All photos by courtesy of SuperHeadz INa Babylon.

English
English

コラム column

2012年9月27日

競争法裁判国際IT・インターネット

「アップル対サムスン:世界各地の特許戦争の現状をざっくり整理!」

弁護士  諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)

※本コラムは旧バージョンです。
 最新版(2014年7月31日付け)のコラムはこちらをご覧下さい。



1.はじめに

2012年9月21日にiPhone5を発売し、その魅力的な商品により世界中を魅了するアップル。一方、2012年第2四半期のスマートフォン市場でアップルの2倍近いシェアを有するサムスン(ニュース記事)。アップルは、サムスンが製造するGalaxyがアップルの特許権などを侵害しているとして世界各国で訴訟を提起し、これに対抗するように、サムスンも、iPhoneやiPadなどを対象に、自社の特許権を侵害しているとして訴訟を提起しています。訴訟はヒートアップしており、現在、多くの国で様々な訴訟が繰り広げられています。先日、日本でもある特許訴訟の判断が東京地裁で示されましたが、本コラムでは、執筆時点(2012年9月26日時点)で、どの国でどのような訴訟が提起され判断されているのかにつき、報道から見て取れる状況を簡単にご紹介したいと思います(ただし、全ての訴訟を捕捉しているわけではないとも思われますので、ご注意下さい)。なお、以下では、裁判が仮処分や上訴審であっても、わかりやすさのため「原告」「被告」の名称を使い、ご説明します。

2.各国の状況の概略

各国の訴訟を本当にざっくり整理すると、以下のようになります。

  原告:アップル → 被告:サムスン 原告:サムスン → 被告:アップル
アメリカ 陪審団により巨額賠償の評決 審理中
韓国
ドイツ 2件。4件審理中
オーストラリア 仮処分。訴訟は審理中 審理中
イギリス (not as cool) -
フランス -
イタリア -
オランダ
スペイン 審理中? 審理中?
日本 1件。3件審理中 審理中

(○は原告勝訴、は原告敗訴です。全ての権利について判断されていない可能性もありますので、必ずしも全面勝訴・全面敗訴という意味ではないことにご注意ください)。

以下では、各国の状況をニュース記事から簡単にご紹介します。

(1)アメリカ
●原告:アップル→被告:サムスン
アメリカでは、iPadが模倣されたとしてタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」の販売差止の仮処分が2012年6月26日に出され、サムスンは取消しを求めていましたが、カリフォルニア州連邦地裁は、同年9月、その取消しの申立てを棄却しました(ニュース記事)。
上記の仮処分とは別に、2012年8月24日、カリフォルニア州連邦地裁の陪審団は、アップルが主張している7件の特許のうち6件に侵害があり、うち5件には故意侵害があったと認定した上で、サムスンに10億5000万ドル(約826億円)の賠償金支払いを命じる評決をしています(ニュース記事)。また、アップルは、2012年9月25日に、上記の賠償金に加え、新製品に関する7億700万ドル(約550億円)の損害賠償を追加で求める申立てを行いました(ニュース記事)。なお、上記記事によれば、サムスン側は、特許侵害の判断に対して、再審を求める申立てを行っています。

●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、デラウェア州連邦地裁に、特許侵害に基づき販売差止め等の訴訟を提起しています(ニュース記事)。なお、「iPhone5」が発売された2012年9月21日、サムスンは、LTE技術の特許を侵害したとして、iPhone5をアメリカでの訴訟の対象に加えるとの報道がありました(ニュース記事)。
この他、サムスンは、国際貿易委員会(ITC)に対し、サムスン特許4件(USP7706348、USP7486644、USP6771980、USP7450114)の侵害をしたとして提訴していましたが、2012年9月14日、いずれの特許の侵害も認められず、ITCにより提訴を棄却する仮決定が示されています(ニュース記事)。

(2)韓国
ソウル中央地裁は、2012年8月24日、アップルとサムスン双方に対して、両者共に特許侵害があったとする判断を示しています(ニュース記事1ニュース記事2)。記事によれば、アップルがサムスン特許2件を侵害し、サムスンはアップル特許1件を侵害するとして、アップルに4000万ウォン、サムスンに2500万ウォンの損害賠償の支払いを命じました。また、アップルのスマートフォン「iPhone4」とタブレットの「iPad 2」、サムスンのスマートフォン「Galaxy SII」「Galaxy Nexus」、タブレットの「Galaxy Tab」「Galaxy Tab 10.1」の韓国での販売を禁止したようです。

(3)ドイツ
●原告:アップル→被告:サムスン
アップルが提起したタッチパネル操作特許に関する訴訟で、マンハイム地裁は、2012年9月21日、サムスンの特許侵害はなかったと判断しています(ニュース記事)。同記事によれば、アップルはサムスンに対してこれまで6件の特許侵害に基づき訴訟を提起しているようです。このうち4件については判決を留保し、スライド式ロック解除機能に関する特許1件については、2012年3月2日に、マンハイム地裁が特許権侵害なしと判断しています(ニュース記事)。
ドイツにおいて、アップルは、マンハイムの他に、ミュンヘンにおいてもタッチスクリーン関連特許の訴訟も提起しておりましたが、ミュンヘン地裁は、2012年2月2日、特許が無効である可能性が高いとして、特許権侵害はないと判示しました(ニュース記事)。
また、アップルは、デザインに関し、「Galaxy Tab 10.1」を対象に販売差止めの仮処分を行い、デュッセルドルフ地裁は2011年8月9日に、販売の仮差止めを命じています(ニュース記事)。これに続き、アップルは、「Galaxy Tab 10.1N」もデザインを模倣したとして、販売差止めをデュッセルドルフ地裁に提起していましたが、2012年2月9日、「Galaxy Tab 10.1N」に関しては、アップルの権利を侵害していないとの判断を示しています(ニュース記事)。

●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、アップルに対し、特許3件の侵害があったとして訴訟を提起していましたが、マンハイム地裁は、2012年1月20日判決、1月27日判決及び3月2日判決により、いずれも特許を侵害していないという判断を示しています(1月20日判決記事1月27日判決記事3月2日判決記事)。

(4)オーストラリア
●原告:アップル→被告:サムスン
アップルは、特許権侵害に基づき「Galaxy Tab 10.1」についてのオーストラリアでの販売差止め仮処分を申請した件で、連邦裁判所が販売差止めを認めたことにより、サムスンから不服申立てがあり、連邦裁判所は、2011年11月30日に販売差止めの仮処分を破棄しております。その後、販売差止めの仮処分の継続を求めたアップルの上告を受け、オーストラリア連邦最高裁判所は、同年12月2日に販売差止め仮処分をしましたが、12月9日、同裁判所により販売差止仮処分は解除されました(2011年12月2日付、及び同月9日付日経新聞電子版)。
また、アップルは、2011年7月、タッチスクリーン技術に関する特許などで訴訟を提起しており、現在審理中です(ニュース記事)。

●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、3G技術関連の特許3件につき、侵害訴訟を提起しており、現在審理中です(ニュース記事)。

(5)イギリス
●原告:アップル→被告:サムスン
アップルがサムスンに対し、「iPad」のデザインを侵害したとして訴訟を提起していましたが、2012年7月9日、イギリス高等法院は、サムスンがアップルのデザインを侵害していないと判断した上で、アップルのイギリスのホームページ・新聞・雑誌に、アップル製品を模倣していないことを告知するよう命じました(ニュース記事:日本語英語)。この命令は、「サムスンの商品はアップルほどクールではない(not as cool)から、サムスンのタブレットはiPadと混同しない」と言及していることでも、話題にもなりました。

(6)フランス
●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンからアップルに対し、2011年10月、サムスンが有するW-CDMA方式関連の特許2件を侵害しているとして販売差止め等を求めていましたが、2011年12月8日、パリ大審院はサムスンの請求を棄却しています(ニュース記事)。

(7)イタリア
●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、2011年10月5日、ミラノ地方裁判所に対してW-CDMA方式関連の特許に基づき販売差止めの仮処分を求めていましたが、2012年1月5日、サムスンの仮処分を棄却しています(ニュース記事)。

(8)オランダ
●原告:アップル→被告:サムスン
アップルは、サムスンに対し、ハーグ裁判所において特許権侵害に基づき販売差止めの仮処分を行っていましたが、2011年8月24日、裁判所は指で写真を送るフォトフリキングの特許権侵害を認めています(ニュース記事)。この仮処分により、「Galaxy S」、「Galaxy SII」、「Galaxy Ace」などが販売停止となりました。なお、サムスンは後日、この発明を使わない機種を販売したようです(ニュース記事)。

●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、3G/UMTS通信技術関連の特許など4件の特許に基づき、販売差止めを請求していました。2012年6月21日、ハーグの裁判所は、1件(EP1188269)については特許侵害を認めました。しかし、当該特許は必須標準特許であるから、他社へのライセンスと公平、妥当、非差別的なライセンス料を定めるべきとする判断を示しています(ニュース記事)。

(9)スペイン
2012年9月1日付日経新聞電子版の記事では、スペインにおいても、アップルのデザイン関連でサムスンを提訴しているとの記載があります(ニュース記事)。また、サムスンも、アップルに対して訴訟を提起しているようです(ニュース記事)。

(10)日本
●原告:アップル→被告:サムスン
2012年8月31日、東京地裁は、シンクロ方法の特許につき、サムスンがアップルの特許を侵害していないと判断を示しました。今回の訴訟とは別に、アップルは、日本でも、バウンスバック(画面の跳ね上がり)と機内モードアイコン表示法、アプリストア構造表示の特許をめぐりサムスンを訴えているようです(ニュース記事)。また、サムスン製品の販売差止めを求める仮処分も申立てているようです(ニュース記事)が、その申立ては却下されているようです(ニュース記事)。さらに、アップルは、東京地裁に対し、サムスンの特許権をアップルは侵害していないことを確認する訴訟を提起した模様です(ニュース記事)。

●原告:サムスン→被告:アップル
サムスンは、アップルに対して製品の販売差止めを求める仮処分を申立てているようです(ニュース記事)。


以下、アップルがサムスンを訴え、アップルの請求が棄却された8月の東京地裁判決の内容を簡単に見てみましょう。

3.東京地裁2012年8月31日判決の内容

(1)争いとなった特許の内容
2012年8月31日に東京地裁で示された判決は、アップルの特許(第4204977号)に基づき、サムスンの「Galaxy S」、「Galaxy SII」、「Galaxy Tab」の販売差止めを請求したものです。対象となった特許は、「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」という名の特許で、デバイス上のメディアの同期又は管理に関する発明です。
この訴訟においては、「Kies」というソフトをインストールしたパソコンと、差止め対象製品であるGalaxyとの間で行われる保存楽曲ファイルの同期の動作が、アップル特許の方法を利用している(侵害している)のではないか、という点が問題となりました。

アップルは、以下で記載するアップルの特許の請求項11だけでなく、他の請求項についても訴訟を提起しておりましたが、他の請求項にも実質的に含まれる構成要件Gについて判断をし、サムスンの製品は、この構成要件Gには該当しないため、特許侵害はなかったと判断しました。

まず、アップルの特許発明はどのような発明かについて、特許の権利の及ぶ範囲を示す「特許請求の範囲(クレーム)」請求項11には、以下のように書かれております。

 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、
 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、
 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、
 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、
 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの一つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており、
 該品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており、
 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。

この特許の権利の範囲はどのようなものかについて、裁判所は、以下のとおりの判断を示しました。

まず、この発明以前の従来のPDAなどのシンクロの操作は、ファイルネーム及び変更日を利用してシンクロを行っていたものの、このようなファイルネームや更新日の比較によるシンクロの方法は信頼性に課題があり、またその処理が遅く非効率であると言及しています。そのため、特にメディアファイルに関して、このような課題を克服したシンクロを実現するために、一般的なファイルに備わるファイル情報ではなく、タイトル名、アーチスト名などの属性、あるいは、ビットレート、サンプルプレート、総時間などの品質上の特徴という「メディア情報」に着目し、そのような「メディア情報」の比較に基づいて、メディアアイテム(音楽、ビデオ、画像などのメディアプレーヤーで再生可能なコンテンツ)をシンクロする方法を採用したのが、上記の発明であるとしております。従来の方法である一般的なファイル名や更新日によるシンクロではなく、「メディア情報」を比較することで、シンクロをする際のデータ転送量を比較的低く又は最小限になるように適切に管理されるようになり、「よりインテリジェントなシンクロ」が実行されるとのことです。

上記の目的を達成するための発明が上記の特許です。特許請求の範囲の記載に従いこの発明の内容を噛み砕いて大雑把に説明をすると、メディアプレーヤーがホストコンピュータに接続されたことを検出した上で(構成要件B)、メディアプレーヤーに記憶されるプレーヤーメディア情報(構成要件C、E)と、ホストコンピュータによって記憶されるホストメディア情報(構成要件D、E)との比較を行って、「両者の一致・不一致を判定」(構成要件G)した上で、メディアコンテンツのシンクロを行う方法(構成要件A、G)となります。

では、このシンクロの際に必要な「メディア情報」とは何でしょうか。裁判所は、特許請求の範囲や明細書等の記載から、一般的なファイル情報すべてではなく、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに関する種々の情報のうち、メディアアイテムに特有の情報を意味するものであるとしました。たとえば、タイトル名、アーチスト名、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、スタート/ストップ及び総時間などです。そして、メディア情報は、メディアアイテムに特有の情報を意味するものであることから、一般的に備わっているファイルサイズやファイル名、ファイル更新日などは、「メディア情報」には含まれないとしました。

そして、この発明は、シンクロの際、プレーヤーメディア情報とホストメディア情報とを比較します(構成要件G)が、「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較が求められているとしました。この特許の明細書上からは、ある特定のメディア属性が一致するときにも、ファイルが同一とみなされシンクロされないことがありうること(つまり、全部一致しなくても同一のファイルとされシンクロされないこと)が示されているものの、記載されている特許請求の範囲の記載からは、「メディア情報」に最低限含まれるタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴の全ての比較を要求していることが一義的に明らかであるとしました。

(2)サムスン製品との比較
アップルの特許発明の範囲を上記のようなものと確定した上で、次に、サムスンがこの発明を使っているのかを判断しました。
サムスンが行うシンクロの方法について、裁判所は、「Kies」というソフトをインストールしたパソコンとGalaxyの間で音楽ファイルのシンクロを行う際には、「ファイル名とファイルサイズ」を用いて、それぞれの音楽ファイルの一致・不一致を判定するとしています。これは、アップルの特許における構成要件Gにて説明したような、タイトル名、アーチスト名及び総時間その他の「メディア情報」の比較を行っていません。また、サムスンのシンクロの方法は、音楽ファイルのタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴である総時間の全てが異なっても、ファイル名及びファイルサイズが同一である限り、「ファイルが一致している」として、音楽ファイルのシンクロは行われない仕組みであり、「全てのメディア情報を比較する」という方法も使わないことから、この点からも構成要素Gの要件に該当せず、サムスンの製品が行うシンクロは、アップルの特許の方法を利用していない=特許権侵害はなかった、という結論になりました。

4.まとめ

「今回の日本の訴訟は、海外のアップル・サムスン訴訟には影響されないものであるし、影響しない」という論説をよく見かけます。上記のとおり、今回の判決は音楽などのシンクロの方法に関するものであり、諸外国で争われている特許とは異なる可能性があるからでしょう。今回日本で判決が出た特許については、アメリカやイギリスなどでもファミリー特許が取得されており、諸外国でも訴訟の対象になっている可能性はありますが、ニュース記事からは、必ずしも明らかではありません。
日本においてだけシンクロ特許に基づき訴訟を行ったとすれば、その理由は定かではありませんが、ただ、日本でも、本件訴訟とは別に、海外で争われているような発明に関する訴訟も提起されているようです。もちろん、各国特許の権利範囲は各国で独立しており、たとえ同じ発明でも海外の特許と日本の特許で権利範囲は全く同一ではなく、直ちに他国の特許訴訟の結果が日本に影響するというものではありませんが、共通する部分も多く、これから各地で出される世界各国の訴訟の判断内容も注目されるところでしょう。

最後に、ユーザーの視点からこの特許訴訟について言及すると、これらの訴訟は、お互いの特許に基づき相手方の製品の販売を差止める訴訟です。両者の「刺し合い」にも似たこの状況は、特許訴訟においてはしばしば起こることではあります。現在、水面下で両者のライセンス合意に至るべく話し合いが進んでいる状況かは不明ですが(和解に向けた交渉が行われ、決裂したとの報道もあります。(ニュース記事))、最終的に合意に至らないならば、侵害と認められた他社の特許発明は利用できず、オランダの場合と同様、その発明を利用しない方法で製品を作る必要があります。もちろん、メーカーの投下資本の回収等は尊重すべきではありますが、ユーザーにとって、この訴訟合戦の末、両社のスマートフォンやタブレットが将来どのようなデザインや性能を持つのかというのも、気になるところです。

以上

※本サイト上の文章は、すべて一般的な情報提供のために掲載するものであり、
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。
ページ上へ