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コラム column

2009年3月23日

その他の実体法契約IT法

「ネット販売とクーリングオフ」

弁護士 二関辰郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)

■特定商取引法の改正

インターネットを通じた各種商品の販売、音楽配信、コンサートチケットの販売など、ネットを通じて商品やサービスを提供するビジネスが盛んです。

特定商取引法(かつてのいわゆる訪問販売法)は、こういったネットを通じたビジネスを通信販売と位置づけ、通信販売に関する規制を及ぼしています。

従来、通信販売にはクーリングオフに関する規定はありませんでした。しかし、2008年6月に成立した特定商取引法の改正法(「改正法」)によって、クーリングオフ類似の仕組みが設けられました。クーリングオフとは、申込または契約時から一定期間(訪問販売・電話勧誘販売等では8日間)、消費者が冷静に考え直して、無条件に契約を解約できるという仕組みです(改正法に関する情報は、(http://www.no-trouble.jp/houkaisei/tokusyo.htm)で入手できます)。

改正法によれば、通信販売の場合、広告に申込みを撤回できない旨特約を表示していた場合を除き、商品の引渡し又は指定権利の移転を受けた日から起算して8日間、キャンセル(返品)ができます。したがって、改正法の下でも、返品不可・キャンセル不可という趣旨の表示が適切に表示されていれば、クーリングオフの適用は避けることができます。本来のクーリングオフは、事業者が特約によって排除することができない仕組みなので、新たな仕組みは、厳密にいえばクーリングオフではありません。ただし、ここでは便宜上、単にクーリングオフと言います。

■訪問販売・電話勧誘販売と通信販売との違い

訪問販売法や電話勧誘販売ではクーリングオフが事業者の義務とされているのに対し、通信販売では義務とされていません。このように訪問販売・電話勧誘販売と通信販売とで区別されているそもそもの理由については、次の経産省担当官による説明が明快でしょう。

「訪問販売や電話勧誘販売のように事業者が消費者に対して、不意打ち的に積極的な働きかけをして、契約を締結させるという状況は、通信販売の場合では生じません。通信販売は、基本的に消費者が自ら事業者にアプローチをして、契約締結に至るのですから、熟慮期間を与えて契約の再考を促すべく、無条件で契約を解消できるという制度を導入する必然性に乏しいと考えざるを得ません。」(2008年4月21日(社)日本通信販売協会主催 特定商取引法等改正説明会 経済産業省消費経済政策課石塚氏の説明。なお、全文をhttp://www.no-trouble.jp/u/pdfs/0421kouen.pdfで読むことができます。)

このような考え方から、改正法でも、通信販売については、クーリングオフを法律によって強制するのではなく、特約で排除できる仕組みとしています。改正法が成立した当時、通信販売についてもクーリングオフがすべて義務づけられるかのような報道もあったようですが、正確ではありません。

■表示の場所と記載内容の注意点

現行の特定商取引法でも、キャンセル(返品)の可否については表示しなければならないことになっています(特定商取引法11条4号)。そのため、すでにネット上で返品を受け付けない旨、あるいは返品に関する条件を表示している場合も多いと思いますが、表示の方法と記載内容に注意が必要です。

<表示の方法>
改正法(15条の2)では、単に「当該販売業者が申込みの撤回等についての特約を当該広告に表示していた場合」と言っているだけですが、消費者にとって分かりやすい返品条件の表示である必要があります(今後、そのような趣旨の政令ないし省令が作られることが見込まれます)。

たとえば、ウエブサイトのトップページから1度クリックすれば特定商取引法11条の要求する広告表示を読めるようにしている例や、あるいは会員規約等に返品不可という記載や返品条件を記載している例も多いと思います。しかし、その場所に返品不可という趣旨の記載を表示しているだけでは、表示方法(場所)として適切ではないとされる可能性があります。

この点、先に引用した経産省担当官は、「ネット通販特有の問題としては、ある商品の画面にどうやってたどり着くかは事前の予測ができません。よって、トップ画面に返品条件が書かれていたとしても、その表示を消費者が見る保証がないのです。...消費者にとって見やすいところ、必ず契約締結までのプロセス上で到達するところに表示しなければ、意味がありません。」と指摘しています。

今後作られるであろう経産省の関連規則では、注文確認画面など、契約締結までのプロセスで申込者が読む画面に返品不可の記載が必要とされることになることが予想されます。

<記載内容>
現状の表示内容として、たとえば、「通信販売では返品はできません」あるいは「通信販売にはクーリングオフの適用はありません」といった記載をしているケースがあるかもしれません。

このような記載は、現行法の説明としては正しいものです。しかし、改正法の下では、特約によって排除しない限り返品ができますので、むしろ原則が返品可、例外が返品不可と逆転します。したがって、改正法の下では、上記のような説明では適切でないとされる可能性があります。一般的な法律内容や状態を説明するのではなく、「(自己の提供する商品やサービス)はキャンセル(返品)できないのだ」という趣旨を明確に記載した方がよいでしょう。

■適用範囲の拡大

従来、特定商取引法では指定商品・指定役務(サービス)制がとられており、法律の適用対象は政令のリストに載っていた商品・サービスに限られていました。しかし、改正法によって、指定商品・指定役務制は廃止となり、生鮮食料品など解約になじまない物を除き、原則としてすべての商品・サービスに特定商取引法が適用されることになります。

したがって、改正法が施行されると、ネット上での商品販売や役務提供は基本的にすべて特定商取引法の規制を受けることになります。

■施行時期や対応等

改正法は2008年6月に成立し公布されていますが、まだ施行はされていません(一部先行して施行された部分もありますが、ここでとりあげた内容に関する部分は未施行です)。2009年3月時点では、具体的にいつが施行時期になるかは未定です。ただし、改正法では、施行時期は、改正法の公布から1年6か月以内とされていますので、遅くとも2010年1月には施行されることになります。この施行に先立って、今後、経産省の関連規則が制定され、ガイドライン等も出されることが予想されます。

ところで、ここでは事業者の立場からキャンセル(返品)は不可とすることを前提に書いてきました。たしかに、キャンセルされてしまうと、事業者のみならず他の購入希望者にも迷惑がかかるコンサートチケットや、キャンセル可能期間中に次の最新号が出てしまう週刊誌等の場合には、キャンセル不可としておかないとビジネス自体が成り立たなくなるおそれもあるでしょう。他方、そのような事情のない商品では、実物を見たうえで、やはりキャンセルしたいと考える消費者の希望をむしろ尊重する仕組みが望まれる場合もあるでしょう。

(社)日本通信販売協会の定めている通信販売倫理綱領実施基準でも、原則として返品は受けることとされています(http://www.jadma.org/guideline/01.html)。商品ないしサービスの性質や特性に照らして、返品可とするか不可とするかの方針を決めることが求められます。

以上

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