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コラム column

2012年11月29日

その他の知的財産法著作権法裁判

「その名前、誰のもの?
 ~ターザン事件判決(知財高裁平成24年6月27日判決)と商標法4条1項7号~」

弁護士 鈴木里佳(骨董通り法律事務所 for the Arts)

「ターザン」。
この「ターザン」という言葉から、みなさんは、何をイメージされるでしょうか。
ディズニー製作によるアニメ映画の「Tarzan」や、まぶしい肉体美が表紙の雑誌「Tarzan」。
年代や性別により、連想するイメージは様々かと思いますが、もっとも多いのは「アーア・ アー」という雄叫びをあげて、ジャングルを飛びまわる野生児のイメージではないでしょうか。
この野生児のイメージ。1912年以降に出版された、米国の作家エドガー・ライス・バローズによる小説「ターザン・シリーズ」の主人公がもとになっていることは、さほど多くの方がご存知ではないかもしれません。
「ターザン・シリーズ」は、1930年代のハリウッドにおける映画化の人気により世界中に普及し、主人公ターザンも世界的に有名になりました。
最近では、1999年に劇場公開されたディズニー版「Tarzan」が世界的にヒットしましたが、こちらも小説「ターザン・シリーズ」をもとにした作品の一つです。また、雑誌「Tarzan」についても、マガジンハウス社は、小説「ターザン・シリーズ」の著作権者(本事案の原告)からライセンスを受けているようです。

今年の6月に、この小説「ターザン・シリーズ」との関係で、「ターザン」という商標につき、公序良俗を害するおそれがあるため、登録が許されないと判断した判決がだされました。
今回のコラムでは、このターザン事件の判決(知財高裁平成24年6月27日判決[PDF:268KB])について紹介したいと思います。

■ 事案のあらまし

問題とされた商標は、「ターザン」の文字(標準文字)から成り、(第7類)プラスチック加工機械器具等を指定商品とするものです。小説「ターザン・シリーズ」の作者バローズとは何らの関係もない、被告が平成22年7月16日に登録を受けたものです。日本における上記小説の著作権の存続期間は平成23年5月22日まででしたので、商標が登録された当時は著作権の保護期間中でした。

会社名や商品名・ブランド名について、商標として特許庁に登録すると、指定した商品やサービスに関して、その名前を独占して商標として使用できるようになります。
具体的には、登録商標と同じまたは似ている商標を、指定商品やサービスに関して使用している者に対し、使用の差止めや損害賠償請求をすることができます(ただし、商標登録の効果は、指定商品・サービスにより制限されます。そのため「X」という商標につき、書籍を指定商品として登録を受けたとしても、「X」という店名の居酒屋を営む者に対して、使用を禁止することは、通常できません)。
そのため、本件商標の登録を受けていた被告は、指定商品との関係では、「ターザン」という語を商標として独占できる状態にありました。
これに対し、バローズから書籍に関する権利を譲り受けた原告(バローズによる設立法人)が、①「ターザン」という語は、アメリカの象徴ともいえる世界的に著名なキャラクター名であり、商標権により「ターザン」の語を独占する行為は国際信義に反する、また、②原告らの努力によって多大な経済的価値をもつことになった「ターザン」という語について、商標権登録を得る行為は取引秩序の公正を乱すものであるとして、特許庁に対して、本件商標登録を無効とするよう求めました。
特許庁は、本件商標は、商標法4条1項7号の規定する「公序良俗を害するおそれのある商標」には該当せず、原告らの請求は不成立であるとの審決をだしました。そこで、原告が審決の取消を求めたのが本件です。

■ 公序良俗を害するおそれのある商標とは

商標法の3条と4条は、商標登録に関するいくつかの条件を列挙しており、条件の一つでも該当すると、商標登録を受けることができません。
これらの条件のうち、法4条1項7号は、公序良俗を害するおそれのある商標は、登録を受けることができないことを規定しています。
「公序良俗を害するおそれ」というと、商標自体がひどく悪趣味だったり、いかがわしかったりするものであるようにも思われます。
しかし、実際には、以下の類型のものが含まれると解されています(知財高裁平成18年 9月20日知財高裁判決[PDF:313KB])。

①構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激もしくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合のみならず、

②指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、

③他の法律によって、当該商標の使用が禁止されている場合、

④特定の国や国民を侮辱し、または一般に国際信義に反する場合、

⑤当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合


例えば、平成24年10月末には、「富士山世界文化遺産センター」という文字(標準文字)から成る商標(指定役務:建物の管理等)が、公序良俗を害するおそれのある商標に当たるため登録は許されないとの判決(知財高裁平成24年10月30日判決[PDF:219KB])がだされました。
同判決は、平成24年1月、日本政府が、富士山の世界遺産登録に向けて出願を行い、国や静岡県・山梨県が登録実現に向けて活動を開始していることなどを踏まえ、一私人を権利者として、上記商標が登録されてしまうと、国や地方自治体による世界遺産登録に向けての施策の妨げになり、社会公共の利益に反すると判断したのです(おそらく、上記の類型②に該当するとの判断でしょう)。そして、「富士山世界文化遺産センター」という商標は法4条1項7号により登録できないと判示しました。
このように、商標そのものが、悪趣味だったり、いかがわしくなくても、「公序良俗を害するおそれのある商標」に該当することは、これまで複数の裁判例・審決例において判示されています。
また、近時、著作物の題名やキャラクター名を含む商標についても、「公序良俗を害するおそれのある商標」に該当すると判断される範囲が広がりつつあります。

■ 著作物の題号・キャラクター名と商標法4条1項7号

商標法には、著名な著作物の題名や、登場人物・キャラクターの名前を含む商標の登録を明示的に禁止する規定は存在しません。また、その登録に商標権者の承諾を必要とする旨の規定も存在しません。
実際に、「風と共に去りぬ」、「アンデルセン物語」や「坊っちゃん」といった、著名な作品の題名が商標として多数登録されています。
他方、著作物の題名やキャラクター名は、著作物の評価や名声と一体となって、題名やキャラクター名自体が、顧客吸引力という、大きな経済的価値をもつ場合があります。
大きな経済的価値のある題名やキャラクター名について、作品と何ら関係のない第三者が、商標登録を受けることは、不正なフリーライド(ただ乗り行為)、あるいは、著作権者による著作物の利用の不正な妨害として、法4条1項7号により許されないのではないかという点が、これまで多くの審判決において争点とされていました。

ポパイマフラー事件最高裁判決(最高裁平成2年7月20日判決[PDF:13KB])においても、この点が争われました。
具体的には、漫画「ポパイ」の著作権者からライセンスを受けて、「POPEYE」の文字から成る標章(マーク)を、ワンポイントマークとしてマフラーに付して販売していた被告に対し、「POPEYE」の文字を含む商標(ポパイ商標。指定商品:被服など)の登録権利者である原告が、商標権侵害を理由として損害賠償を求めた事案です。 最高裁は、ポパイ商標は、漫画ポパイの主人公としてイメージされる人物像の著名性を無償で利用するものであり、漫画の著作権者の許諾を得てポパイマフラーを販売している者に対して、原告が商標権侵害を主張するのは、公正な競業秩序を乱すものであり、権利の濫用に当たるため認められないと判断しました。
具体的には、①(i)ポパイ商標の登録出願当時、漫画の主人公「ポパイ」が、一貫した性格を持つ架空の人物像として、日本国内を含む全世界において、広く人気を得て定着していたこと、(ii)漫画の主人公「ポパイ」が想像上の人物であって、「POPEYE」という語は、漫画の主人公「ポパイ」以外の意味をもたないことから、「ポパイ」の名称は、漫画の主人公としてイメージされる人物像と不可分一体のものとして広く親しまれてきたこと、②公正な競業秩序を維持することが商標法の目的の一つであることなどが理由として挙げられました。
この判決の後、特許庁は、同様の理由により、ポパイ商標が「公序良俗を害するおそれのある商標」に該当すると判断し、ポパイ商標の登録は抹消されました。

■ 本判決の結論

では、ターザン事件では、いかなる判断がされたのか、具体的に見ていきます。 まず、判決は、ターザンという語の周知性の有無(需要者に広く認識されているか)について検討し、「ターザン」という語は、ジャングルの王者という漠然としたイメージのものとして一定程度知られているものの、バローズの著作物の題号またはその登場人物の名称として、あるいは、原告が管理する標章として、本件商標の登録査定時に広く知られていたとはいえないと判示しました。
また、本件商標の指定商品(プラスチック加工機械器具等)のように一般消費者を対象としない取引分野において、「ターザン」の語が、経済的に一定程度評価しうる顧客吸引力を有しているとまでは認められないと判断しました。そして、商標の登録が、「ターザン」のイメージやその顧客吸引力に便乗しようとする不正の意図に基づく剽窃行為(パクリ)であるとまではいえないと判示しました。

そうとしつつも、たとえ指定商品との関係で「ターザン」の語に顧客吸引力がないとしても、「ターザン」という語は造語であり、日本語でも他の言語でも他の意味をもつとは認められないことなどから、本件商標登録を維持することは国際信義に反すると判断しました。
また、一定の価値を有する標章やキャラクターを生み出した原作小説の著作権が存続し、かつその文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた団体が存在する状況の中で、かかる団体と関わりのない第三者が先に商標出願を行った結果、特定の指定商品又は指定役務との関係で当該商標を独占的に利用できるようになり、著作権者側による利用を排除できる結果となることは、公正な取引秩序の維持の観点からみても相当とはいい難いと判示しました。結論として、本件商標が、公序良俗を害するおそれのある商標に当たるとの判断です。なお、「Tarzan」の文字(標準文字)から成る商標について同じ当事者間で争われた事件(知財高裁平成24年6月27日判決[PDF:268KB])についても、同様の判断がなされました。

■ 著作物の題名・キャラクター名と商標権の微妙な関係

本判決は、著作物がもつ価値に起因する取引秩序を維持するため、著作物の題名・キャラクター名から成る商標の登録を否定した点で、ポパイマフラー事件の判決・審決と共通します。
もっとも、判決が、「ターザン」という語は、日本国内において、バローズの著作物の題号またはその登場人物の名称として、広く知られていたとはいえないし、指定商品との関係における顧客吸引力も認めがたいとしつつ、公正な取引秩序の観点から、「公序良俗を害するおそれのある商標」に該当すると判断した点は、ポパイマフラー事件より一歩踏み込んだ判断であるように感じられます。
また、本判決は、原作小説の著作権が存続し、その文化的・経済的価値の維持・管理に努力を払ってきた団体が存在するという状況を踏まえたものであり、少なくとも小説の著作権が存続する限り(現在すでに消滅していますが)、「ターザン」という語について商標登録を受けることのできる利益を、著作権者に独占させることを意味するものと考えられます。

著作物の題名やキャラクター名は、よほど長いものや創意工夫されたものでないかぎり、著作権法による保護を受けません。
そこで、著作物のイメージや価値をコントロールする観点から、その題名やキャラクター名につき、いかなる商品・サービスを指定して商標登録するかは、登録費用の問題もあり、権利者にとって悩ましい問題です。

著作物のイメージ・価値をコントロールするため、各種ライセンス契約を締結・管理し、著作物に関連する取引秩序を生み出した結果、題名やキャラクター名についてまで、商標法上の利益を受ける。 このようなサイクルは、著作権者の立場からは望ましいともいえるでしょう。
他方、本来、著作権の及ばない利用方法についてまで、著作権者がライセンスの必要性を主張し、ライセンス契約が締結されたという既成事実が積み重なり、一種の擬似著作権が拡大することには、一定の歯止めが必要でしょう。

本件商標の登録出願が、小説「ターザン」の著作権保護期間終了後であった場合にも、同様の判断がされたかは明らかではありません。
著作物の題名・キャラクター名から成る商標について、いかなる事情のもと、「公序良俗を害するおそれのある商標」にあたるとして登録が否定されるのか。商標に関する判例を通じて、擬似著作権がどこまで正当化されうるのか。今後、集積される審判決に注目したいと思います。



※ 参考まで、現在、筆者(鈴木)がお世話になっている出向先の職場にて、ターザンという言葉から連想するものについて、アンケートをとらせて頂きました。多かったイメージの第1位は雑誌のTarzanで、第2位は「アーア・アー」の野生児。小説ターザンという回答はゼロでした。
他方、バローズの大ファンである当事務所の福井弁護士が連想したものは、やはり小説ターザン。筆者(鈴木)が思い浮かべたのは、幼稚園の裏庭にあった遊具のターザンでした。
ご協力頂きました皆様、ありがとうございました。

以上

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