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コラム column

2013年1月30日

著作権音楽

「JASRAC使用料規程の基礎知識 - 最近の動向もご一緒に」

弁護士  唐津真美(骨董通り法律事務所 for the Arts)

■ JASRACは知っているけど・・・

JASRACの名前はほとんどの方が聞いたことがあると思います。もっとも、「音楽を使う時はJASRACの手続きが必要なんだよね」ということは知っていても(注:必要ない場合もあります)、その手続きまで知っている人は、一部の事業者を除けば多くはないでしょう。JASRACの管理する楽曲を利用するための手続きや使用料は、JASRACのホームページに書いてあります。使用料について規定しているのが使用料規程[PDF:520KB]ですが、実際に使用料規程まで読んだことのある人は、ほとんどいないのではないでしょうか。今リンク先をクリックした人は分かると思いますが、ちらっと見た瞬間に閉じたくなるほど、とっつきにくい文書です。(法律の条文によく似ています。)また、使用料規程に加えて、細則、運用基準または利用許諾条件が別途規定されている場合もあり、全容を把握するのは容易ではありません。とはいえ、使用料規程は事業者だけに適用されるものではなく、事業者以外の方が、本来必要な使用料の支払いをせずに楽曲を利用している場合も多いのです。また、事業者の担当者でも、定型的事務としてJASRACの手続きをしているものの、使用料規程は読んだことがなく、誤解をしている場合も多々あるようです。
使用料規程は100頁を超える膨大な文書で、これをこのコラムで網羅的に解説することはとてもできません。本稿では、使用料規程の基本的な話をした上で、使用料規程に関連する最近の動向についていくつか紹介したいと思います。

■ 使用料規程の意義

以前のコラムでも書いたように、JASRACは、音楽著作権を有する著作権者等から音楽著作権の管理の委託を受け、音楽著作物の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、その利用に伴って利用者が支払うべき使用料を徴収して、著作者等に分配する事業(著作権管理事業)を営んでいる法人であり、著作権等管理事業法(以下「管理事業法」)の適用を受けています。
管理事業法上、著作権等管理事業者は、利用形態ごとの使用料の額を記載した使用料規程を定めて、あらかじめ文化庁長官に届け出た上で、公表しなくてはならず、規程の額を超えて使用料を請求することはできません(第13条)。また、利用希望者から著作物の利用申し込みがあった場合、著作権等管理事業者は、正当な理由がない限り許諾を拒否できないと規定されています(第16条)。利用者の立場から見ると、利用の申し込みをして、所定の使用料を支払えば、原則として希望の楽曲を使用できるということになります。当たり前のことのようですが、音楽以外の著作物の利用と比べると、これは特別な仕組みです。一般的には、他人の著作物を利用する場合には、権利者と個別に交渉して許諾を受ける必要があり、利用の可否も、利用料を含む許諾条件も、交渉によって個別に決定されるからです。「いちいちJASRACに支払うなんてめんどうくさーい」というよりも「JASRACに支払いさえすれば使えるなんて、便利!」という方が適切かもしれません。(筆者は決してJASRACの手先ではありませんが。)

使用料規程では、第1章の総則に続き、第2章で、演奏、放送、映画、出版、録音、ビデオグラム、インタラクティブ配信等々、使用形態ごとに使用料の規定が延々と続いています。使用料のもっとも一般的な徴収方法は、1曲1回の曲別使用料に利用楽曲数や利用回数を掛けた金額を徴収する「個別徴収」ですが、コンサートでの利用のように、入場料や会場のキャパに応じた使用料の計算方法がある場合もあります。使用料規程は読みたくないけど、使用料がどれくらいか知りたいという方には、一部の使用形態に限られますが、JASRACのサイト上で早見表が公開されているものや(例えば音楽の非商用配信で包括的利用許諾契約による場合同商用配信の場合)、使用料計算シミュレーションが提供されている場合もあります。

■ 使用料規程でカバーされていないこと

音楽の著作権は一律に処理できて便利!といっても、JASRACの使用料規程が万能なわけではありません。まず、当然の前提として、JASRACを通じて著作権の権利処理ができるのは、JASRACが権利を管理している楽曲に限られます。ご存知の方も多いと思いますが、2001年施行の管理事業法改正により著作権管理団体の設立が従来の許可制から登録制に緩和され、それまで日本ではJASRACが独占していた音楽著作権の管理事業に、他の会社が参入してきました。また、JASRACに楽曲を信託する際の契約条件も変更され、利用権の種類を選択して信託することも可能になりました。たとえば、1つの楽曲について、演奏・放送の権利はJASRACに管理を信託するけれど、録音、ビデオや映画、CM、ゲームでの利用については信託しない、という選択も可能になったのです。現在でも日本で制作される多くの楽曲の著作権がJASRACによって管理されていますが、利用しようとしている楽曲とその利用形態がJASRACによって管理されているか、作品データベースを利用して最新の情報を確認することが必要です。

また、利用したい楽曲がJASRACの管理楽曲であり、意図している利用形態もJASRACに管理されているからと言って、必ずしも使用料規程により一律の使用料が設定されているとは限りません。日本国内の作品として届けられている楽曲(内国曲)であり、JASRACに包括的に権利の管理を委託してあっても、ゲームソフトに使用する場合や、CM用の録音に使用する場合の使用料は「指値」とされています。つまり、支払手続自体はJASRACを通して行うことができますが、使用料は事前に利用者と権利者が協議して決定する必要があるのです。

外国曲(外国の作品として届けられている楽曲)については、さらに注意を要します。著作物に関しては、ベルヌ条約を始めとする国際条約・協定によって国際的な保護が図られており、ほとんどの国の作品は日本でも守られています。JASRACはこのような条約・協定にもとづいて、海外の音楽著作権管理団体と管理契約を締結し、相互に帰属する楽曲を管理しあっています。つまり、JASRACが管理できるのは、対象となる外国曲が、その国の著作権管理団体に管理を委託している権利に限られるのです。内国曲と取り扱いが異なる権利の代表例が、音楽と映像を同期(シンクロ)させて録音する権利、いわゆるシンクロ権(シンクロナイゼーション・ライツ)です。日本の著作権法上はシンクロ権について特別の取り扱いがされているわけではないのですが、外国においては、シンクロ権について、著作権管理団体に管理を委託せずに、権利者が留保している場合が多くみられるのです。たしかに、著作者等が予想もしなかったような映像と同期されることで、その楽曲のイメージが損なわれる可能性もありますから、権利者が自ら管理したいという気持ちも分かります。
本国における著作権管理の態様を反映して、外国曲については、ゲームソフトやCM送信用録音の使用料が内国曲と同様に「指値」となるのに加え、映像ソフトに使用する場合の基本使用料(一部団体のレパートリーは除く)、映画録音、出版物についての使用料もいずれも「指値」となっています。また、そもそもJASRACの管理対象となっていない権利が、内国曲の場合よりも多いのです。いずれにせよ、外国曲の利用形態によっては、海外の権利者との交渉が必要になる可能性があることに留意しておいた方が良いでしょう。(多くの場合はまずは日本のレコード会社が交渉の窓口となります。)

さらに、JASRACが管理しているのは、楽曲の作曲家や作詞家が持っている著作権のみであることにも、留意が必要です。「え、著作権をクリアすればいいのでは?」と思うかもしれませんが、市販のCDなど第三者が制作した音源を利用する場合には、レコード製作者や歌手・演奏者といった実演家が、その音源について独自の権利(著作隣接権)を持っていますので、要注意です。JASRACの管理楽曲を自分で演奏したり歌ったりしている音源の利用であれば著作権の処理だけで足りますが、第三者が制作した音源を利用する場合には、レコード会社等に連絡をとって、著作隣接権について別個の許諾を得ることが必要になる場合があります。(本稿では詳細は割愛しますが、放送・有線放送については、著作権者は許諾権を持っている(=著作権者の許諾なしに放送・有線放送することはできない)の対し、レコード製作者・実演家は放送・有線放送については二次使用料を請求する権利のみを持っています。したがって、音源を単に放送する場合には、レコード製作者・実演家の許諾を得る必要はありません。)

もう一つ、著作者人格権の問題についても忘れてはいけません。著作者は、著作権とは別の権利として、同一性保持権などの著作者人格権を持っています。歌詞の翻訳や替え歌、編曲、切除など作品を改変する行為は、著作者人格権の侵害にあたる可能性がありますので、注意が必要です。

■ 使用料規程をめぐる最近の動向

JASRACの使用料規程に関連する基本的な解説や留意点について書いてきました。最後に、使用料規程をめぐる最近のトピックからいくつか紹介したいと思います。

» 動画投稿(共有)サービスにおける利用条件

YouTubeやニコニコ動画などの動画投稿(共有)サービスは、著作権侵害のコンテンツが満載の状態で一気に広まりました。JASRACはこれらのコンテンツを個別に追いかけ回して削除を要請したり使用料を請求したりする道ではなく、サービスを管理・運営する各事業者との間で、ユーザーがJASRAC管理楽曲を演奏したり歌ったりした動画を投稿することを可能とする包括契約を締結する方向を選びました。契約当事者は当該サイトを管理運営する事業者であり、サイト内の映像作品全ての利用責任を事業者が負うこととなっています。(他の著作権等管理事業者にも、同様の包括契約を活用している例があります。)
前提として、1)ストリーム形式によるサービスであること、2)管理運営する事業者の責任において、作詞家・作曲家、脚本家、レコード会社、実演家、放送局、映像製作者その他の権利侵害を防止すること、及び3)上記を実現するための技術的な手段、具体的な対策などを講じていることが必要です。事業者がこれらの条件を充足し、所定の使用料の支払いを含む契約をJASRACとの間で締結した場合には、A ) 映像作品の権利者からの正当な許諾・提供を受けた作品におけるJASRAC管理楽曲の利用、及びB ) 個人等の投稿者が制作した映像作品におけるJASRACの管理楽曲の利用(「歌ってみた」「踊ってみた」なんていう投稿がこれに該当します)、が許諾されることになります。ただし、上で述べたように、ここでクリアされるのは著作権のみで、音源の権利は含みませんので、CD音源やプロモーションビデオをそのまま投稿することはできません。当初は、個人制作の投稿作品については、内国曲の利用許諾に限定されていましたが、2010年4月28日付の変更により、日本国内の利用においてJASRACが著作権を管理する外国曲を含むように許諾範囲が拡大しました。
この包括契約により、JASRACと許諾契約を締結しているサイトであれば、動画の投稿者から個別にJASRACへ許諾手続きをとらなくても、JASRAC管理楽曲を含む動画をアップロードすることができることになりました。

» 東日本大震災の被災者支援・復興のチャリティーコンサートの取り扱い

著作権法上、公表された著作物は、1)営利を目的としていない、2)入場料(それに類する対価を含む)等を徴収しない、3)出演者等に報酬が支払われない、という3つの要件を全て充たしている場合には、権利者の許諾を得ることなく上演・演奏・上映・口述することができると定められています(第38条第1項)。チャリティーコンサートと銘打っても、観客から入場料を徴収し、主催者がこれを寄付するような場合には、上記例外の適用はありません。JASRACは、従前から、社会福祉の増進、または災害等による被災者支援の目的で開催するチャリティー演奏会等で、主催者が入場料収入を一定の公益目的の団体等に寄付したときは、その寄付金額に応じて使用料を減額する取り扱いをしていました。
東日本大震災後間もない2011年4月8日に、JASRACは、被災者の支援、及び被災地の復興を目的として、一定の条件を満たすチャリティーコンサート等に関しては、著作物の演奏利用、プログラム、チラシ等の出版利用を、無償で許諾することにしました。1)入場料収入を全額寄付すること(会場費など、チャリティーコンサート等を開催するために必要な経費は除く)、2)出演者は無報酬であること、3)寄付先が被災地支援及び被災地の復興という目的に適っている団体であることが条件となります。また、著作権法第38条1項適用の場合と異なって、著作権処理の手続きが不要なのではなく、事前に所定の手続きを済ませることや、事後の報告等が求められています(詳細はこちら)。

» ブログにおける歌詞掲載について

個人ブログ等において、好きな楽曲の歌詞などを紹介している例はよく見られます。従来は、JASRACは、無許諾の歌詞掲載についてはプロバイダ責任制限法に基づきサービス運営事業者に対し送信防止措置をとってきましたが、無許諾利用はなくならず、また、ユーザーからは、JASRACの対応に批判の声が絶えませんでした。そこで、JASRACは根本的な解決を図るために、2012年12月12日に、ブログサービス等の運営事業者に対し、個人ブログ等の非商用配信における歌詞掲載利用を許諾する条件を公表しました。これも上記の動画投稿サイトのケースと同様、JASRACがサービス運営事業者と契約を締結するというものです。サービス運営事業者が、1)ユーザーに対し許諾の告知を行う、2)利用規約等をもってユーザーの歌詞利用を制御する、3)利用規約等をもってユーザーによる著作者人格権の侵害を防止することを前提条件として、所定の使用料の支払いを含む契約をJASRACと締結した場合には、ユーザーの非商用配信の範囲に限定して、歌詞の掲載が許諾されることになりました。ただし、A) ダウンロード配信利用、B)アーティスト別、曲別などのインデックスを用意し、大量の歌詞を掲載する歌詞閲覧サービス、C)広告料収入を得るなどの目的で行う配信利用については、この許諾の範囲外とされています。


このほかにも、2012年4月1日から使用料規程の2章第1節「演奏等」(上演使用料・レビューショーなどの演奏使用料の料率が大幅改定)、3節「映画」がそれぞれ改訂されており、映画録音については併せて運用基準[PDF:40.6KB]も実施されています。とっつきにくく、読んで楽しいとは言えない使用料規程ではありますが、毎年のように一部変更されていますので、事業者、特に著作権処理の担当者は、留意しておいた方が良いでしょう。

以上

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