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コラム column

2010年10月27日

その他の知的財産法

「エンタテインメント業界と特許法 ~特許権侵害の警告書がきたら」

弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)

■エンタテインメント業界は特許権と無関係?

エンタテインメント業界と著作権は、毎日出会うとても身近な存在で、私たちがある作品を作ったときには、真っ先に著作権のことを考えます。しかし、エンタテインメント業界と特許権との関係となると、「名前くらいしか知らない遠い親戚」となってしまい、あまり意識しません。

しかしながら、イメージしやすいところでは、ゲームのハードウェアには多くの発明が詰まっています。電子書籍の機器にも、たくさんの発明が利用されております。また、ソフトウェア関連発明に対する特許(ビジネスモデル特許なども含まれます)が認められていることから、あるサービスを提供するシステムにも、特許が隠れている可能性があります。古くはアマゾンのワンクリック特許問題、最近では、グーグルに関する特許訴訟が提起されているとの報道など、ネットサービスにおいても特許が問題となります。一見、特許とは無関係に見えても、実は様々なサービスに特許が関わっている可能性があり、エンタテインメント業界も、特許と切っても切れない深い関わりがあるのです。


■特許権とは

では、特許権とは何でしょうか。特許権は、「発明」を保護する法律です(発明の定義は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とされています(特許法2条1項))。特許権を取得するときには、発明内容を記載した書面を特許庁に提出し、特許庁は、「特許権を付与すべきでない要件」(法律上で定められており、そのような要件を、「無効理由」といいます。)に該当していないかを審査した上で、無効理由がない場合には、晴れて特許権の登録がなされることになります。「特許権の登録」と書きましたが、特許は、著作権のように登録がなくても発生する権利ではなく、登録されて始めて権利が発生します。そして、登録された国だけで効力があります。

このような特許権には、著作権と同じように、他人が特許権の権利範囲の発明の実施(代表的には、発明を使った製品を販売する行為などがあります)を排除する効力があります。具体的には、①差止請求権(100条)、②損害賠償請求権、③信用回復措置(106条)、④罰則(196条)の定めがあり、その他、税関での差止(関税法69条11第2項)も認められている、非常に強力な権利です。


■特許権侵害であるとの警告書が届いたら

ある日、ある特許権を持っているというX社から、貴社の製品は特許権を侵害しているから製品の製造中止と損害賠償を求めるという警告書が届いたら、どのように対応すべきでしょうか。貴社の製品は、自社で開発をしていない場合でも、他社から調達していた部品を使用していた場合や、貴社が第三者に委託して開発させた製品に対して警告書が来る可能性もあります。

交渉のきっかけのために警告書を送付し、交渉が決裂したら裁判を提起するケースが通常ですが、相手方が急いでいるときには、差止仮処分の裁判を突然提起してくるケースもあります。裁判を提起されたときも、下記と同じような対応をとります。


(1) 検討①~特許原簿から読み解く特許

警告書には、通常特許の番号が記載されていますので、本当に貴社が特許権侵害をしているか、相手方からの警告書を検証することから始まります。

  • X社は本当に特許権者か?
    相手方が、特許権に基づく権利行使が可能かどうかは、ここから始まります。X社が権利者かどうかは、特許庁から「特許原簿」を入手して確認します。

たとえば、差止請求は、特許権者か専用実施権者が行使できます。権利の移転や専用実施権の設定は、登録しなければ効力を生じないため(98条)、まずは特許原簿を確認することになります。

  • 特許は実は消滅しているのではないか?~特許原簿からの確認
    特許原簿には、他にも、出願日、特許料の納付状況や、無効審判提起されたことがあるかなどの情報が記載されております。ここでは、「特許出願日から20年」という特許権の存続期間内であるか、特許料の未払いによって権利は消滅していないか、無効審判が提起されたことがないか、などを考えます。

(2) 検討②~X社の特許の権利範囲と貴社製品の検討

基本的な情報を入手した後は、本当にX社が警告するように、自社の製品が権利を侵害しているのか、実際に、X社の特許の内容を検討することになります。

  • X社の特許をよりよく知るために~「包袋」を読み解く
    まず、X社の権利がどこまでの範囲かを確認します。特許の権利範囲は、「特許請求の範囲」(これを、「クレーム」といいます。)の記載に基づき定められます(70条1項)。「特許請求の範囲の記載」は、インターネットで入手できる特許公報で確認できますが、特許公報だけではわからない事実もたくさんあります。たとえば、特許査定がなされるまでの出願人と審査官のやりとりは、結果だけを示す特許公報ではわかりません。特許の審査を行う過程で出願人と特許審査官の間でどのようなやりとりがあったかを確認することは、特許権の権利範囲をよりよく知るために必須なことです。このような、出願人と特許審査官のやりとり(出願経過)が記載された書類を、「包袋」と呼んでいます。包袋は、特許権の設定登録がなされているものについては、基本的に誰でも見ることができます。

審査経過では「権利範囲外」であると主張していたことを、権利行使の際に権利範囲内であると主張することは認められておりません(「包袋禁反言」)。包袋は、特許権者がどの範囲の権利を除いて特許権を取得したかを考える、重要な書類です。

  • 貴社製品は権利の範囲内か
    このように読み解いたX社の権利を貴社製品が使っているかを検討します。

貴社製品が特許請求の範囲に含まれている発明を実施しているかどうかを検討するに際しては、警告書に記載された特定の製品の品番を検討するだけではなく、同様の技術を作った他の品番の製品が自社にないか、いつからそれらの製品を製造し始めたのか、その製品の生産は終了しているかどうかも確認します。これらの製品についても調査する理由は、特許権侵害の可能性があることもさることながら、X社の特許が出願される前から実施していた発明は特許権侵害とならないというルール(先使用権。79条)があるため、反論の材料に使える可能性があるからです。


(3) 検討③~同業他社からの情報収集

警告書が送られてきた場合には、同業他社にも同じ警告書が送られてきている可能性があります。もし可能であれば、他の会社に警告書が来ていないかなどを確認することも検討してみてください。たとえば、同じ特許で警告されていた場合には、特許無効審判を共同提起することも可能となります。また、既に他社でライセンスを締結している場合には、ライセンスが必要となるような、相手方特許が無効の議論に耐えうる強い特許であることなどが推測できます。調査の過程で、X社が他社へライセンスする使用料の基準が判明し、「相手方のロイヤルティの相場観」が判明することもあるでしょう。

この情報収集については、最近では、特許侵害訴訟を提起したことやクロスライセンスを締結したことをプレスリリースで公表する場合もありますので、ホームページからも何らかの情報を入手できる可能性があります。


■対応を考える

(1) 基本的な反論

相手方は、貴社製品は特許権の権利範囲であると主張しているわけですが、こちら側の反論としては、大きく2つの反論が考えられます。つまり、i)特許権の権利範囲内ではない(「非侵害論」)、ii)特許権は無効である(「無効論」)あるという反論です。

この主張は、実際に訴訟が提起されても同じように主張します。実際の裁判では、裁判所は、まず非侵害論、無効論を審理し、X社特許を貴社製品が侵害していると判断した場合には、損害賠償をいくらにするかを審理します(審理段階が2段階あるため、「2つのステージがある」などと言われます)。

  1. 非侵害論は、X社の発明は、自社製品では実施していないという主張です。ここでは、「特許請求の範囲」の解釈と、なぜ自社製品は発明を実施していないのか、つまり自社製品とX社の発明を比較して、「特許請求の範囲」のどの部分が具体的にあてはまっていないのかを、具体的に説明できるかがポイントとなります。

自社製品が特許発明を実施していないという主張は、相手方の主張の否認ですが、ここの非侵害論の議論には、自社が「先使用権」や「試験又は研究のためにする実施」など、自社製品が特許発明を実施していても、その利用が法律上認められている場合を含み、これらは、X社の権利侵害主張の抗弁となります。

  1. 無効論は、X社の特許は、特許査定が下され、特許となっているものの、実は特許無効理由があるから、権利行使できないと反論するものです。一度特許として認められているから、無効理由があるとは思われないかもしれませんが、審査官も発見できなかったような文献が見つかったりすることも多くあります。

特許無効理由の代表的なものとしては、特許出願前に同じ発明が知られていた(新規性の欠如)、同業者が少し考えればできるような発明であった(進歩性の欠如)、他人の先に出した特許が同一(先願同一)、特許の書類の記載不備(明細書の記載不備)などがあります。


(2) 「回避」するということ

X社と貴社の交渉の結果、①非侵害論について貴社製品はX社特許を実施していたとされ、また、②無効論についてもX社の特許は無効ではないとされた場合には、貴社製品はX社特許を侵害していたことになります。もし、そのような貴社製品を貴社が作り続けるためには、①X社へ対価を支払い、ライセンス契約を締結する手法や②X社の特許権それ自体を譲り受けるという手法があります。

①ライセンス交渉をする際には、単純にその特許だけのライセンスを締結する方法もありますが、X社との今後の紛争を避け、かつ安くライセンスを受けるためには、貴社は、貴社の特許をX社製品が侵害していないかを検討し、クロスライセンスを締結できないかなどを検討することになります。このようなクロスライセンス契約締結のためには、両社の会社の特許力を知るために、相手方であるX社製品の調査の他にも、X社がその他に類似の特許を持っていないかなども調査する必要があります。

上記以外に、③代替技術への設計変更で特許を回避する方法があります。つまり、特許を侵害しないように、機能はそのままに、製品を造り変えてしまうことです。
このような設計変更は、特許侵害が確定する前にも、検討すべきものです。なぜならば、設計変更が可能であれば、貴社としては、万が一特許権を侵害していることになっても、貴社製品の製造を中止する必要がなくなりビジネスへの影響を最小限に食い止められること、X社としては製品の差止という武器がなくなり、過去分の損害賠償のみが請求可能となることから、和解もしやすくなるなど、多くのメリットがあるからです。
設計変更を検討する際には、今問題となっている技術はそもそも設計変更が可能な技術であるのか、可能である場合にはその設計変更がもたらすコスト増はいくらくらいなのか(特許ライセンスを受けるほうが安いのか)、設計変更した後の製品が、X社を含むその他の特許を侵害しないかなどを検討します。


■そして回答へ

警告書に対する回答書を送る際には、相手方へどの程度の情報を提供すべきかなどは、特許訴訟に発展した後のことを想定しながら、返答しなければなりません。また、X社の警告書の内容によっては、不正競争防止法違反や、脅迫罪に該当する可能性もあるため、その点に関する検討も忘れてはなりません。

特許侵害の警告書には、通常、「2週間以内で回答しろ」などと記載されていることもあります。しかしながら、突然警告書が送られてきたにもかかわらず、相手方の特許解析、自社の製品の調査を2週間で行うことは、事実上困難なケースが多いのが実情です。このような場合には、相手方に調査中であり返答を待つように回答する他に、なぜ侵害しているのかをより詳細に説明するよう促す方法もあります。つまり、X社には、貴社製品が特許権を侵害していることを明らかにしなければならないため、詳細な主張を聞いてみることもあります。相手方の詳細な主張を聞くと、実は根拠のない主張であったことが明らかになる場合もあれば、こちらでも気付かない部分に対する主張であったことなどに気付くこともあります。ただ、相手方の主張を待つだけではなく、相手方特許の検討は並行して進めておく必要があります。

特許という「めったに会わない遠い親戚」は、実はとても近いところにいて、いつでも警告書がやってくる状況にあるかもしれません。特許は、著作権とは違った対応が必要な部分もありますが、このような警告書が来たときに共通していることは、「落ち着いて対応する」ということが一番重要です。著作権の紛争と同様、いきおい長丁場になりますので、初動から、じっくり腰を据えて対応し、交渉を重ねることが求められます。


以上

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