2009年5月22日
「そのメルマガ、大丈夫ですか? - 特定電子メール法の改正」
弁護士 唐津真美(骨董通り法律事務所 for the Arts)
■特定電子メール法とは
迷惑メール対策として制定された法律があるのはご存知でしょうか?正式名称は「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」という法律です(略称:「特定電子メール法」)。
特定電子メール法は、受信者が望まない広告・宣伝メール(いわゆる「迷惑メール」)が大量に送りつけられるという問題に対応するために、平成14年に制定されました。その後一部の改正を経て、平成20年にも改正法案が可決され、平成20年12月1日から施行されています。(条文の詳細については、http://www.soumu.go.jp/menu_hourei/s_houritsu.html で入手できます)。
改正された特定電子メール法により、今まで適法とされてきたメルマガ等の広告・宣伝メールの送信が違法となる可能性がありますので、以下、今回の改正箇所を含めて、特定電子メール法について少し詳しく見ていきましょう。(以下の説明は、改正特定電子メール法に関して総務省が公表した「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」に基づくものです。より詳細な内容を知りたい方は、ガイドラインの本文http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2008/pdf/081114_4_bs1.pdf をご覧ください。)
■特定電子メールとは
特定電子メール法が規制の対象としている「特定電子メール」とは、「送信者が自己または他人の営業につき広告又は宣伝を行うための手段として送信をする電子メール」と定義されています。電子メールの内容自体が営業上のサービスや商品を広告したり宣伝したりするものであれば、当然に特定電子メールに該当することになります。さらに、メール自体にはサービス・商品の広告・宣伝文言が含まれていなくても、メールの送信目的に、サービス・商品等を広告・宣伝しているウェブサイトへの誘導が含まれている場合には、その電子メールは特定電子メールに該当するので要注意です。企業やビジネスを行っている個人がメルマガを発行する場合、広い意味での特定電子メールに該当する場合が多いのではないでしょうか。
なお、特定電子メールは、「営利目的の団体又は営業を営む場合における個人」である送信者が送信する広告・宣伝メールと定義されていますので、財団・社団やNPO法人のような非営利団体が送信する電子メールは特定電子メールには該当しないと考えられます。
■オプトイン方式による規制
今回の改正前の特定電子メール法では、送信者は、特定電子メールの送信をしないように求める内容の通知をしてきた受信者に対して特定電子メールの送信をしてはいけないと規定されていました。これは一般的に「オプトアウト」と呼ばれる方式です。送信者としては、まず不特定多数にメルマガ等の広告・宣伝メールを出して、そのうち一部の受信者から「受信を希望しない」という通知があった場合には、通知をしてきた受信者に対しては以後広告・宣伝メールを出さない、という対処をすれば良かったのです。
ところが、今回の法改正で、規制の方法が大きく変わりました。改正法の下では、原則として、「あらかじめ特定電子メールの送信を求めるか、または特定電子メールの送信に同意する内容の通知をしてきた者に対してのみ、特定電子メールを送信することができる」ということになったのです。この方式は「オプトイン」と呼ばれています。送信者としては、とりあえず不特定多数に広告・宣伝メールを送る、ということはできず、広告・宣伝メールの送信に先立って、相手が広告・宣伝メールの受信を希望しているか、少なくとも受信することに同意しているかどうかを確認しなくてはいけないことになったのです。「『いやだ』と言っている人に送らなければ良い」方式から「『いいよ』言っている人にだけ送る」方式へ変更したのですから、これは大きな方針転換です。このような方針転換の理由の1つとして、先進国の多くがオプトイン方式による規制を行っていることが挙げられています。
なお、一度特定電子メールの受信に同意した受信者や、後で述べる例外規定に基づいて特定電子メールを受信した受信者が、後日あらためて「特定電子メールの受信を希望しない」という通知をしてきた場合、このような受信者に対して以後特定電子メールを送信することはできません。したがって、今回の法改正は、「オプトアウト規制からオプトイン規制に変更した」というよりも、「オプトアウト規制から"オプトイン規制+オプトアウト規制"に変更した」という方が正確な説明といえます。
■適正な「同意」を得るには
受信者の側からメルマガ等の広告・宣伝メールの受信を希望する旨の通知がある場合は、その通知の内容が問題になる可能性は低いでしょう。しかし、送信者が、受信者にはたらきかけて「特定電子メールを送っても良い」という同意を得る場合は、後日のトラブルを避けるためにも、適正に同意を取得することが必要になります。少なくとも、広告・宣伝メールの送信が行われることと、送信者が誰かという点は明確に表示する必要があります。
同意を得るにあたってもう1つ注意すべき点は、広告・宣伝メールを送信するための同意を取得・確認するために電子メールを送信する場合、そのメール自体が、広告又は宣伝を行うための手段として送信される特定電子メールに該当するということです。したがって、同意の取得・確認のために電子メールを送信することができるのは、事前の同意を取得した場合と、以下で説明するオプトイン規制の例外に該当するが念のため同意を得ようという場合に限られることになります。
■オプトイン規制の例外
今までの説明を読んで、これからはメルマガの発行が難しくなると感じた方も多いと思います。しかし、改正特定電子メール法には、オプトイン規制の例外も規定されています。(1)電子メールアドレスの通知をした者、(2)取引関係にある者、又は(3)自己の電子メールアドレスを公表している団体又は営業を営む個人、に対しては、特定電子メールを送信することができる、という規定になっているのです。これからメルマガを発行しようと考えた場合には、これらの例外が重要な意味を持つ可能性がありますので、以下、その中身を見ていきましょう。
まず、(1)の「電子メールアドレスの通知をした者」とは、原則として書面で自己の電子メールアドレスを通知した者を意味します。この場合、書面を提供した側は、相手から広告・宣伝メールを含む電子メールが送信されてくることを予想できると考えられるので、書面の提供を受けた側は、それ以上の同意を得ずに、広告・宣伝メールを送信できると規定されたのです。書面による通知というと大袈裟な感じがしますが、総務省のガイドラインは、電子メールアドレスの入った名刺を渡す場合にも、「書面による電子メールアドレスの通知」に該当するとしていますので、実際には、この例外規定の対象者が多数に及ぶ可能性があります。
(2)の「取引関係にある者」の例としてガイドラインが挙げているのは、金融機関と顧客の関係において、顧客が金融機関に口座を開設し、継続的に金融商品等の購入等を行っている場合です。このような場合には、顧客としても、金融機関から新たな金融商品の案内等の広告・宣伝メールが来ることを予想していると考えられるので、オプトイン規制の例外として規定されたのです。現時点では継続的な取引関係がなくても、今後取引の継続が予定されているような場合には、この例外に該当する可能性があります。
(3)は、インターネット上で電子メールアドレスを「公表」している団体、又は営業を営む個人に特定電子メールを送信する場合に適用される例外です。このような団体や個人に対する広告・宣伝メールの送信は、ビジネス慣習上も一定の範囲で許容されていると考えられることから、オプトイン規制の例外として規定されています。ただし、メールアドレスを公表しているウェブサイト上に「広告・宣伝メールはお断りします」と併記されているような場合にはこの例外規定は適用されませんので、その団体・個人に対して特定電子メールを送信することはできません。
ちなみに、当事務所もメールマガジンを発行していますが、これも、申込をして下さった方と上記の規定に該当する方にお送りしているものです。
■最後に
特定電子メール法の改正により、メルマガを含む広告・宣伝メールの利用については、漫然と従来の方法を続けるのではなく、あらためてその適法性を見直すことが必要になりました。しかし、他方で、メルマガ等は、コストが安く効果的な広告・宣伝ツールになったり、受信者にとっても時に有益な情報元となるものですから、慎重になるあまり全面的に利用を取りやめるのももったいない話です。特定電子メール法を、今回の改正部分も含めてよく理解し、適切かつ効果的にメルマガ等を活用していくことが期待されています。
以上
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。