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コラム column

2015年7月27日

著作権法

「国会前の集会でレミゼの『民衆の歌』を歌ったら?」

弁護士 二関辰郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)


その手の集会に参加するのは初めてでしたが、国会前に私も行ってきました。圧倒的多数の憲法学者が違憲と言い、国民の多くも疑問視している安保法制関連の集会です。

衆議院での強行採決の日、国会前はすごい数の人でした。話題になっているSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)が、「民主主義ってなんだ」、「憲法守れ」、「屁理屈やめろ」などと声をあげていました。ラップ風のコール(シュプレヒコール)です。

別途集会に行った知り合いが、感想を述べていました。「シュプレヒコールも端的で良かったけど、歌がなかったのは残念。レ・ミゼラブルの『民衆の歌』でも共有したらいいのに...」。

「戦う者の歌が聞こえるか」(英語だと「Do you hear the people sing?」)という歌詞のあの曲です。ミュージカルでも多数の出演者が壇上にあがって合唱をする曲でもあり、たしかに、あの歌を集会に集まったひとたちが合唱するなどしたら感動を共有できそうです。


ユニバーサルピクチャーズホームビデオの公式サイトより

では、そういったことをやる場合、著作権法上はどうなるのでしょうか。もちろんどの曲でも良いわけですが、あくまで一例として、この曲をもとに少し考えてみます。


◆「民衆の歌」の権利関係

インターネットで調べてみると、この曲の英語タイトルはそのもので "DO YOU HEAR THE PEOPLE SING"。邦題は「民衆の歌声が聞こえるか//レ ミゼラブル」(JASRACの作品データベース検索 J-WIDより)。作曲家はクロード・ミシェル・シェーンベルク( Claude-Michel Schoneberg)、作詞家はアラン・ブーブリル(Alain Boublil)という方々で、両者ともご存命です。

JASRACのJ=WIDの画像
JASRACのJ=WIDの画像から


日本語への訳詞は日本を代表する作詞家のひとりである岩谷時子さんで、岩谷さんは2013年に亡くなられています。

日本の著作権法では、今のところ、著作権保護は著作者の死後50年間存続しますので、この曲に関する著作権は当然、著作権保護の対象になります。

そうすると、海外にいる作曲家・作詞家などの許諾がないとこの歌は歌えないのでしょうか。一般論として、必ずしもそのようなことはなく、JASRAC(日本音楽著作権協会)が日本での利用は管理していますので、その許諾を得れば誰でもライブなどで歌うことはできます(ミュージカル自体の上演は別)。このあたりのことは、唐津弁護士の本ウエブサイト内のコラムなどをご参照ください。


◆ 非営利の演奏(著作権法38条)

さらに、著作権法には「著作権の制限」というカテゴリーがあり、一定の行為は権利者の許諾なしに自由に行えます。

著作権法38条1項は次のように定めています。


(営利を目的としない上演等)

第38条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

つまり、
   ① 公表された著作物で
   ② 非営利
   ③ 無料
   ④ 無報酬
であれば、権利者の許可なしに演奏できます。

「民衆の歌」でいえば、これは公表済の曲ですし、国会前の集会はもちろん非営利で集まった人からお金をとったりしません。プロの歌手を招くなどして合唱をリードしてもらう場合でも、無償で協力してくれる人は見つかりそうです。そうすれば「無報酬」の要件も満たせます。そのような条件がそろえば、著作権法38条により、権利者の許諾を得ることなしに合法的に歌うことができます。


◆ CDの利用は?

では、たとえばこの曲をピアニストの方が演奏しているCDを伴奏に流すのはどうでしょうか。CDの利用には、作曲家作詞家が持つ著作権のほか、著作隣接権と呼ばれる権利がかかわってきます(CDに録音されている演奏や歌唱にかかわった実演家の権利、CD製作者の権利など)。この点はどうでしょうか。著作隣接権には、録音権・録画権あるいは複製権(要はコピーすること)その他の権利がありますが、録音物を再生する権利(演奏権)は含んでいません。したがって、CDの再生(これも演奏に含まれます)をする行為は、そもそも著作隣接権が及ばない行為で、その侵害にはなりません。それゆえ、CDを流すのもOKです。もっとも、集会の趣旨からすると、アカペラで合唱するか、あるいは協力してくれる演奏者を呼んで生演奏にした方が良いかもしれませんね。


◆ 何点かの注意点

何点か注意点があります。

ネットへのアップは?

上記の著作権法38条は、上演や演奏など、いわば後に形を残さない利用方法、あるいはその場限りの利用方法を例外的に認めるものです。したがって、歌っている様子を録画してインターネットにアップする行為などは、この条文の下では認められません。また、インターネットを経由しない場合でも、別の会場まで無線ないし有線で音を飛ばしたりすると、「公衆送信」という著作権法上別のカテゴリーに該当することになり許容されませんので注意が必要です。

では、一切の撮影物のインターネットへのアップが認められないかというとそうではなく、たとえば、投稿サイトが対象曲についてJASRACなどと包括契約を結んでいる場合は、一定の条件でアップは可能になります(JASRACの場合の説明)。また、集会そのものを録画してインターネットにアップするにあたり、付随的に歌っているシーンも少し含まれている程度であれば、付随対象著作物の利用(著作権法30条の2)という著作権法の別の条文により許容される可能性はあります。

歌詞を載せたチラシ配布は?

みんなで合唱しようとする場合、あらかじめ歌詞を印刷しておいて、会場に来る人に配りたいかもしれません。しかし、そのようなコピー(複製)は、後に形を残さない利用ではないため、やはり38条の対象外になります。たとえば、歌詞を知っている人がマイクで歌って他者をリードするならば、対象内でしょう。

歌詞を変えるのは?

また、38条にもとづく利用の場合、元の著作物を改変してはいけないことになっています。「民衆の歌」の例に戻れば、原曲の歌詩であれ訳詞であれ「フランス」という歌詞がでてくるようです。それはちょっとそぐわないということで、その部分を、たとえば「ニッポン」とかに勝手に変えて歌ってはいけないわけです。硬いことを言うなと思うかもしれません。しかし、憲法違反の法律を作ろうとする行為を批判する以上、自分の側は襟を正しておいた方がよいでしょう。

以上


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