

*3:
著作隣接権(放送権)及び実演家人格権(氏名表示権)については、上記7点が「実演」に該当することが権利保護の前提になりますが、「実演」とは、基本的に「著作物を...演ずること」(著作権法2条1項3号)であり、上記7点が「著作物」でない以上、結局「実演」にも該当しないことになります。なお、実演には「これに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」(同条項カッコ書き)も含まれ、厳密には「著作物」でない場合でも「実演」となる場合はありますが、本件では原告の主張から、これに該当する事実が認められませんでした。

*4:
例えば、ファッション・ブランドTHEATRE PRODUCTSによるコレクション/プロジェクト「Theatre, yours」では、通常は公開されない服の型紙をあえて公開し、さらに型紙にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを付与することで、型紙から作られる服やそのリミックスを広くシェアしようという試みが行われた。


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