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コラム column

2017年4月27日

文化・メディア著作権法裁判

「コスプレは著作権侵害か?マリオカート提訴が開くパンドラの箱」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

初回の弁論で業者側が全面的に争う姿勢を見せるなど、その後も取材が断続的に続く「マリカー裁判」。渋谷などで今日も元気に走行中の、任天堂の「スーパーマリオ」等のコスプレをした人々がなぜかサッパリわからないがうれしそうに公道でカートを乗り回してる、あれである。どうやらマリオ達の登場する人気ゲーム「マリオカート」(愛称マリカー)に着想したサービスで、その名も「マリカー」と名乗る会社がコスプレ衣裳とカートを貸し出し、なかなかの人気らしい。これに任天堂が怒った。社名での無断使用やコスプレ衣裳の貸出などを不正競争防止法違反・著作権侵害として提訴したというのだ。
だが待ってくれ。コスプレといえば今やコミケなどオタク系ばかりか、学園祭から地域イベントまでニッポン文化の代名詞と言っても過言ではない。いや、演劇界なんて歴史的にはコスプレやり放題である。かなりの有名作品でも結構メインでアニメや漫画のキャラが出たりする(名前は出せないが○○とかね)。しかも最近では2.5次元ミュージカルなんて「公式コスプレ」が大隆盛で、その傍らで無許可のコスプレも脈々と残っている。こりゃ結構全然ひとごとじゃないぞっていう、今日はそのコスプレの著作権を70センチばかり掘り下げてみよう。
考える順番は次の通りだ。

①無許可でコスプレ衣装を制作する場合、著作権侵害なのか
②市販のコスプレ衣装の場合、それを着てイベントに出たり、画像をネットにアップする行為はOKか
③個人がコスプレ衣装を制作したり人前に出る行為はどうなのか

① 無許可で衣装を制作した場合

まずはコスプレ衣裳を自社で制作した場合はどうか。もともとのアニメや漫画は著作物なので、立体的であれそれを無断で再現すれば著作権侵害である(複製権・翻案権)。現に過去には、いわゆるヒーロー戦隊もののコスプレ衣装を製造・販売した業者や個人が逮捕されたり、罰金刑を受けた件なども報道されている。はい、おしまい!
・・・はまだ早い。確かにドラえもんやピカチューをそのまま着ぐるみ化したら恐らくアウトだろう。しかし、例えばこの映像の「マリカー」社版マリオはどうだろう。



【YouTube】今日は19台が連なる楽しそうなレンタル公道カートの「マリカー」

MARIO
任天堂HPよりオリジナルの「マリオ」

一見、全然だめそうだ。だってどう考えてもマリオである。特徴ある赤い帽子にMの文字。赤いセーターに青のオーバーオール、白い手袋。全身でマリオを主張してる。こりゃもうダメだろう、と思う。ところが、現在の裁判所の著作権侵害の基準は結構厳しくて、マリオを名乗ったり連想させるだけでは実は成立しない。

著作権は、自分の作品と似た表現を全世界的に50~100年にもわたって法的に禁止できる、極めて強力な権利だ。よって、逆にいえば「本人及び遺族に長期独占させても良いレベルの類似」だけが法的に禁止される。ある程度「ありがちな表現」や「アイディア」が類似するくらいで禁止していては、新たな創造が育たない。知的財産制度には本来的に、「軽いフリーライド(ただ乗り)だが違法とまではせず、その評価は市場に委ねる」という領域があるのだ。

例えば、この「博士イラスト事件」などどう思うだろう。

イラスト事件
東京地裁2008年7月4日判決より 左:原告イラスト 右:被告イラスト

被告(右側)は原告(左側)のイラストを知っていた。つまり偶然の一致ではない。だが裁判所は、「このくらいでは博士としてありがちな要素が似ているだけなので侵害とまでは言えない」と判断したのだ。著作権界にも衝撃が走ったくらいだから異論のある方も多いだろうが、少なくともこの位のケースでは「微妙」なのが現状だ。
ではマリカーはどうか?話を貸与されたコスプレ衣装に限定すれば、原作マリオとの類似性は顔などを除いた、この「衣装部分」だけで考えることになる。そして繰り返すが「マリオとわかる」ことと「著作権侵害で法的に禁止される」ことは、別な問題だ。ふむ・・・。かなり際どいので自分の依頼者には勧めないが、何枚かの写真で見る限りは、まあ裁判結果を予測しにくい程度には微妙だろう。そしてこの手の、法的に微妙なコスプレや二次創作も世間には多い。(この辺り、先日刊行された中山信弘・金子敏哉編『しなやかな著作権制度に向けて』(信山社)の中で、白田秀彰教授のパロディ同人誌を題材にした意欲的な分析がある。)

② 市販のコスプレ衣装ならOKか?

「なるほど、しかしそれは衣装まで制作した場合だろう。市販のコスプレ衣裳を買って来たらどうなんだ。我々は作っていないんだから問題ないだろう?」
実は、必ずしもそうではない。著作権は複製行為だけでなく、無断での「公衆への貸与」も禁じており、マリカー裁判ではここが問題視されている。仮に、市販のコスプレ衣装が著作権侵害になるレベルでオリジナルに類似しているなら、その「製造」には権利者の許可があっても「貸与」は無許可となって、侵害は成立するのだ。
まして、そうした衣装を着た姿の画像や映像をネットに上げれば無断の公衆送信である。今度は衣装だけでなく、着た人の表情など姿全体をオリジナルと比較することになるから、より侵害が成立しやすいケースもあるだろう。同じくDVD化すれば、そこで無断の複製をしたことになるので、やはり危ない。
では一般的に、市販のコスプレ衣装を着てイベントに出るだけならばどうか?衣裳を着て演ずる行為は「上演」か?これはかつて、日本舞台美術家協会と新国立劇場との間で論争になったことがある。判例が出たことはないが、オリジナルにそっくりの姿で演じているなら「上演」のように思える。となればウェブ配信やDVD化はもちろん、十分似たコスプレは単にイベントに出演するだけでも上演権侵害の可能性があることになる。それが任天堂の許可を得た公式の市販衣裳だろうが、上演や公衆送信は製造とは別な利用行為なので基本的に関係がない。なかなか、大変なのだ。

③ 個人のコスプレはどうなる?

「じゃあなぜこれまで出来ていたのだ?だったら個人が公衆の前でコスプレする行為も全部同じじゃないか?あれはみんな許可を取ってやっているのか?」
いや、取っていないものも多い。出来てきた理由は恐らく3つ挙げられる。ひとつは、「単にあまり似ていない」。これは多い。ふたつめは、個人がコスプレ衣装を制作したり、対価などを受け取らずに人前で演ずる行為は、(仮に後者が上演だとしても)私的複製(私的翻案。30条)や非営利上演(38条)といって、現行法の例外規定があって許されるという解釈だ。もっともこれには異論もありそうだし、そもそも営利目的でイベントに出たり、写真などをアップする行為には例外規定はない。
そこで最後の理由、「見て見ぬふり」だ。日本のパロディや二次創作は伝統的に、権利者もうるさいことを言わない「お目こぼし」「見て見ぬふり」で成立して来たのだ。しかし、今回のようにやり過ぎと判断すれば叩かれる。また、近年はウェブ上などの炎上も心配だ。理論上は著作権侵害で単にお目こぼしとなると、義憤にかられたり別な動機をもった第三者が「そのコスプレ侵害だろ!」と問題視した場合、大炎上しかねない。これが特に懸念されたのが、TPP関連で話題になった「非親告罪化」で、この時にはパロディやコスプレを萎縮させないかと、国内でも異論が強かった。現在も、文化審議会などの場でパロディを著作権的にどう位置付けるかの議論は断続的に続いている。

こうして見ると今回の事件、やはりゆくえは気になって来る。裁判全体でいうと、社名の「不正競争行為」の方はやや「マリカー」側に有利な特許庁の判断なども最近あったし、コスプレの点も、どうも報道だけを見るとマリカー側は正面から争わない可能性もあるようだが、果たしてコスプレの是非にまで司法の初判断が下されるか。要注目!のマリカー裁判である。


本稿は、日本劇作家協会「ト書き」58号の連載『福井健策の演劇×著作権×法律』を大幅加筆したものです。

以上


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