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コラム column

2011年1月13日

その他の実体法企業法契約

「優越的地位の濫用に関する公正取引委員会のガイドラインについて
 ~電子出版に際しての留意点~」

弁護士 桑野雄一郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)


■はじめに

最近電子出版に向けての動きがソフト,ハードの両面から急激に進んでいることはご存じのとおりです。昨年11月1日には社団法人日本書籍出版協会が電子出版に対応した契約書のひな型を,また12月1日には社団法人日本雑誌協会が日本文藝家協会、日本写真著作権協会と共同で策定した雑誌デジタル配信「権利処理ガイドライン」を発表するなど,出版社側から作品を提供する側との間で電子出版を意識した契約書を締結しようとする動きが広まっています。

この動きと相前後して,昨年11月30日に公正取引委員会が,「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「本ガイドライン」とします。)と題したガイドラインを発表しています。これは,昨年1月から施行されている改正独占禁止法(以下「改正法」とします。)を踏まえたもので,電子出版に向けての一連の動きを特に意識したものというわけではありませんが,その内容は電子出版を行う上でもとても影響が大きいものと考えられます。

そこで,このガイドラインについて,簡単にご紹介をすることとします。


■改正法の概要

まずガイドラインの前提となっている改正法について述べておきます。この改正法では,「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること」が独占禁止法19条の「不公正な取引方法」(19条)に該当することとされました(2条9項5号)。

イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

これに該当する行為は,従来から「優越的地位の濫用」として「不公正な取引方法」に関する一般指定の中に掲げられていたものですが,今回の法律上不公正な取引方法と明示されたものです。

改正法により,事業者がこの「優越的地位の濫用」に該当する行為を継続して行った場合には,公正取引委員会が原則として課徴金の納付を命じなければならないことになりました。

ではどのような行為が「優越的地位の濫用」にあたるのでしょうか。上述した規定からすると,
① 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用していること
② 正常な商慣行に照らして不当なこと
③ イ~ロの行為に該当すること
の3つが要件ということになりますので,それぞれについての本ガイドラインの内容を具体的に見てみましょう。


■自己の取引上の地位が相手方に優越していること

取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し,取引上の地位が優越しているというためには,市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく,取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解されています。そして,甲が取引先である乙に対して「優越した地位」にあるとは,乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため,甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても,乙がこれを受け入れざるを得ないような場合とされています。具体的には①乙の甲に対する取引依存度,②甲の市場における地位,③乙にとっての取引先変更の可能性,④その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実,の4つの観点から総合的に考慮するとされています。

出版社を甲,作品を提供する側を乙として考えてみますと,例えば作家(乙)にとって取引先,すなわち出版社(甲)に対する取引依存度が高く,取引先可能性が低いといった事情が認められることも少なくないと思います。こういった事情から,出版社(甲)が作品を提供する側(乙)に対して優越した地位にあると評価される場合も少なくないと考えられます。


■正常な商慣行に照らして不当なこと

「正常な商慣習に照らして不当に」という要件は,優越的地位の濫用の有無が,公正な競争秩序の維持・促進の観点から個別の事案ごとに判断されることを示すものとされています。そして,「正常な商慣習」とは,公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいうものとされています。このことから,現に存在する商慣習に合致しているからといって,直ちにその行為が正当化されることにはなりませんので,注意が必要です。


■イ~ロに該当すること

本ガイドラインではイ~ロそれぞれについて細かい説明がなされていますが,字数の制約もありますので,本稿では電子出版に際して問題になる可能性が高いロ,すなわち「継続して取引する相手方に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること」について説明をすることにします。

この規定における「経済上の利益」の提供とは,協賛金,協力金等の名目のいかんを問わず行われる金銭の提供,作業への労務の提供等とされています。本ガイドラインでは,①協賛金等の負担の要請,②従業員等の派遣の要請,③その他経済上の利益の提供の要請の3つに分類して説明がなされています。電子出版に関する契約で注意が必要なのは③です。

本ガイドラインでは,取引上の地位が相手方に優越している事業者が,正当な理由がないのに,取引の相手方に対し,発注内容に含まれていない,金型(木型その他金型に類するものを含む。以下同じ。)等の設計図面,特許権等の知的財産権,従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請する場合であって,当該取引の相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となるとされています。また,無償でなくても,正常な商慣習に照らして不当に低い対価で提供させる場合にも,やはり優越的地位の濫用として問題となるとされています。

電子出版に際しては,出版社が著作権譲渡を受けるという契約書案も発表されていますが,本ガイドラインでは「取引に伴い,取引の相手方に著作権,特許権等の権利が発生・帰属する場合に,これらの権利が自己との取引の過程で得られたことを理由に,一方的に,作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を自己に譲渡させること。」は優越的地位の濫用に該当するという考え方が示されています。この考え方自体には批判もあるところですが,適正な対価の支払いを伴わない著作権譲渡を求めたり,実際に使用する予定のない作品も含めた著作権譲渡を求めたりする(写真のように多くの作品の提供を受ける場合に問題となるでしょう)場合には,それが不当という評価を受けることがないか,注意が必要ではないでしょうか。


■最後に

著作物の提供を受ける取引に際しては,本ガイドラインの前にも公正取引委員会が発表した「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成10年3月17日公正取引委員会)においても,一方的な著作権譲渡を求めることや,受託者(作品を提供する側)の二次利用を制限することなどが優越的地位の濫用に該当するという考え方が示されていました。

また,下請法においても,「下請代金支払遅延等防止法第4条第1項に関する運用基準」(昭和62年4月1日公正取引委員会事務局長通達第2号)において,「親事業者が,制作を委託した放送番組について,下請事業者が有する著作権を親事業者に譲渡させることとしたが,その代金は下請代金に含まれているとして,下請事業者と著作権の対価にかかる十分な協議を行わず,通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定める場合」のように,十分な協議を行わず,正当な対価を伴わないで著作権譲渡を求めることが同法違反に該当する可能性がある事例として示されていました。

電子出版の急速な動きに遅れまいとするあまり,これらの法律に違反することとならないよう留意する必要があるでしょう。

以上

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