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コラム column

2011年5月30日

著作権法裁判

「古くて新しくて悩ましい ―映画の著作権保護期間について」

弁護士 唐津真美(骨董通り法律事務所 for the Arts)

■格安DVDはなぜ安いのか

格安DVD、激安DVDなどと銘打って、往年の名作映画やアニメが500円程度のDVDで販売されているものがあります。コンビニの棚に並べられた500円の名作映画を見て、ちょっと複雑な気持ちになる映画ファンもいるかもしれません。(といいつつも、筆者は「トムとジェリー」(1940年-)の初期の作品をまとめ買いして、その面白さに改めて感銘を受けました。)

市場に廉価で流通しているDVDの中には違法な海賊版も交じっていますが、コンビニの棚に堂々と並べられている商品は、著作権の保護期間が満了したと理解されているものです。格安DVDと映画の保護期間の問題については、2004年に施行された改正著作権法(以下「2004年改正法」)との関連で、1953年に公表された映画作品の保護期間が終了したかどうかが裁判で争われ、大きな話題になりました。この問題が「1953年問題」と呼ばれたために、今でも「1953年より前に公表された映画の著作権の保護期間は終了している」と理解している人が多いと思います。ところが、実は、映画の著作権保護期間は、それほど単純な問題ではないのです。今回のコラムでは、「古い映画の著作権保護期間」について、改めて考えてみたいと思います。

■映画の著作権保護期間はどう決まるのか

映画の著作権保護期間については、現行著作権法(1971年1月1日施行)のほか、旧著作権法による保護を考慮する必要があります。現行著作権法の施行時において、旧著作権法によって保護されていた著作物については、現行著作権法による保護期間よりも旧著作権法による保護期間の方が長い場合には、旧著作権法による保護期間が適用されるからです。つまり、古い映画の著作権保護を考える場合、まずは、1970年12月31日以前に創作されて公表されていたかどうかを確認する必要があることになります。1971年1月1日以降に公表された作品であれば、現行の著作権法だけを見れば良いのです。現行著作権法による保護期間は、2004年改正法により公表後50年間から70年間に延長されました。去年(2010年)の夏公開された映画については、2080年12月31日まで著作権が保護されることになります(かなり長いですね)。

他方、1970年12月31日以前に創作・公表されていた映画については、まず、旧著作権法による保護期間を算出することが必要です。1971年1月1日の時点で旧著作権法の保護が続いていた映画については、現行著作権法による保護期間と旧著作権法による保護期間を比較して、より長い方が適用される保護期間となります。次に保護期間延長の影響を見ます。2004年改正法の施行時(2004年1月1日)に、改正前の著作権法による保護期間(公表から50年間)も、旧著作権法による保護期間も終了していた映画については、著作権の保護が復活することはありませんが、2004年改正法施行時に保護されていた作品については、2004年の改正法による保護期間(公表後70年間)が適用されることになります。もっとも、旧著作権法の適用がある作品については、ここでも、2004年改正法による保護期間と旧著作権法による保護期間を比較して、より長い保護期間が適用されることになります。

ちなみに、1953年問題とは、1953年に公表され、改正前著作権法に基づく保護期間(公表後50年)に従うと2003年12月31日に保護期間が満了する予定になっていた映画作品について、2004年改正法の適用があるのかどうか争われた問題でした。この問題については、"2003年12月31日に著作権が終了した作品については、2004年1月1日施行の改正法は適用されない" (つまり公表後70年には延長されない)という結論で最高裁判所の判断が確定しています(平成19年12月18日最高裁第三小法廷判決)。

■旧著作権法による著作権保護期間

話がややこしくなってきましたが、「旧著作権法の保護期間が問題になる」と分かったところで、旧著作権法に目を移しましょう。改正後年月がたっている旧法は、市販の六法には記載されていないのが常ですが、数少ない例外が旧著作権法です。少し厚めの六法であれば、現行著作権法の後に旧著作権法が載っています。これは、旧著作権法が今もしっかり生きていることの証です(もちろんネットでも見られます)。
旧著作権法による映画の著作物の保護期間は、著作者の死後38年、ただし団体名義のものについては発行又は興行から33年、と規定されていました。まずは、「団体名義のものではない」映画について考えてみます。

旧著作権法にいう「映画の著作者」については、最高裁判所の判決(後述する平成21年10月8日最高裁第一小法廷判決)の中で、「映画の全体的形成に創作的に寄与した者がだれであるかを基準として判断すべき」と示されています。これは、現行著作権法の規定と同じ考え方といえます。旧著作権法の適用においても、現行著作権法の考え方に従って映画の著作者を決定する立場に立つと、監督に限らず、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の「全体的形成に創作的に寄与した者」は、映画の著作者として扱われことになりそうです。つまり、これらの者の中で最も遅い時期に死亡した者の死後38年間は、当該映画の著作権が保護される可能性があることになります。

さらに、アメリカ・イギリスなどの個人・団体が第二次世界大戦前、または大戦中に取得した著作権については、通常の保護期間に約10年間の戦争期間(1941年12月8日から平和条約発効時まで。米英については3,794日間。)を加算して保護されることになります(戦時加算)。大戦中に取得した著作権については、著作権取得時から平和条約発効までの期間が加算されます。

以上を前提とすると、ある映画の著作権保護が存続しているかどうかを判断するためには、各映画の、監督、プロデューサー、美術監督(美術)、撮影監督(カメラマン)等、著作者になる可能性のある者の没年をすべて調査して、"著作者となる可能性のある者のうち最後に死亡した者の没年の翌年1月1日から起算して38年間"に、必要に応じて戦時加算をした年数を、著作権保護期間だと考えるのが安全だということになります。書いてしまえば簡単そうですが、クレジットされている監督以外には名前もわからないというケースも少なくないので、これは決して容易な作業ではありません。

■団体の著作名義の表示がある映画

一方、旧著作権法は、団体名義の映画の保護期間については発行又は興行から33年、としていました。「ローマの休日」の最高裁判決の判断にならって判断すれば、各映画が団体(映画会社)"のみ"の著作名義をもって公表されている場合には、発行又は興行から33年で保護期間が終了するという結論になります。ところが、ここでいう著作名義の判断自体が単純な問題ではないので注意が必要です。
例えばハリウッドでは、各スタジオ(映画会社)が強い力を持っていますので、伝統的に映画は映画会社名義の下に公表され、原則として映画会社が映画に関するあらゆる権利を握ってきました。しかし、日本の最高裁判所は、たとえ団体である映画会社の著作名義の表示があったとしても、監督として個人名が表示されて公表されたような場合には、著作者の死後38年という保護期間の原則が適用されるという考え方に立っているのです(平成21年10月8日最高裁第一小法廷判決)。

訴訟の対象となったのは、チャールズ・チャップリンが原作・監督等を務めた映画でした。これらの映画の中には、米国において団体である映画会社を著作者とする著作権登録がされたものや、映画の映像上、映画会社が著作権者である旨が表示されているものもありましたが、同時に、チャップリンの原作に基づき、チャップリンの監督によって映画が制作されたということが、実名を持って示されていました(例えば"Written and Directed by CHARLES CHAPLIN")。このケースで最高裁判所は、旧著作権法に基づく本件映画の著作権保護期間は、チャップリンの死後38年間であって、米国において映画会社を著作者とする著作権登録がされたことや、映画の映像上、映画会社が著作権者である旨が表示されていることは、仮にこれらが団体の著作名義の表示に該当するとしても、結論に影響しないと判示したのです。(著作者の実名の表記が必要なのか、あるいは旧著作権法上、映画会社(団体)自体が著作者となることが許されていたのか、という問題はまた別に議論があります。)

■「古い映画の著作権保護期間は結局よくわからない」・・・でいいのか

このように見てくると、1953年以前に公開されたような古い映画であっても、著作権の保護期間が終了していると断言することはなかなか難しそうです。しかし、そうかと言って、「1970年以前に公表された映画はほぼ半永久的に保護期間が終わっているか判断がつかないから、全部許可を取りましょう」という結論のままでは、本来パブリックドメインとして広く利用を認められて良いはずの作品についてまで、その利用を抑制することになってしまいます。1971年以降に公表された映画と比較しても、いかにもバランスを欠く結論に見えます。やはり何らかの対策は考えるべきなのではないでしょうか。たとえば、旧著作権法からの経過措置規定を改正して、"旧著作権法による保護期間を判断する場合においては「著作者=映画監督」として、映画監督としてクレジットされた者の死後38年間で保護期間が終了する"、と明示してもらえれば、「他にも著作者がいるかも・・」という不安からは解放されることになります。保護期間以外の場面で著作者が問題になる場合には、現行法と同様に考えれば、映画の著作者の保護に欠けることにもならないと思われます。(福井健策のコラム「『全メディアアーカイブを夢想する』―国会図書館法を改正し、投稿機能付きの全メディア・アーカイブと権利情報データベースを始動せよ―」もご参照ください。)

いかがでしょうか。このコラムのタイトルにも書いたように、映画と著作権保護期間の問題は、古いようで新しく、今でも十分に悩ましい問題なのです。40年前に役目を終えたはずの旧著作権法の問題も絡んで、なかなか終結しそうもありません。まるでトムとジェリーの追いかけっこのように。

(ちなみに、上記の基準による判断結果の如何にかかわらず、日本の裁判所において著作権の保護期間が終了しているという判決が確定している作品については、日本においてはパブリックドメインとして扱われることになります。例えば「ローマの休日」や「シェーン」については、著作権保護期間が終了しているという最高裁判決が確定しています。)

以上

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