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コラム column

2014年7月31日

その他の知的財産法裁判IT法

「アップル対サムスン:世界各地の特許戦争の現状をざっくり整理!
 ~2014年7月版~」

弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)


1.さらにその後の動き

「アップルとサムスンが訴訟合戦をしているのはニュースで聞くけれど、どの国でどのような訴訟が提起されて、どのくらい勝ち負けが決まっているのだろう?」という素朴な疑問から、報道から見て取れる状況を「ざっくり」ご紹介するこのコラム。2013年4月の前回コラムから1年以上が経過し、この間に、日本においても新しい判決が出ました。訴訟が複雑に広がり、最近は停滞気味とも思われるこの国際特許紛争ですが、そろそろ情報のアップデートを心待ちにしていた(はずの)皆様のために、2014年7月時点での現状をご紹介させていただきます。ただし、前回と同様、全ての訴訟を捕捉しているわけではありませんので、ご注意下さい。

2.各国の状況の概略

各国の訴訟をざっくり整理すると、以下のようになります。(2014年7月31日現在)

*2014年8月7日追記*アップルとサムスンとの間で、2014年8月6日に、アメリカ以外の地域での訴訟を取り下げる旨の合意が成立しました(ニュース記事)。

注1:○は原告勝訴(一部勝訴を含む)、×は原告敗訴です。全ての権利について判断されていない可能性もありますので、必ずしも全面勝訴・全面敗訴という意味ではないことにご注意ください。

注2:前回、韓国を「痛み分け」という観点から×としておりましたが、「一部勝訴」という観点から○に変更しております。

    原告:アップル→被告:サムスン 原告:サムスン→被告:アップル
アメリカ 訴訟 仮処分○→解除
差止×
損害賠償○
(2014/3/7 9億3000万ドル
2014/5/2 1億9000万ドル)
→控訴
→アップル側のみ控訴は取下げ?
損害賠償○
(2014/5/2 16万ドル)
→控訴?
水際 ITC(国際貿易委員会)
侵害○(輸入禁止措置確定)
ITC(国際貿易委員会)
侵害○→大統領の拒否権で×
独禁 拒否権発動により調査終了  
韓国 訴訟 ○(2012/8/24)→控訴中 ○(2012/8/24)→控訴中
×(2013/12/12)→控訴?
独禁 ×(2014/2/27)  
EU 独禁 欧州委員会からの異議表明
(2012/12/21)
→サムスン、EU内でのアップル製品差止め取り下げ
 
ドイツ 訴訟 3件×、3件審理中?(マンハイム)
×(ミュンヘン2012/2/2)
×(デュッセルドルフ2012/2/9)
×(デュッセルドルフ2013/9/9)
3件×(マンハイム2012/1/20、1/27、3/2)
→控訴?
イギリス 訴訟 ×(not as cool 2012/7/9) ×(2013/3/7)→控訴
フランス 訴訟   ×(2011/12/8)
イタリア 訴訟   ×(2012/1/5)
オランダ 訴訟 1件○(2011/8/24)、
2件×(2012/10/24、
20123/1/17)
○(2012/6/20)
スペイン 訴訟 審理中? 審理中?
オーストラリア 訴訟 仮処分×(2011/12/9)
訴訟は審理中
審理中
日本 訴訟 1件×
(JP4204977、2012/8/31)、
中間○
(JP4743919、2013/6/21)、
不存在○
(JP4291328、2014/3/25)、
不存在○
(JP4642898、2014/5/16)
1件×
(JP3781731、2013/3/15)、
仮処分×
(JP3614846、2013/7/23)、
仮処分×
(JP4642898、2014/5/16)

以下では、各国の状況をニュース記事から簡単にご紹介します。


(1)アメリカ

●原告:アップル→被告:サムスン

【訴訟①】 
2012年8月24日、カリフォルニア州北部地区連邦地裁の陪審団は、アップルが主張している7件の特許のうち6件に侵害があり、うち5件には故意侵害があったと認定した上で、サムスンに10億5000万ドル(正確には、10億4934万3540ドル)の賠償金支払いを命じる評決をしました(ニュース記事)。また、アップルは、同年9月25日に、上記の賠償金に加え、新製品に関する7億700万ドル(約550億円)の損害賠追加で求める申立てや、サムスン製品26製品の販売を恒久的に差止めするよう要請しました(ニュース記事)。ただし、サムスン製品26製品の販売差止めに関しては、同年12月17日に、販売を差止めることまでは必要ないとして請求を棄却しています(ニュース記事)。なお、この点に関し、アップルは損害賠償の追加の申し立てを行いましたが、こちらは2013年1月30日に退けられているようです(ニュース記事)。また、サムスン側は、この特許権侵害の判断に対して、新しい審理を求める申立てを行っていたようですが、退けられているようです(ニュース記事)。
上記判決について、アップル側は、サムスン製品の販売差止めが認められなかったことについて控訴をし(ニュース記事)、2013年11月18日、アメリカ連邦巡回控訴裁判所は原審に判断を再考するよう求めました(ニュース記事)。しかし、報道によれば、原審の裁判所は2014年3月6日にこのアップルの請求を再度退けているようです(ニュース記事)。
このような状況の中、陪審員の10億5000万ドルの評決に関して、カリフォルニア州北部地区連邦地裁は、2013年3月1日、賠償金額28製品・10億4934万3540ドルのうち14製品・5億9890万8892ドルについては問題がないが、4億5051万4650ドル相当の部分に関して賠償金額を正しく算出するための新たな裁判を行うことを命じています(判決文ニュース記事1ニュース記事2)。その後、アップル側の異議申し立ての一部が認められたため、「15製品・約6億3900万ドルについては問題なく、13製品・約4億1000万ドルのみが再審理」となりました(ニュース記事)。再審理の結果、陪審員は、2013年11月21日、後者についてやや減額し、約2億9000万ドルを支払うよう命じる評決を下しました(カリフォルニア州北部地区連邦地裁HP(11-cv-01846)ニュース記事1ニュース記事2(英文))。その結果、2014年3月6日、上記の差止請求を認めなかった判決と同時に、裁判所はサムスンに対して、総額約9億3000万ドルの支払いを命じています(ニュース記事)。
なお、こちらはアップル・サムスン双方控訴をしているようですが、アップルについては2014年7月28日に控訴を取り下げたという報道がなされています(ニュース記事(英文)ニュース記事(和文)

【訴訟②】 
アップルはサムスンに対し、「Siri」の音声検索機能の技術等に関する4件の特許について、カルフォルニア州北部地区連邦地裁に別訴を提起しています(カリフォルニア州北部地区連邦地裁HP)。この事件では5件の特許(USP8074172、USP5946647、USP6847959、USP8046721、USP7761414)を侵害したとして、21億9000ドルの損害賠償を求めました(ニュース記事1ニュース記事2)。この事件に関し、Lucy Koh判事は、2つの訴訟が並行して行われる必要があるか疑問があるとし、他の事件の判断が出るまで、2014年3月に予定されている審理を凍結するよう要請していました(2013年2月15日報道。ニュース記事1ニュース記事2)。この要請をサムスンは支持していたようですが、アップルは異議を唱えていました。Koh判事は、2013年3月8日、本件の審理を継続することを決定しましたが、アップル及びサムスンに対して、法的主張と専門家証人の数を限定することによって、争点を大幅に減らすよう命じています(ニュース記事)。
2014年1月、カリフォルニア州北部地区連邦地裁は、サムスン製品のオートコンプリート機能について、アップル特許(USP8074172)の侵害を認める部分的判決を出しました(ニュース記事)。そして、陪審員は、2014年5月2日、サムスンが3件の特許(647、721、172)を侵害したと認めましたが、2件の特許(959、414)については特許侵害を認めず、結果として約1億1900万ドルの賠償を認めました(同じ判決でアップル側のサムスン特許の侵害も認めております(下記参照)。ニュース記事1ニュース記事2)。また、2014年5月23日、アップルはサムスン製品を恒久的に差し止めるよう裁判所に求めているようです(ニュース記事)。

【訴訟③<仮処分>】 
iPadのデザインが模倣されたとしてタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」の販売差止の仮処分が2012年6月26日に出され、サムスンはその取消しを求めていました(ニュース記事)。その最中、上記2012年8月の陪審判断において、タブレットのデザインに関する特許侵害がなかったと判断していた模様です。控訴審においては、同年 9月28日に、差止命令を解除すべきかをカルフォルニア州連邦地裁のLucy Koh判事に判断を委ね、Koh判事は、同年10月1日に、販売差止を解除しました(ニュース記事)。

【水際(ITC)】 
2011年7月、アップルは、アメリカの国際貿易委員会(ITC)に対して輸入禁止を求める提訴を行っており、2012年10月に特許権侵害を認める仮決定を下していました。しかしながら、ITCは2013年1月23日に同決定の内容を見直す旨発表し(ニュース記事)、同年3月26日に、マイク端子へのデバイス接続を検出する特許については非侵害、テキスト選択機能に関する特許は侵害との仮決定が出されました(ニュース記事)。同年5月、ITCは再度この仮決定を見直す方針を明らかにしたものの(ニュース記事)、最終的に、同年8月9日、アップルの特許をサムスンが侵害したとして、輸入・販売を禁止する限定的な排除命令と停止命令を発令しました(ニュース記事)。この排除命令に対し、オバマ政権は60日以内に拒否権を発動することができましたが、アップルのサムスン製品差止については拒否権は発動しませんでした(ニュース記事)。
サムスンは上記ITCの差止めを不服として、また、アップルは差止めの範囲を拡大するため、両者共に上訴していたようですが、2014年6月に両者の上訴は取り下げられ、サムスンの旧型製品について輸入禁止措置が確定しました(ニュース記事)。


●原告:サムスン→被告:アップル

【訴訟①】 
サムスンは、2011年6月、デラウェア州連邦地裁に、特許侵害に基づき販売差止め等の訴訟を提起しています(ニュース記事)。

【訴訟②】 
カリフォルニア州北部地区連邦地裁で、アップルがサムスンに対して21億9000万ドルの損害賠償を求めた訴訟の中で(上記アップル→サムスン【訴訟②】)、ビデオ伝送と画像ファイル整理の2件の特許侵害(USP5579239、USP6226449)があるとして約700万ドルの反訴を提起していました(ニュース記事1ニュース記事2)。この評決では、2014年5月2日、サムスンの1件(449)の特許侵害があったとして、アップルに対して賠償金約16万ドルを認めました(ニュース記事1ニュース記事2)。

【水際(ITC)】 
サムスンは、国際貿易委員会(ITC)に対し、アップル製品はサムスン特許4件(USP7706348、USP7486644、USP6771980、USP7450114)の侵害をしたとして提訴していました(このうちの2件の特許は、必須特許で、FRAND宣言にのっとったライセンス提供が求められています)。ITCは、2012年9月14日、いずれの特許の侵害も認められず、提訴を棄却する仮決定を示しました(ニュース記事)。 このITCの仮決定については、ITCにて同年11月19日に見直すことが合意され(ニュース記事)、委員6人全員による決定が2013年3月12日に出される予定でした。延期の末に、同年6月5日、上記のうち通信関連の特許1件(USP7706384)の侵害が認められ、旧機種(iPhone4、iPhone3GS、iPad 3G、iPad2 3G)ではあるものの、アメリカへの輸入禁止が命じられています(ニュース記事1ニュース記事2ニュース記事3)。この輸入禁止に関してオバマ大統領は、同年8月3日、大統領の介入としては26年ぶりとなる拒否権を発動しました(米国通商代表部書簡(PDF))。これに対して韓国産業通商資源省は憂慮を表明しています(ニュース記事)。
なお、上記ITCは特許権1件のみの侵害を認めております。サムスンはITCの決定を不服として連邦地方裁判所に抗告を行ったものの(ニュース記事)、2014年5月に棄却されているようです(ニュース記事)。

【独禁】 
このITCでの訴訟との関連で、サムスンが3G関連の必須特許を濫用し独禁法に違反しているのではないかとして、アメリカ司法省が調査を行っておりました。しかしながら、上記オバマ大統領の拒否権の発動により差止めの効力がなくなったことから、2014年2月この調査を終了する旨発表しています(ニュース記事)。



(2)韓国

【訴訟】 
ソウル中央地裁は、2012年8月24日、アップルとサムスン双方に対して、両者共に特許侵害があったとする判断を示しています(ニュース記事)。記事によれば、アップルがサムスン特許2件を侵害し、サムスンはアップル特許1件を侵害するとして、アップルに4000万ウォン、サムスンに2500万ウォンの損害賠償の支払いを命じました。また、アップルのスマートフォン「iPhone 4」とタブレットの「iPad 2」、サムスンのスマートフォン「Galaxy SII」「Galaxy Nexus」、タブレットの「Galaxy Tab」「Galaxy Tab 10.1」の韓国での販売を禁止したようです。この訴訟でサムスンが提起した特許は3G通信関連の標準特許であったようです(ニュース記事)。この判決では、サムスンの特許権行使について、FRAND宣言の準拠法はフランス法であり、その契約要件やFRAND宣言の解釈上ライセンス契約が成立しないこと、権利行使が禁反言・権利濫用に該当しないこと、さらに公正取引法違反にも該当しないことを述べているようです(詳細は、尹宣熙=鄭址錫「サムスン電子とアップルの間のスマートフォン事件におけるFRAND宣言の違反と権利濫用の問題について」根岸哲先生古稀祝賀『競争法の理論と課題 -- 独占禁止法・知的財産法の最前線』(有斐閣、2013)717頁以下参照)。
この判決につき、アップル側は同判決の強制執行停止の申立てを行い、2012年10月11日に、ソウル中央地裁は、50億ウォンの供託を条件に強制執行を停止する決定をしたようです(ニュース記事)。なお、アップルとサムスンは双方共に判決を不服として控訴していますが(ニュース記事)、2013年12月時点では控訴審の審理はまだ進められていないようです(ニュース記事)。
上記訴訟とは別に、サムスンはアップル製品の差止め・損害賠償を請求していました。2013年12月12日、ソウル中央地裁は、ショートメッセージの表示方法やメッセージのグルーピング機能などの3件の特許のうち2件を無効、1件を非侵害としてサムスン敗訴の判決を下しています。サムスンは控訴する方針のようです(ニュース記事1ニュース記事2)。

【独禁】 
2012年4月、アップルは韓国公正取引委員会に対して「標準特許の侵害禁止請求訴訟はアップルの事業活動を妨害する」と申告をしておりました。こちらについては、2014年2月27日、サムスンの行為は公正取引法の違反に該当しないと判断されています(ニュース記事)。



(3)EU

【独禁】
2012年12月19日、サムスンは英・仏・独・伊・蘭の5か国でのアップルを相手とする訴訟のうち、必須標準特許に基づき販売差止を求める部分につき取り下げる(ただし、損害賠償請求は存続させる)旨のコメントを表明したようです(ニュース記事ニュース記事(英文))。この記事によれば、サムスンは「自社の技術を公平、合理的、非差別的という原則に従ってライセンス提供することを今後も引き続き心がけるつもりであり、裁判所よりも市場で争う方がよいと強く考えている。この精神に基づき、サムスンは、消費者の選択を保護することを目的として、欧州の裁判所において係争中のわれわれの標準必須特許に基づくAppleに対する販売差し止め請求を取り下げることを決定した。」とコメントしています。その直後の2012年12月21日に、欧州委員会はサムスンが標準特許で販売差し止めを求めたのは独禁法違反にあたるとして正式な異議表明書を送付しています(ニュース記事(PDF))。そして、サムスンは、2014年4月29日、サムスンの通信関連の標準特許について「向こう5年間にわたり欧州経済領域(EEA)内で,特定のライセンスの枠組みに合意するいかなる企業に対しても侵害差止請求を行わない」と「確約」したとのことです(ニュース記事(PDF))。これにより、サムスンへの独禁法違反による制裁金は見送られた模様です。



(4)ドイツ

●原告:アップル→被告:サムスン

【訴訟①<マンハイム>】
アップルはサムスンに対してこれまで6件の特許侵害に基づき訴訟を提起しているようです。このうち4件については判決を留保し、スライド式ロック解除機能に関する特許1件については、2012年3月2日に、マンハイム地裁が特許権侵害なしと判断しています(ニュース記事)。 また、アップルが提起したタッチパネル操作特許に関する訴訟で、マンハイム地裁は、同年9月21日、サムスンの特許侵害はなかったと判断しています(ニュース記事)。さらに、2013年12月12日には、キーボードの言語選択に関する特許権についても、サムスンの特許侵害はなかったと判断したようです(ニュース記事)。

【訴訟②<ミュンヘン>】
アップルは、マンハイムの他に、ミュンヘンにおいてもタッチスクリーン関連特許の訴訟も提起しておりましたが、ミュンヘン地裁は、2012年2月2日、特許が無効である可能性が高いとして、特許権侵害はないと判示しました(ニュース記事)。

【訴訟③<デュッセルドルフ>】
さらに、アップルは、デザインに関し、「Galaxy Tab 10.1」を対象に販売差止めの仮処分を行い、デュッセルドルフ地裁は2011年8月9日に、オランダを除くEUにおける販売の仮差止めを命じています(ニュース記事)。これに続き、アップルは、「Galaxy Tab 10.1N」もデザインを模倣したとして、販売差止めをデュッセルドルフ地裁に提起していましたが、2012年2月9日、「Galaxy Tab 10.1N」に関しては、アップルの権利を侵害していないとの判断を示しています。こちらは控訴され、デュッセルドルフの高等裁判所は、2012年7月25日に原審を支持する判断を出しています(ニュース記事)。

【訴訟④<不競法>】
この他、アップルはサムスンに対して、ドイツの不正競争防止法に基づき、サムスンの7つの製品(Galaxy S I、 S Plus、 S II、 Galaxy Ace、 Galaxy R、Galaxy Wave M、及びGalaxy S Wi-fi 4.0)を訴えていたようですが、2013年9月19日、デュッセルドルフ地裁はこれらの製品は同法違反ではないと判断しました(ニュース記事)。


●原告:サムスン→被告:アップル

サムスンは、アップルに対し、特許3件の侵害があったとして訴訟を提起していましたが、マンハイム地裁は、2012年1月20日判決、1月27日判決及び3月2日判決により、いずれも特許を侵害していないという判断を示しています(1月20日判決記事1月27日判決記事3月2日判決記事)。報道によれば、控訴する予定である旨記載されています。なお、2013年11月、サムスンの3G標準特許(EP1679803)の訴訟において、連邦特許裁判所の特許有効性の判断を待つため、マンハイム地裁が訴訟を中断する決定をしたとの情報もありました(ニュース記事)。



(5)イギリス

●原告:アップル→被告:サムスン

アップルがサムスンに対し、「iPad」のデザインを侵害したとして訴訟を提起していましたが、2012年7月9日、イギリス高等法院は、サムスンがアップルのデザインを侵害していないと判断した上で、アップルのイギリスのホームページ・新聞・雑誌に、アップル製品を模倣していないことを告知するよう命じました(ニュース記事:日本語英語)。この命令は、「サムスンの商品はアップルほどクールではない(not as cool)から、サムスンのタブレットはiPadと混同しない」と言及していることでも、話題にもなりました。その後、アップルは告知文を掲載したものの、その内容や掲載方法がイギリス高等法院の命令に沿っていないものと判断され、最終的に、告知文を適切な内容・態様のものへ修正するとともに、上記訴訟におけるサムスン側の弁護士費用をアップルが負担するよう命じました(ニュース記事)。実際に掲載された謝罪文は こちらの記事をどうぞ。


●原告:サムスン→被告:アップル

アップル製のモバイル端末で使用されている3G関連技術が、サムスンの保有する3Gネットワーク関連のデータ送受信に関する3件の特許権(いずれも「必須特許」に分類されるもの)の侵害にあたるとしてアップルを訴えていた訴訟で、イギリスの裁判所は2013年3月7日、3件の特許権(EP1005726、EP1714404、EP1357675)すべてについて無効との判断をし、サムスンの訴えを退ける判決を下しました(ニュース記事)。なお、前記の通り、これに先立ち、2012年12月19日に販売差止を求める部分につき取り下げる(ただし、損害賠償請求は存続させる)旨のコメントを表明しています。
サムスンは、3つの特許権のうち2つの特許権(EP1005726、EP1714404)について控訴をしているようです。ただ、その特許はヨーロッパ特許庁で訂正中であることから、裁判所は、2014年3月18日に、控訴審の審理手続きを停止することを認めました(ニュース記事)。



(6)フランス

●原告:サムスン→被告:アップル

サムスンからアップルに対し、2011年10月、サムスンが有するW-CDMA方式関連の特許2件を侵害しているとして販売差止め等を求めていましたが、2011年12月8日、パリ大審院はサムスンの請求を棄却しています(ニュース記事)。なお、その後の販売差止分の取り下げについては前記の通りです。



(7)イタリア

●原告:サムスン→被告:アップル

サムスンは、2011年10月5日、ミラノ地方裁判所に対してW-CDMA方式関連の特許に基づき販売差止めの仮処分を求めていましたが、2012年1月5日、サムスンの仮処分を棄却しています(ニュース記事)。



(8)オランダ

●原告:アップル→被告:サムスン

アップルは、サムスンに対し、ハーグ裁判所において特許権侵害に基づき販売差止めの仮処分を行っていましたが、2011年8月24日、裁判所は指で写真を送るフォトフリッキングの特許権侵害を認めています(ニュース記事)。この仮処分により、「Galaxy S」、「Galaxy SII」、「Galaxy Ace」などが販売停止となりました。なお、サムスンは後日、この発明を使わない機種を販売したようです(ニュース記事)。
また、同じくハーグ裁判所でアップルが原告となり、サムスンを被告として争われたスマートフォンやタブレットの操作に関するマルチタッチ技術に関する特許侵害訴訟では、2012年10月24日、アップルの訴えを退けています。(ニュース記事)。
さらに、サムスンの「Galaxy Tab」がアップルのデザイン特許を侵害したとして訴訟が提起され、サムスンはこれに対して特許権非侵害確認訴訟を提起していましたが、2013年1月17日、ハーグ裁判所は「Galaxy Tab」は特許権侵害にはならない旨の判断を示しています(ニュース記事)。


●原告:サムスン→被告:アップル

サムスンは、3G/UMTS通信技術関連の特許など4件の特許に基づき、販売差止めを請求していました。ハーグの裁判所は、2012年6月20日、1件(EP1188269)については特許侵害を認めました。しかし、当該特許は必須特許であるから、他社へのライセンスと公平、妥当、非差別的なライセンス料を定めるべきとする判断を示しています(ニュース記事)。なお、その後の販売差止分の取り下げについては前記の通りです。


(9)スペイン

2012年9月1日付日経新聞電子版の記事では、スペインにおいても、アップルのデザイン関連でサムスンを提訴しているとの記載があります(ニュース記事)。また、サムスンも、アップルに対して訴訟を提起しているようです(ニュース記事)。



(10)オーストラリア

●原告:アップル→被告:サムスン

アップルは、特許権侵害に基づき「Galaxy Tab 10.1」についてのオーストラリアでの販売差止め仮処分を申し立てており、2011年10月13日に連邦裁判所が販売差止めを認めました(ニュース記事)。これに対し、サムスンから不服申立てがあり、連邦裁判所は、2011年11月30日に販売差止めの仮処分を破棄しています。その後、販売差止めの仮処分の継続を求めたアップルの上告を受け、オーストラリア連邦最高裁判所は、同年12月2日に販売差止め仮処分をしました。しかし、同月9日、同裁判所により販売差止仮処分は解除されました(2011年12月2日付、及び同月9日付日経新聞電子版)。

また、アップルは、同年7月、タッチスクリーン技術に関する特許などで訴訟を提起しており、現在審理中です(ニュース記事裁判経緯)。2013年2月28日付けの記事においても、ピンチズームやスライドロックに関する機能の特許に関して、訴訟が係属しているようです(ニュース記事。この記事によれば、サムスンが、アップル特許に対してオーストラリア特許庁に無効審判を提起しているように読める記載もあります。おそらくは、この事件この審判 ではないかと思われます)。


●原告:サムスン→被告:アップル

サムスンは、3G技術関連の特許3件につき、侵害訴訟を提起しており、現在審理中です(ニュース記事。おそらく、この事件 ではないかと思われます)。なお、FRANDの競争法の訴訟に関しては(裁判経緯)、2013年11月4日、裁判で追加の証拠をサムスンが提出することを認めない中間判決が出されているようです(ニュース記事判決文)。
いずれにしても、現時点では決着していないようです。



(11)日本

●原告:アップル→被告:サムスン

【訴訟①】 
シンクロ方法の特許(第4204977号)につき、2012年8月31日、東京地裁は、サムスンがアップルの特許を侵害していないと判断を示しました(2012年8月31日の東京地裁判決の内容は前々回のコラムにて紹介しております)。なお、サムスン製品の販売差止めを求める仮処分も申立てているようですが、その申立ては却下されているようです(ニュース記事)。控訴審では、原審の判決を支持して、アップルの控訴を棄却しています(知財高裁2013年6月25日判決。判決文(PDF))。

【訴訟②】 
次に、「タッチスクリーンディスプレイにおけるリストのスクローリング、ドキュメントの並進移動、スケーリング及び回転」に関する特許(第4743919号)について、特許は無効ではないとし、かつGalaxy旧機種3種類の特許権侵害を認める中間判決が出されています(東京地裁2013年6月21日判決。判決文(PDF))。

【訴訟③<債務不存在確認>】 
「無線通信システムにおけるアップリンクサービスのための利得因子の設定方法」という特許(第4291328号)について、アップルがサムスンに対して損害賠償を有しないことの確認を求める訴訟(債務不存在確認訴訟)を提起していましたが、iPhone4S、iPhone4およびiPad2 Wi-Fi+3Gモデルは発明の技術的範囲には含まれていないとして、アップル側の主張を認める判決が出されています(東京地裁2014年3月25日判決。判決文(PDF))。

【訴訟④<債務不存在確認>】 
サムスンは、携帯電話のパケット通信で効率的にデータを送信する技術に関する特許(第4642898号)について、アップルに差止め等を求める仮処分の申し立てをしていましたが、2012年9月16日、アップルは、東京地裁に同特許に基づく損害賠償について債務不存在確認訴訟を提起しました。その判決が、2013年2月28日に出されました(判決文(PDF))。同判決では、アップルの特許侵害はあったものの、権利濫用を理由に、損害賠償を支払う義務はないと判断されました(前回のコラムでの解説はこちら)。この判決に対しサムスンは控訴し、知財高裁は、FRAND条件と損害賠償請求について広く一般から意見を公募した上で、2014年5月16日にFRAND条件以上の損害賠償請求は認めないとする判決を出しました(判決文(PDF))。なお、898特許で仮処分命令申立処分却下に関する抗告訴訟を行っておりましたが、こちらはサムスン側敗訴(抗告棄却)となっています(iPhone4およびiPad2 Wi-Fi+3Gモデルの判決文(PDF) 、iPhone4Sの判決文(PDF))。


●原告:サムスン→被告:アップル

【訴訟①】 
サムスンは、アプリケーションのダウンロードに関する特許(第3781731号)について、iPhone等の販売仮処分の申立てをしていました。同事件について、2012年9月14日に東京地裁で仮処分命令申立は却下されました。さらに、その控訴審である知財高裁は、2013年3月15日にサムスンの申立てを棄却した模様です(ニュース記事)。

【訴訟②<仮処分>】 
サムスンは「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」特許(第4642898号)についても差止め等の仮処分命令の申し立てを行っていましたが、上記のとおり、2012年9月24日に一部取り下げを行っています。また、アイコンに関する特許(第3614846号)についてサムスンが仮処分命令の申立てを行っていましたが、特許は無効であるとし申立てが却下されていました。これに対し、サムスンは控訴の上、特許の訂正を行いましたが、依然として進歩性を欠くとして棄却されています(知財高裁2013年7月23日判決。判決文(PDF))。



3.知財高裁2014年5月16日判決(判決文(PDF))の概要

アップルは、「サムスンに対して損害賠償を支払わなくてもよいことを確認してほしい」という、債務不存在確認訴訟を提起しました。今回の2014年5月の判決は、東京地裁2013年2月28日の控訴審判決です。

原審である東京地裁は、アップル製品はサムスン特許を侵害しているが、その特許権に基づく損害賠償請求を行使することは権利濫用、つまりサムスン側の損害賠償は認められないと判断しました。また、同特許の仮処分も却下しています。

これに対し、知財高裁は、アップル製品「iPhone4」と「iPad2 Wi-fi+3Gモデル」はサムスン特許(特許第4642898号)を侵害し、FRAND宣言によってもライセンス契約は成立しないとしました。その上で、損害賠償については、「FRAND条件でのライセンス料相当額を超える部分では権利の濫用だが、ライセンス料相場の範囲内なら権利の濫用にはあたらないので損害賠償が認められる」として、995万円5854円+遅延利息を超えては存在しないことを確認しました。こちらの判決については、現時点でもさまざまな解説が出ております(たとえば、「知財高裁詳報(アップル対サムスン(iPhone)事件)」Law & Technology64号(商事法務、2014)80頁、田村善之「FRAND宣言をなした特許権に基づく権利行使と権利濫用の成否(1)(2)」NBL1028号27頁、1029号95頁(商事法務、2014)など))。そのため、判決の詳細な解説はそちらをご覧頂き、本コラムでは本訴訟で争われた争点7つをざっくりと説明します。


● 争点1:アップル製品が特許の技術的範囲に含まれるか否か

判決:本特許は「代替的Eビット解釈」を具現化したものであるが、それを使っていないiPhone3GSとiPad Wi-Fi+3Gは非侵害。
一方、iPhone4とiPad2 Wi-Fi+3Gは「代替的Eビット解釈」を使っており侵害。


● 争点2:特許権の間接侵害(特許法101条4号、5号)が成立するか

判決:非侵害の製品(iPhone3GSとiPad Wi-Fi+3G)を輸入・販売しても間接侵害にあたらない。侵害製品(iPhone4とiPad2 Wi-Fi+3G)については間接侵害の判断をしても意味がないので判断しない。


● 争点3:特許は無効だから権利行使が制限されるという特許法104条の3
第1項の規定が適用されるか

判決:5つの無効事由全部排斥、サムスン特許は有効。


● 争点4:この製品で使われているインテルのチップはサムスンとインテルの
ライセンス契約でライセンスをうけたチップだから、特許権の消尽により
権利行使できないか

判決:そもそもサムスンとインテルの契約が切れているし、切れていなくても、問題となっているチップはサムスンとインテルの包括ライセンス契約対象外だから、前提において主張失当。仮にライセンス契約が終了しておらずそのチップが対象となるとしても、特許権の行使が制限される理由はない。その理由は、製品が「そのままの形態を維持する」場合には権利行使はできないが新たに製品を生産したような場合には特許権の行使が可能、但し黙示の許諾があった場合を除く、という一般論を述べた上で(BBS最高裁判決(最判1997年7月1日)・インクカートリッジ事件(最判2007年11月8日)参照)、本件ではチップに色々なものを取り付けており新しい製品を生産し、かつ黙示の許諾がないためとする。


● 争点5:サムスンのFRAND宣言により特許権のライセンス契約が
成立するか

判決:FRAND宣言はライセンス契約の申し込みではなく、ライセンス契約は成立しない。今回問題となるライセンス契約の準拠法は通則法7条によりフランス法と考えられるが、このFRAND宣言にはライセンス料率・地理的範囲・期間等、ライセンス契約によって定まっているべき条件が決まってないことや、ポリシー制定過程の事情を考慮すると申し込みとはいえない。また、フランス法上の第三者のためにする契約ともいえない。


● 争点6:サムスンによる特許権に基づく損害賠償請求権の行使が
権利濫用になるか

判決:①FRAND条件でのライセンス料相当額を超える部分
  →権利濫用にあたる→請求できない。
②FRAND条件でのライセンス料相当額の範囲内
  →権利濫用ではない→請求できる。

①の理由:FRAND宣言をした特許については、製造販売者等は特許権者との交渉の後FRAND条件でライセンスを受けられると信頼し、その信頼は保護に値するけれども、特許権者は、特許についてFRAND宣言をしたのだから、FRAND条件を超えた損害賠償を認める必要性は高くないため。なお、相手方がFRAND条件によるライセンスを受ける意思を有しないなどの特段の事情があれば、FRAND条件を超える損害賠償請求についても許容される。

②の理由:製品の製造・販売者は、FRAND条件でのライセンス料相当額について将来支払うべきことを想定して事業を開始しており、かつ特許権者に対して適切な補償を確保すべきであるため。ただ、FRAND宣言にいたる経緯やライセンス交渉過程等で現れた事情を勘案した結果、損害賠償請求権が発明の公開に対する対価として重要な意味を有することを考慮してもなお、ライセンス料相当額の範囲内の損害賠償請求を許すことが著しく不公正であるなどの特段の事情があれば、権利濫用となりうる。


● 争点7:損害額

判決:(売上高)×(必須特許を使用するにあたり一つ一つのライセンス料が積み重なりロイヤルティが過大になりすぎることを考慮した上限の設定(累積ロイヤルティ):5%)×(必須特許の割合:529分の1)をかけて計算すると、995万5854円となる。

以上が判決の概略です。
また、本訴訟では、裁判所が第三者から広く一般から情報または意見を募った点も話題になりました(意見募集のお知らせ(PDF)など)。アメリカには「Amicus Curiae(アミカスキュリエ)」(「法廷の友」という意味)という制度があり、それを日本法の枠で行ったものです(当事者が書証を集めて、裁判所に提出するという形をとっています。詳細は、小田真治「知的財産高等裁判所の大合議事件における意見募集(「日本版アミカスキュリエ」)について」判タ1401号(2014)116頁以下参照)。今回の意見募集では、8カ国の公的機関や個人から58通の意見書が届けられたとのことです(ニュース記事)。意見の概要は本判決文の最後に要約する形で簡単に触れられております。



4.まとめ

アップルとサムスンは、2014年の頭に和解に向けた交渉を行ったものの、結局和解合意には至らなかったようです(ニュース記事)。また、アメリカでの2014年5月の評決後、裁判官から再度和解の打診があり紛争解決状況について書面で提出されていますが、非公開の話し合いについてはその内容はわかりません(ニュース記事)。

このように、アップルとサムスンとの間での和解は思うように進んでいないようにも見えますが、スマートフォン業界の特許の動きに目を向けると、2014年1月26日、サムスンとグーグルは広範囲の特許に関して相互の利用を合意しました(ニュース記事)。また、アップルとグーグルも、2014年5月16日、スマートフォンをめぐる特許紛争について和解をしたと報道されています(ニュース記事)。アップルがサムスン側に権利侵害として訴えている特許の中にはグーグルのAndroidに用いられている技術も含まれているとも報道されており、グーグルとアップルの和解は今回の訴訟にも影響が出てくる可能性があると考えられます。

現状からは、アップルとサムスンの訴訟は、アメリカを中心にまだまだ続いていくようにも思われます。しかし、これからはそれらの訴訟の行く末と共に、訴訟外での和解によるソフトランディングのゆくえにも注目が集まることでしょう。

*2014年8月7日及び8月8日追記*

アップルとサムスンは、2014年8月6日、アメリカ以外の地域での訴訟(オーストラリア、日本、韓国、ドイツ、オランダ、イギリス、フランス、イタリア)を全て取り下げることに合意しました(ニュース記事)。合意の内容については公表されておらず、ライセンスに関する合意は含まれていないようです(ニュース記事)。日本では、知財高裁1件と東京地裁の4件が訴えの取り下げにより終結したとのことです(ニュース記事)。訴訟提起時と比べるとスマートフォン市場シェアが減少しつつある両者の訴訟合戦は、巨額の賠償金が争われるアメリカにて最後の決着が図られることになりました。

以上

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