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コラム column

2017年1月24日

商標

「元号は商標登録できるか」

弁護士  桑野雄一郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)

1.はじめに

昨年天皇陛下が退位のお気持ちを表明されたことを受け、先日政府が西暦2019年に皇太子殿下が新しい天皇に即位し、それにともない元号を改める改元を行うことを検討しているとの報道がなされました。

それ以降、新元号が何になるかの議論が盛り上がっています。それと共に、新元号について商標登録をしてしまおう、といった話題も出ています。そこで今回は元号と商標についてご紹介をしたいと思います。


2.元号についてのルール

元号については旧憲法下の旧皇室典範12条に


踐祚ノ後元號ヲ建テ一世ノ間ニ再ヒ改メサルコト明治元年ノ定制ニ從フ

と定められていました。難しいですが、要するに皇位の継承が行われると新たに元号を定め、その在位中は改元をしないということです。

戦後になり、1947年に制定された現在の皇室典範は、旧皇室典範からは大幅に簡略化され、元号に関する規定もなくなりました。現在元号について定めているのは、1979年に制定された元号法です。元号についてどんな規定が定められているのかと思って調べてみると、条文は


1  元号は、政令で定める。

2  元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。

という2つだけです。このくらいなら皇室典範を改正すればいいじゃないか、という気もしますが、当時の政府は皇室典範の改正ではなく法律の制定という方法をとったのですね。最近似たような話を聞いた気がします。

それはさておき、この元号法に基づき、昭和64年の「元号を改める政令」に基づいて定められたのが現在の元号である「平成」です。


3.元号は商標登録できるか

元号を知らない人はいませんから、これを商標登録して商品・役務について独占的に使用できるとしたらなかなか魅力的ですが、残念ながらその夢は叶いません。というのは、商標法3条1項6号は、商標登録を受けることができない商標として


その他何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標

を掲げていて、これを受けて特許庁が定めている「商標審査基準」 は、


商標が、現元号として認識される場合(「平成」、「HEISEI」等)は、本号に該当すると判断する。

と定めているからです。「本号」とは上記の商標法3条1項6号で、これにより「平成」や「HEISEI」などは商標登録はできないというわけです。

もっとも、この規定により登録することが禁止されるのはあくまで「現元号」、つまり「平成」や「HEISEI」ですから、昭和、大正、明治やそれ以前の旧元号については商標登録をすることはできますし、実際に登録されているものもあります。古いものだと「天保」なども商標登録されています。


4.「平成」は商標登録できるか

(1) さて、ここで気づいた方もおられるでしょうが、現在は商標登録できない「平成」も改元後には商標登録ができるようになるわけです。ですから改元による解禁後には「平成」を商標登録出願する方がたくさん出てきそうです。


 では、同じ商標について複数の人が商標登録出願をした場合、いったい誰が商標登録を受けられるのでしょうか。これについて商標法8条1項はこのように定めています。


同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なつた日に二以上の商標登録出願があつたときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる

 つまり、先に出願した人が商標登録を受けることができるというルールを採用しています。これを先願主義といいます。


 もっとも、この規定に「異なった日に」とあるとおり、先願主義における先後関係は登録出願の日付単位で判断します。ですから同じ日の出願であれば午前と午後では先後関係はないということになります。そして、このように同じ日に複数の出願があった場合について、商標法8条3項は


(前略)商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。

 と定めています。どちらが登録を受けるか協議して決めろというわけです。また、この協議が整わなかった場合について商標法8条5項は、


(前略)特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた一の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。

 と定めています。最後はくじ引きというわけです。


(2) 先願主義からすると、「平成」について商標登録をしたければ他の人に先んじて出願をする必要があります。「平成」が商標登録できるのは改元後で、現在の報道では1月1日に改元をするようです。だったら元旦に初詣がてら特許庁に行って「平成」の商標登録出願をするぞ!と思う方もいるかもしれませんが、残念ながら1月1日は特許庁の窓口は開いていません。でも、電子出願システムなら24時間365日受付が行われています。このシステムは元号が平成になった翌年の1990年12月に導入されたものなので、改元後の旧元号の商標登録出願に利用されるのは初めてということになります。よし、それなら新年のカウントダウン終了と同時に特許庁の電子出願システムにアクセスするぞ!という人が殺到しそうですね。


 ところが、残念ながら新年のカウントダウンが終わってから出願をしても商標登録はできないかもしれません。というのは、出願された商標が「現元号」にあたるかどうかは、登録するための要件で、出願をするための要件ではないからです。つまり、改元前に行った出願でも、出願を受理した特許庁においてその商標登録を認めるかどうかの判断をする段階で1月1日が過ぎて改元されていれば、もはや「平成」は現元号ではないということで、商標登録もできてしまう可能性が高いのです。


 とすると出願をするなら1月1日より前、それも先願主義があるのでなるべく早い時期ということになりますが、あまり早過ぎる出願をすると、特許庁が改元前に判断をすることになり、「平成」は「現元号」ということで商標登録はできなくなってしまいます。このあたりのさじ加減は難しそうですね。改元の半年くらい前から毎日出願を繰り返す人が続出する、などという騒動にならないことを願うばかりです。



5.改元後の新元号は商標登録できるか

現在、様々なところで新元号の予想が行われています。新元号については、「現元号」となった改元後は商標登録できませんが、改元前であれば商標登録はできます。ですから、改元前から新元号を予想して、先手を打って商標登録をしてしまおうと考える人もいるかもしれません。

しかし、元号を決定する段階で商標登録やその出願がなされているかはチェックをし、既に登録や出願がなされているものは新元号の候補から除外されるでしょう。

また、「平成」への改元は、昭和天皇の崩御を受けて急遽行われましたので、1月8日の改元の前日の1月7日に発表されましたが、退位に伴う改元となると、世の中の混乱にも配慮し、もっと早い時期に発表される可能性があります。とすると、新元号が発表されたら、改元前に商標登録をしようとすぐに出願する人もいるかもしれません。

しかし、仮に新元号について商標登録出願がなされたとしても、新元号が決定した後は特許庁は改元後まで判断を保留し、改元後に「現元号」であることを理由に登録を認めないという判断をするのではないかと思います。

ということで、新元号について商標登録ができる可能性も低そうです。


6.おわりに

戦争とその後の高度経済成長という波乱の昭和の後に訪れた平成を振り返ると、阪神淡路大震災や東日本大震災に代表される災害の多い世であった気がします。

商標登録などという邪な考えは捨てて、新元号の下での世の中が平穏であることを願いながら、静かに改元の日を迎えたいものです。

以上

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