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2012年9月12日

著作権商標改正国際

「TPP米国知的財産条文案(2011年2月10日版)を抄訳してみた」

弁護士  福井健策 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

1 最終段階で議論沸騰したACTA(偽造品取引防止協定)も国会で可決され、日本は最初の批准国となるようだ。これはこれで別途コラムを書くが、他方、長期戦必至の様相を呈して来たTPP(環太平洋連携協定)交渉。カナダ・メキシコの正式参加決定で分野別交渉の進展も伝えられるが、知財に関して届くのは「難航」の報道ばかり。2012年5月には全米の主要な33の知財系ロビイ団体が連名で、オバマ大統領に「TPPの知財交渉での強硬姿勢」を迫る公開書簡を送り(プレスリリース)、他方、8月末にはEFF(電子フロンティア財団)など各国の有力NGOが米国提案への反対意見を連名で公開するなど、お膝元・米国を中心にTPP知財をめぐる議論は激しさを増している(記事)。

さて、流出した米国の知財要求案については昨年来幾つかコラムを書き、さまざまな反響を頂いて来たが、なにせ原文の難敵ぶりはACTA以上。流出した知財の章だけでACTAの1.5倍以上の長さで、「翻訳がないと皆さん不便だろうなー。誰かやってくれないかなー」と待つこと1年半。そんな天使はどこからも舞い降りて来なかった。

そこで今回、「ネットの自由」「TPP」「知的財産権」をキーワードに4冊目の新書を書くにあたり、思い切ってひとり翻訳プロジェクトを敢行。・・・が時間の無さと全訳では長すぎるのであっさり方針転換して、「日本法に影響を与えそうな部分の抄訳」を作り、新書末尾に掲載した。ラフな訳だが、今後の議論の役に立つこともあろうと思いネットでも公表する。

そして、弊所のコラムの歴史で初めて、CCライセンス「表示-継承」クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとした。営利・非営利を問わず、転載・再利用は自由。訂正や未訳部分の追加大歓迎。ただし、「継承」ライセンスだから、作った改善版・拡張版を同じ「CC:表示-継承」で公開して頂くのが唯一の条件だ。そう、時代は「シェア」である。心配なのは次の知財条文リークが出ると途端に時代遅れになってしまうことだが、リスクの無い人生はない。新しいリーク文書との比較にも使えるしさ。

注意が数点:

・TPPの米国知財要求のうち、現在の日本法には必ずしも含まれない規定を中心に、特に重要と思われた項目の参考訳である。それでも11000字超。

・翻訳の正確性については保証しない。というより無料公開なので、誤謬については当然寛容の精神を求める。内容は2011年2月10日付の流出文書に基づいており、現時点で協議されている条文と一致するとは限らない。国内法令の用語は参考にしたが、理解しやすさのために異なる用語を用いた箇所がある。

・脚注などは除外し、コラム等で言及した主な条文箇所には、便宜のため下線を付した。

・今後、修正や拡充版を適宜アップする可能性があるので、最新版をご確認のこと。

なお、CCライセンスはあくまで翻訳部分が対象。原文については、リーク文書という性格と公開の意義に鑑み筆者は翻訳・出版に踏み切ったが、公に使う方はどうか各自のご判断で。

2 内容の解説は前述のコラムや、それこそ間もなく発売の新書をどうぞ^^! だが一応、米国要求に入っていて、現在の日本法にはない主な条項だけはリストアップしておこう。

①音、匂いにも商標(2.1項)

②電子的な一時的記録も複製権の対象に(4.1項)

③真正品の並行輸入に広範な禁止権(4.2項)

④著作権保護期間の大幅延長(4.5項)

⑤アクセスガードなど、DRMの単純回避規制(4.9項)

⑥診断、治療方法の特許対象化(8.2項)

⑦ジェネリック医薬品規制(医薬品データの保護)(9.2項)

⑧法定損害賠償金の導入、特許侵害における3倍額賠償金の導入(12.4項)

⑨著作権・商標権侵害の非親告罪化(15.5(g)項)

⑩「ノーティス・アンド・テイクダウン」「反復侵害者のアカウントの終了(いわゆる3ストライク・ルール)」を含んだ、米国型のプロバイダーの義務・責任の導入(16.3項)

うむ、まるで知財版「アベンジャーズ」。改めてオールスター・キャストである。まあ後から交渉に参加しながら、これだけオレ基準で他国に要求できる米国政府のタフ交渉ぶりは、やはり日本も見習うべきかもしれない。

3 では、以下、条文である。

環太平洋経済連携協定
知的財産権に関する章
2011年2月10日稿

第1条 総則
1.各当事国は、少なくとも本章の内容を実行しなければならない。


(関連する国際条約)
2. 第1条に加えて、各当事国はTRIPs協定における既存の相互の権利と義務を確認する。


3. 各当事国は、本条約の発効時までに以下の条約を批准若しくは加入するものとする。(略)


(内国民待遇)
7. 本章でカバーされる全ての知的財産権のカテゴリーについて、各当事国は他の当事国の国民に対して、かかる知的財産権やそれらの権利による便益の保護と享受について、自国民に与えるのと同等かそれ以上の扱いを与える。
(略)


(既存の対象物及び事前の法令に対する条約の適用)
10. 本章は、第[_]条を含む他の定めを置いた場合を除いて、本条約の発効日において存在するすべての対象物で、保護が求められる当事国の領域において当該期日に保護されていたか、又は本章における保護条件に合致し若しくは今後合致するものに関して、義務を生じさせる。
(略)


11. 本章で第[_]条を含む他の定めを置いた場合を除いて、当事国は、本条約の発効日にその領域においてパブリックドメインに陥っていた対象物については、保護を復活させる義務を負わない。


12. 本章は、本条約の発効日以前の行為に関して義務を発生させない。
(略)


第2条 地理的表示(GI)を含む商標

(商標)
1. 当事国は、登録の条件として標章が視覚的に認識できることを要求してはならない。当事国はまた、標章が音や匂いから成ることのみを理由に商標登録を拒絶してはならない


2. 各当事国は、商標が証明商標を含むよう規定しなければならない。各当事国は、地理的表示(GI)が商標として保護を受けられる旨を規定するものとする。
(略)


4. 各当事国は、登録商標の権利者がその同意を得ない全ての第三者に対して、使用が混同の恐れを生じさせる場合には、商標が登録された商品若しくはサービスに関連する商品若しくはサービスのために、同一若しくは類似の標章(地理的表示を含む)を取引において使用することを禁じ得る、排他的な権利を有する旨を規定するものとする。地理的表示を含む同一の標章の同一の商品若しくはサービスにおける使用の場合、かかる混同の恐れは推定される。
(略)


8. 各当事国は、商標や地理的表示の使用が、周知の商標の権利者との混同や誤認を生じ、若しくは関連づけを生じさせる恐れがあり、又は周知の商標の名声を不正に利用する場合には、かかる周知の商標と同一若しくは類似の商標若しくは地理的表示の登録を拒絶若しくは取り消し、又は使用を禁止するための適正な手段を規定するものとする。
(略)


(地理的表示(GI))
15. (a) 各当事国は、地理的表示の保護や認証を拒絶する根拠、並びに地理的表示への異議や取り消しを認める根拠に、下記を含めるものとする:

(i) その当事国の領域において誠実な出願若しくは登録の対象となっており、かつ、領域でのかかる地理的表示の保護や認証以前に優先日付を獲得している商標や地理的表示と、当該地理的表示が混同を生じさせる恐れがある場合;

(ii) その当事国の領域において既に誠実な使用を通じて権利が獲得されており、かつ、領域でのかかる地理的表示の保護や認証以前に優先日付を獲得している商標や地理的表示と、当該地理的表示が混同を生じさせる恐れがある場合;

(iii) その当事国の領域においてすでに周知となっており、かつ、領域でのかかる地理的表示の保護や認証以前に優先日付を獲得している商標や地理的表示と、当該地理的表示が混同を生じさせる恐れがある場合;

(iv) かかる地理的表示が、その当事国の領域において同じ地理的表示に関わる商品やサービスにとって普通名称である場合


第3条 インターネットのドメインネーム
(略)


第4条 著作権及び著作隣接権

1. 各当事国は、著作者・実演家及びレコード製作者が、その作品・実演及びレコードについて、全ての形態における、恒久的又は一時的な(電子的な一時記録を含む)全ての複製を許諾又は禁止する権利を有する旨、規定するものとする。


2. 各当事国は、著作者・実演家及びレコード製作者が、許諾なく、若しくは著作者・実演家及びレコード製作者の許諾により、その当事国の国外で製作された作品・実演及びレコードの複製物の、領域への輸入を許諾若しくは禁止する権利を有する旨、規定するものとする。(注11:関連する権利者によって流通に置かれた作品・実演及びレコードの複製物については、第4.2項に記載する義務は書籍・雑誌・楽譜・音源・プログラム及びオーディオビジュアル作品にだけ適用される(略)。上記に関わらず各当事国は第4.2項に記載する義務をより広範な物品に適用することができる。)
(略)


5. 各当事国は、作品(写真作品を含む)・実演及びレコードの保護期間が計算される場合、下記のように規定するものとする:

(a) 自然人の生存期間に基づく場合には、期間は著作者の生存中及びその死後70年以上とし;

(b) 自然人の生存期間に基づかない場合には、期間は:

(i) 作品・実演及びレコードの権限ある最初の発行の年の終了時から95年以上とし、

(ii) 作品・実演及びレコードの創造から25年以内に権限ある発行がおこなわれなかった場合には、かかる創造の年の終了時から120年以上とする。

(略)


8. [この条文は、(1) 例外と制限、(2) インターネット再送信、(3) その他適当な著作権・著作隣接権の条文のために空けられる]


(技術的保護手段)
9. (a) 著作者・実演家及びレコード製作者がその権利の行使に関連して用いる、作品・実演及びレコードに関する権限なき行為を制限するための有効な技術的手段の回避に対して、十分な法的保護と有効な法的救済を与えるため、各当事国は、以下の者を第12.12項(訳注:差押・法定賠償ほか・弁護士費用の負担等)に定める通り責任及び法的救済の対象にするものとする:

(i) 保護される作品・実演・レコード若しくはその他の対象物へのアクセスをコントロールする有効な技術的手段を権限なく回避した者、又は;

(ii) 下記の装置・製品若しくは構成部分を製造・輸入・頒布・公衆に提供・供給その他取引した者、又は下記のサービスを公衆に提供若しくは供給した者:
(A) 何らかの有効な技術的手段の回避の目的で、当該人物によって(又は当該人物と協力し、かつ当該人物の知る範囲で第三者によって)広報・宣伝若しくは営業された場合
(B) 何らかの有効な技術的手段の回避以外には商業的に重要な目的・用途を限定的にしか持たない場合、又は
(C) 主として何らかの有効な技術的手段の回避を可能にし若しくは促進する目的でデザイン・制作若しくは実行される場合

各当事国は、非営利の図書館・アーカイブ・教育機関若しくは非商業的な公共放送機関以外の者が、前述のいずれかの活動に、故意にかつ商業的利得若しくは私的な経済的利得のために従事したことを発見された場合には、刑事手続及び罰則が適用される旨規定するものとする。このような刑事手続及び罰則は、第15.5項(a)、(b)及び(f)に記載される侵害に対する法的救済及び権限の、(必要な変更を加えた)前述の活動への適用を含むものとする。

(b) 上記(a)を解釈する上で、当事国は消費者向けの電気・通信若しくはコンピューター製品のデザインないしそれらの部品及び構成部分のデザイン及び選択が、いかなる特定の技術的手段に反応することも要求する義務は負わない。ただし、当該製品がその他の点で上記(a)を実施する方策を害する場合を除く。

(c) (略)

(d) 各当事国は、上記(a)を実施する方策に対する制限及び例外を下記の行為に限定し、かかる制限及び例外は下記(e)に従った関連する方策に適用されるものとする。[非侵害的なリバースエンジニアリング、資格ある研究者による非侵害的な研究活動、未成年者による不適正なコンテンツへのアクセスを防止するための手段、など限定列挙・詳細略]

(e)上記(a)を実施する方策に対する、第4.9項(d)に記載する行為に関する制限及び例外は、下記に従ってのみ、かつ、有効な技術的手段の回避に対する法的保護の十分性や法的救済の有効性を害しない範囲でのみ、適用される。(略)

(f) 有効な技術的手段とは、その通常の操作の過程で、保護される作品・実演・レコードその他の対象物へのアクセスをコントロールし、又は著作権若しくは著作権に関連する権利を保護する、何らかの技術・装置若しくは構成部分を意味する。


(権利管理情報)
10. 権利管理情報を保護するための十分かつ有効な法的救済を付与するため:
(a) 各当事国は、権限なく、かつ自らが著作権若しくは著作隣接権の侵害を勧誘・可能化・促進若しくは隠匿することを知りながら、又は(民事救済の場合は)知ることができる合理的根拠を持ちながら、

(i) 権利管理情報を故意に削除若しくは変更し;

(ii) 権利管理情報が権限なく削除若しくは変更されたことを知りながら、当該権利管理情報を頒布若しくは頒布のために輸入し、又は;

(iii) 権利管理情報が権限なく削除若しくは変更されたことを知りながら、作品・実演及びレコードの複製物を頒布・頒布のために輸入・放送・公衆に通信若しくは提供した者を、第12.12項(訳注:差押・法定賠償ほか・弁護士費用の負担等)に定める通り責任及び法的救済の対象とするものとする。

各当事国は、非営利の図書館・アーカイブ・教育機関若しくは非商業的な公共放送機関以外の者が、前述のいずれかの活動に、故意に私的な経済的利得のために従事したことを発見された場合には、刑事手続及び罰則が適用される旨規定するものとする。このような刑事手続及び罰則は、第15.5項(a)、(b)及び(f)に記載される侵害に対する法的救済及び権限の、(必要な変更を加えた)前述の活動への適用を含むものとする。

(b) 各当事国は、上記(a)を実施する方策に対する制限及び例外を、法の執行・情報活動・重要な安全保障若しくは類似に政府の目的のための、政府の職員・代理人若しくは受託者による適法に授権された活動に限定する。

(c) 権利管理情報とは:

(i) 作品・実演及びレコード;作品の著作者、実演の実演家若しくはレコードの製作者;又は作品・実演及びレコードの何らかの権利の保有者を識別する情報;

(ii) 作品・実演及びレコードの利用条件に関する情報;又は

(iii) かかる情報を示す数字やコードであって、
これらの項目が作品・実演及びレコードの複製物に付帯しているか、作品・実演及びレコードの公衆への送信若しくは提供に関連して表示される場合を指す。

(d) (略)


第5条 著作権
(略)


第6条 著作隣接権
1. 各当事国は、実演家及びレコード製作者に本章で与えられる権利を、他の当事国の国民である実演家及びレコード製作者、並びに他の当事国の領域で最初に発行され若しくは最初に固定された実演及びレコードに付与する。実演及びレコードは、当初の発行から30日以内に当事国の領域で発行された場合、そこで最初に発行されたものとみなされる。
(略)


第7条 暗号化された番組を含む衛星及びケーブル信号の保護
1. 各当事国は、以下に罰則を規定する:

(a) 有形・無形の装置若しくはシステムを、それらが主に、暗号化された番組を含む衛星及びケーブル信号の暗号解除を、かかる信号の適法な送信者の許諾なく補助する装置若しくはシステムであることを知りつつ若しくは知る理由がありながら、製造・組み立て・改変・輸入・輸出・販売・貸与その他頒布する行為;及び

(b) 当初暗号化された衛星若しくはケーブル信号として送信された番組を含む信号を、かかる信号が適法な送信者の許諾なく暗号解除されたと知りながら、故意に受信かつ使用し、又は故意に再送信する行為、又は、仮にかかる信号が適法な送信者の許諾により暗号解除された場合には、それが当初暗号化された番組を含む信号として送信され、かつ、再送信が適法な送信者の許諾なくおこなわれることを知りながら、商業的利得のためにかかる信号を故意に再送信する行為


2. 各当事国は、暗号化された番組信号やその内容に利害を有する者を含む、第1項に記載される行為によって被害を蒙った者に、損害賠償を含む民事救済を与えるものとする。


第8条 特許
(略)
2. 各当事国は、下記の発明を特許対象とする:
(a) 植物及び動物、並びに
(b) 人間及び動物の治療のための診断・治療及び外科的方法
(略)


5. [いわゆるボーラー条項を予定]


6. [特許期間の回復/調整に関する条項を予定]
(略)


8. 各当事国は、発明の新規性若しくは進歩性を判断する上で、以下の場合には公表情報に含まれる情報を無視する:

(a) かかる公表が出願人によって若しくはその許諾によって行われ、又は出願人に由来し;かつ

(b) 当該当事国の領域における出願以前12ヶ月以内におこなわれた場合
(略)


第9条 一定の規制製品に関する方策
(薬品)
(略)

2. [薬品のデータ保護に関する条項を予定]


3. [パテント・リンケージに関する条項を予定]


(一般条項))
4. [特許期間とデータ保護の関係性に関する条項を予定])


第10条 知的財産権のエンフォースメントに関する一般的義務
(略)

2. 著作権若しくは著作隣接権を含む民事・行政及び刑事手続において、各当事国は、反対の証明がない限り、作品・実演及びレコードの著作者・実演家・製作者若しくは出版者として通常の方法で名称表示された者に対して、当該作品・実演及びレコードの指定された権利者であるとの推定を与える。各当事国はまた、反対の証明がない限り、かかる対象物には著作権若しくは著作隣接権が存在するとの推定を与える。商標を含む民事・行政及び刑事手続において、各当事国は、登録商標に対して、有効性についての反証可能な推定を与える。特許を含む民事及び行政手続において、各当事国は、特許の有効性についての反証可能な推定を与え、かつ、各特許請求について、他の請求の有効性からは独立して有効性についての推定を与える。


第11条 知的財産権に関するエンフォースメント実務
(略)


第12条 民事及び行政手続及び救済
1. 各当事国は、すべての知的財産権のエンフォースメントについて、権利者に対して民事司法手続を提供するものとする。
(略)


3. 各当事国は:
(a) 民事司法手続において、裁判体が侵害者に対し、権利者に以下を支払うように命ずることができる旨を規定するものとする:

(i) 侵害の結果として権利者が蒙った被害を補償するのに十分な損害額、及び

(ii) 少なくとも著作権若しくは著作隣接権侵害及び商標権侵害のケースにおいては、侵害に帰するべき、かつ上記(i)で言及した損害額の計算上考慮されていない、侵害者の利益。(以下略)


4. 民事司法手続において、各当事国は、少なくとも著作権若しくは著作隣接権で保護される作品・実演及びレコード、並びに商標権侵害に関して、権利者の選択によって提供され得る、事前に規定された損害額(法定損害額)の制度を導入若しくは維持するものとする。事前に規定された損害額は、将来の侵害を防止し、侵害による被害について権利者を十全に補償するのに十分な高さの金額であるものとする。特許に関する民事司法手続において、各当事国はその裁判体が、認定若しくは評価された被害額の3倍以内にまで損害額認定を増額することができる旨、規定するものとする。


5. 各当事国は、その裁判体に対して、例外的場合を除いて、著作権・著作隣接権侵害、商標権侵害又は特許侵害に関する民事司法手続の裁判において、敗訴当事者は勝訴当事者に対して裁判費用、及び少なくとも著作権・著作隣接権侵害又は故意の商標権侵害に関する手続においては、合理的な弁護士費用を支払うことを命じる権限を与えるものとする。更に、各当事国は、その裁判体に対して、少なくとも例外的な場合には、特許侵害に関する民事司法手続の裁判において、敗訴当事者は勝訴当事者に対して合理的な弁護士費用を支払うことを命じる権限を与えるものとする。
(略)


7. 各当事国は、民事司法手続において、以下を定めるものとする:
(a)例外的場合を除いて、海賊版若しくは偽造品と認定された物品は、権利者の要求により破壊され、
(b) その裁判体に、かかる海賊版若しくは偽造品の製造や創造に使用された素材及び用具をいかなる対価もなくただちに破壊する旨、又は、例外的場合には、いかなる対価もなく、更なる侵害の危険を最小化させる方法で流通経路外に置く旨、命じる権限を与える。(以下略)


8. 各当事国は、知的財産権のエンフォースメントに関する民事司法手続において、その裁判体に、侵害のあらゆる側面に関与する個人・団体について、並びに当該物品若しくはサービスの製造手段及び頒布経路について、侵害者が保有し若しくはコントロールする全ての情報を提供し、かつ権利者にも提供するよう、侵害者に命じる権限を与える。かかる情報には、侵害物品・サービスの製造及び頒布並びにその頒布経路に関与する、第三者の身元情報を含む。
(略)


12. 第4.9項(技術的保護手段)及び第4.10項(権利管理情報)に記載された行為に関する民事司法手続において、各当事国は、その裁判体に少なくとも次の権限を付与する:
(a) 禁止された行為に関与したことが疑われる装置及び製品の差押えを含む、暫定措置、
(b) 権利者に対する、蒙った現実の損害(及び侵害に帰するべき、かつかかる損害額の計算上考慮されていない侵害者の利益)若しくは事前に規定された損害の、いずれかを選択する機会の付与、
(c) 民事司法手続の裁判における、禁止行為に従事した当事者に対する、勝訴した権利者への裁判費用及び合理的な弁護士費用の支払命令、並びに
(d) 禁止行為に関与したと認定された装置及び製品の破壊命令。
当事国は、本項における損害の支払を、非営利の図書館・アーカイブ・教育機関若しくは非商業的な公共放送機関であって、自己の行為が禁止行為を構成すると知らずかつそう信じる理由がなかったことの証明責任を果たした者に、負担させてはならない。


第13条 暫定措置
1. 各当事国は、申立により、相手方の反論を要さず迅速に暫定措置を遂行するものとし、例外的場合を除いて、一般的にかかる申立を10日以内に実行するものとする。
(略)


第14条 水際措置に関する特別な条件
(略)

3. 関係当局が偽造品若しくは海賊版である物品を差し押さえた場合、当事国は関係当局に対して、発送者・輸出者・受領者若しくは輸入者の名称及び住所、製品の説明・量、並びに判明している場合には原産国を、差押から30日以内に権利者に通知する権限を付与する。
(略)


第15条 刑事のエンフォースメント
1. 各当事国は、少なくとも故意による商業的規模での商標権侵害又は著作権・著作隣接権侵害に対して刑事手続及び罰則を規定するものとする。故意による商業的規模での著作権・著作隣接権侵害は、以下を含む:
(a) 直接・間接での経済的利得の動機はない、故意による重大な著作権・著作隣接権侵害;及び
(b) 商業的利得若しくは個人的な経済的利得の動機のある、故意による侵害
各当事国は、偽造品・海賊版の故意による輸出ないし輸入を、刑事罰の対象となる違法行為として扱うものとする。
(略)


5. 第15.1ないし15.4項(略)に規定した犯罪について、各当事国は下記を規定しなければならない:
(a) (略)
(b) 裁判体は、偽造品・海賊版と疑われる物品、同罪の実行に利用された全ての関連素材・用具、侵害行為に起因するすべての資産、並びに同罪に関連するすべての書証の差押を命じることができる。各当事国は、命令により差押の対象となる物は、それらが命令において指定された一般的カテゴリーに属する限り、個別に特定される必要はない旨、規定するものとする。
(c) 裁判体は、他の措置とともに、侵害行為に起因するすべての資産の没収を命ずることができ、かつ、少なくとも商標権侵害のケースではそう命じなければならない。
(d) 裁判体は、原則として、以下を命じなければならない:

(i) すべての偽造品・海賊版、及び偽造標章からなるすべての物品の没収及び破壊;並びに

(ii) 海賊版・偽造品の製造に用いられた素材及び用具の没収若しくは破壊

さらに各当事国は、本項及び上記(c)による没収及び破壊は、被告に対するいかなる補償も要さず行われる旨、規定するものとする。
(e) 裁判体は、侵害行為から得られ、若しくは直接的・間接的に侵害行為を通じて取得された、資産の価値に相当する資産の、差押若しくは没収を命じることができる。
(略)
(g) 政府(authorities)は、本章に記載された犯罪に関して、私人若しくは権利者による正式な告訴を要さず、職権により法的手続を開始することができる


第16条 デジタル環境化でのエンフォースメントに関する特別な方策
(略)

3. 本条でカバーされるすべての著作権侵害行為に対する、有効な対策を可能にするエンフォースメントの手続を提供するため、本条で述べる枠組みと一貫した形で、各当事国は以下を規定するものとする。上記には、侵害を防止するための応急の救済及びさらなる侵害の抑止策となる刑事・民事的救済が含まれる。

(a) 著作権で守られた素材の権限なきストレージ及び送信を抑止するうえで、サービスプロバイダー(ISP)が著作権者と協力するための法的インセンティブ

(b) 本(b)で述べるように、ISPがコントロール・開始ないし指示していないが、ISPによって若しくはISPのためにコントロールないし運営されるシステムやネットワークを通じて発生する著作権侵害について、ISPに対して行使され得る法的救済の範囲の法的な制限

(i) かかる責任制限は、下記の機能のみを対象として、金銭的補償を排除し、かつ、作為ないし不作為に関する裁判所命令による救済に合理的な制約を加える
(A) 内容に変更を加えずにおこなう素材の送信・転送及び接続の提供、又はその過程における素材の中間的かつ一時的な蓄積;
(B) 自動的なプロセスにおいて行われるキャッシング;
(C) ISPにより若しくはISPのためにコントロールないし運営されるシステム若しくはネットワーク上の、ユーザーの指示による素材の蓄積;並びに
(D) ハイパーリンクやディレクトリを含む、情報探知ツールを用いたユーザーのオンライン上の場所に対する紹介若しくはリンク。

(ii) かかる責任制限は、ISPが素材の送信の連鎖を開始しなかった場合、かつ、(前記(i)(D)が何らかの形態による選別を必然的に伴う場合の、その限度での選別を除いて)素材や受信者を選別しない場合にのみ適用される。

(iii) 前記(i)(A)ないし(D)における各機能に関する責任制限のためのISPへの資格付与は、(iv)ないし(vii)に記載した資格条件に従い、他の各機能に関する資格付与とは独立して検討されるものとする。

(iv) (i)(B)に述べる機能に関しては、前記責任制限は下記のISPであることを条件とする:
(A) 当該素材へのユーザーアクセスに関する条件を充たした、自身のシステムやネットワークのユーザーに対してのみ、キャッシュされた素材の重要な部分へのアクセスを認めること;
(B) かかる素材をオンラインで提供した個人によって、当該個人が素材を提供したシステムやネットワークにおける一般に認められたデータ通信プロトコルの業界標準に従って特定された、キャッシュ素材に関するリフレッシュ・リロードその他のアップデートの規則に従っていること;
(C) 素材の使用に関する情報を取得するために発信サイトにおいて用いられる、その当事国の領域において認められた業界標準に従ったテクノロジーを阻害せず、かつ、その後のユーザーに対する送信において素材の内容を変更しないこと;並びに
(D) 発信サイトにおいて除去ないしアクセス不能化されたキャッシュ素材について、権利侵害の主張に関する有効な通知を受領した場合、ただちに除去ないしアクセス不能化すること

(v) (i)(C)及び(D)に述べる機能に関しては、前記責任制限は下記のISPであることを条件とする:
(A) 当該ISPが対象行為をコントロールする権利と能力を有する状況では、侵害行為に直接帰するべき経済的利益を受領していないこと;
(B) 下記(ix)に従った権利侵害の主張に関する有効な通知などを通じて、侵害を現実に知ったか、あるいは侵害が明らかである事実や状況に気づいた場合、ただちにそのシステムやネットワーク上の素材を除去ないしアクセス不能化すること;並びに
(C) かかる通知を受領する代理人を公に指定すること。

(vi) 本項における責任制限を受けるためには、ISPは後記の条件を充たさなければならない:
(A) 適正な状況下における反復侵害者のアカウントの終了を規定するポリシーを、採用し合理的に実施すること;並びに
(B) 当事国の領域で受け入れられた、著作権で守られた素材を保護し特定するための、オープンで自主的なプロセスを通じて著作権者とISPとの広範な合意によって確立され、かつ、合理的で被差別的な条件で提供され、かつ、ISPに多大なコストを課さずそのシステムやネットワークに多大な負担を課さない、標準の技術的手段を導入し、かつ阻害しないこと

(vii) 本項における責任制限を受ける上で、ISPは自らのサービスを監視し、また侵害行為を示す事実を積極的に探索することを条件づけられない。ただし、前述の技術的手段に沿う監視や探索を除く。

(viii) 前記(i)(A)で述べる機能に関する責任制限の資格をISPが満たす場合、作為ないし不作為に関する裁判所命令は、特定のアカウントの終了、又は特定の国内限定でないオンライン住所へのアクセスをブロックする合理的な措置に限定される。前記(i)で述べるその他の機能に関する責任制限の資格をISPが満たす場合、作為ないし不作為に関する裁判所命令は、侵害素材の除去及びアクセス不能化、特定されたアカウントの終了、並びに裁判所が必要と判断する他の救済に限定される。ただし、かかる他の救済は、同等の有効な救済形態の中でISPに対して最も負担の少ないものであることを条件とする。各当事国は、相対的なISPの負担と著作権者の被害、救済の技術的な実行可能性と有効性、並びにより負担が少なく同等に有効なエンフォースメントの手段が採用可能かを正当に考慮のうえで、かかる救済が発せられる旨を規定するものとする。証拠保全のための命令若しくはISPの通信ネットワークの運営上重大な悪影響がない他の命令を除いて、各当事国は、ISPが本項で言及した裁判所命令手続の通知及び裁判体での申述の機会を与えられた場合にのみ、かかる救済を取り得る旨、規定するものとする。

(ix) (i)(C)及び(D)で述べる機能における「ノーティス・アンド・テイクダウン」プロセスのため、各当事国は、その法令において、権利侵害の主張に関する有効な通知と、過誤や誤指定によって素材が除去ないし不能化される者による有効な反対通知のための適正な手続を規定するものとする。各当事国はまた、故意で通知若しくは反対通知において重大な虚偽の表明をおこない、ISPがかかる虚偽の表明を信頼したために利害関係者に被害を生じさせた者について、金銭補償を規定するものとする。

(x) ISPが権利侵害との主張ないし明白な権利侵害に基づいて誠実に素材を除去ないしアクセス不能化した場合、各当事国は、ISPが結果として生じたいかなる請求についても責任を免れる旨を規定するものとする。ただし、対象がそのシステムないしネットワーク上の素材の場合には、ISPはただちにシステムないしネットワークに素材を提供した者に対してその事実を告げるべく、合理的な措置をとるものとする。また、仮にかかる当事者が有効な反対通知をおこない、かつ侵害訴訟について裁判管轄に服する場合には、当初の有効な通知をおこなった当事者が合理的な期間内に司法救済を申し立てない限り、素材をオンライン上に回復するものとする。

(xi) 各当事国は、権利侵害の主張に関する有効な通知をおこなった著作権者が、ISPから、その保有する侵害を主張された当事国の身元情報をただちに取得できる、行政ないし司法手続を確立するものとする。

(xii) 前記(i)(A)で述べる機能において、ISPとは、ユーザーが特定するポイント間で、ユーザーが選択した素材について、内容の変更なく送信・転送若しくはデジタルオンライン通信のための接続を提供する者を意味する。また、(i)(B)ないし(D)で述べる機能において、ISPとは、オンラインサービス若しくはネットワークアクセスのための設備の提供者ないし運営者を意味する。
(略)


サイドレター(略)

以上

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