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コラム column

2016年8月23日

著作権

「あなたは何点? ~司法試験問題から学ぶ著作権」

弁護士  桑野雄一郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)



1.はじめに

司法試験についてはいろいろなところで見聞きすることも多いと思いますが,受験を考えたことのある方を除けば,試験問題を見たことがあるという方は少ないと思います。

司法試験の過去問は法務省のHPで公開されています。こちらの「各年度」-「試験問題」-論文式試験の「選択科目」のPDFを開くと,その中に「知的財産法」があります。第1問が特許法,第2問が著作権法に関する問題となっています。また,こちらの各年度を開くと,出題者の「出題の趣旨」と,答案を採点した試験委員の「採点実感等に関する意見」も掲載されています。

この2問を解くのに与えられた試験時間は3時間ですから,著作権法に割ける時間は90分となります。著作権法に関する仕事に携わっている私ですが,90分で答案を書けといわれるとちょっと大変だぞ,というのが正直なところです。

著作権法が選択科目になったのは平成18年からなので,今までに10問出題されていますが,この中からちょっと面白い問題点をピックアップしてご紹介したいと思います。なお,説明の便宜上問題を単純にしている部分がありますので,予めご了承ください。


2.平成24年 (21頁)


(問題)

AとBという2人の音楽家が共同で創作した楽曲αの著作権の問題です。この楽曲αは,国内だけでなく海外でもCDがリリースされ,さらに外国映画のエンディング・テーマとしても使われました。設問は全部で4つあるのですが,今回ご紹介したいのは最初の問題です。

楽曲αの国内版CDはAとBからライセンスを受けたレコード会社Cから発売されるのですが,そのライセンス契約の期限が到来します。AとCはライセンス契約の更新を希望します。ところがAと人間関係がこじれてしまったBは,Aを困らせたいと思って更新を拒否し,その結果ライセンス契約は期間満了で終了し,それまでにCDの在庫も完売します。その2ヵ月後,CはAの強い要望を受けてBに無断でCDの製造販売を再開します。この状況でBはCに対してCDの製造販売の差止を求めるためにどのような主張ができるか,Cの反論を想定しながら述べなさい,というのが問題です。

共同作曲で,しかも海外でもこんなに評判になるとは,そして,音楽出版社もJASRACなどの著作権管理団体も登場しないとは,なかなかレアな事例ですね。これだけ売れているのにCDの販売を停止しなければならないとは何とももったいない話です。しかし,楽曲αはAとBの共同著作物ですから,CDの製造販売を再開するためにはAとB双方の合意がなければなりません(65条2項)。ですから,BはCに対して無断で行っているCDの製造販売の差止を請求できることになります(117条1項)。ここまではそんなに難しい話ではありません。

ところが,問題文には,「Cの反論を想定しながら」と書いてあります。何か想定できる反論があるのか,と頭を抱えながら出題の趣旨(20頁)を見ると,こう書いてあります。


設問1については,著作権が共有に係る場合において,著作権法は,共有に係る著作権の行使はその共有者全員の合意によらなければならないが,各共有者は,正当な理由がない限り,合意の成立を妨げてはならないと規定している(同法第65条第2項,第3項)。そのため,・・・更新拒絶をしたBに正当な理由があったかどうか,また,正当な理由がなかったとした場合,それによって・・・著作権侵害が否定されることになるのか,あるいはBがAに対して合意を成立させる義務を負うにとどまるのかが問題となると考えられる。Bがなすべき主張としては,これらの点について差止請求が認められるように説得的に論じることが必要となる。

つまり,Aとの合意の成立を妨げたBに正当な理由がなかったのではないか,を問題にしているようです。言われてみれば問題文ではAと人間関係がこじれたのでAを困らせようと思った,とあります。

でも,Bはライセンス契約の更新を拒否しただけです。在庫も完売して契約が終了した後に販売を再開するのはライセンスの更新ではなく新たなライセンスですが,それについてBは何も相談されていませんし,ライセンスについての合意の成立を妨げてはいないのではないでしょうか。

また,条文を素直に読むと,正当な理由がないから「合意の成立を妨げてはならない」というだけで,正当な理由がない場合はその人の合意なしに作品を利用してよいということにはならないとも読めます。この点は最近の『著作権判例百選』の出版差止の仮処分に対する保全異議決定においても,

・・・著作権法65条2項は「共有著作権は,その共有者全員の合意によらなければ,行使することができない。」と規定しているところ,同条3項は,その「合意」の成立を妨げることができるかについて,「各共有者は,正当な理由がない限り,同条2項の合意の成立を妨げることができない。」旨定めているにすぎないのであるから,仮に上記「正当な理由」がなかったとしても,直ちに同条2項所定の「合意」の成立が擬制されることになるものではない・・・

との判断が示されているところです。
ということで,Cが何か反論できるのか?と頭を抱えた受験生も少なくなかったのではないかと思います。


3.平成23年 (15頁)


(問題)

恋愛シミュレーションゲームソフトαの著作権に関する問題が出題されました。αは,ゲームソフト製作会社Aの従業員Cが開発したもので,複製防止手段を施したDVDに収納して販売されていました。

ところが,このDVDを購入した者により複製防止手段が解除され,ウェブサイト上にダウンロード可能な状態で掲載されてしまいます。そして,Gがこのサイトからαをダウンロードしてしまいます。

問題は多岐にわたるのですが,今回は,αの著作権が誰に帰属しているかを前提に,Gの行為が著作権を侵害するかが問われた部分を考えてみましょう。

問題を考えた偉い先生方は恋愛シミュレーションゲームをやったことがあるのでしょうか。私も試したことがありますが,しばらくプレイをせずにいると相手の女性の機嫌が悪くなるといった「たまごっち」に通じる面倒くささに耐えられず早々にやめてしまいました。あれから数年。久々に遊んでみようかと思ったこともありますが,溝口健二監督の映画「雨月物語」のように相手の女性が幽霊になって待っているのではないかと想像すると怖くてできませんでした。

さて,この問題では前提としてαの著作権者が誰か問題になりますが,ここで試験委員は,ゲームソフトにはプログラムの著作物と映画の著作物という側面があるのでそれぞれの側面から著作権の帰属を考えろ,と言うのです。

ゲームソフトとしては職務著作(15条2項)の要件を満たせばA,満たさなければCが著作権者となります。他方,映画としては,職務著作(15条1項)の要件を満たせばA,満たさない場合でもAが29条1項の映画製作者ならA,そうでなければCが著作権者となります。ややこしいですね。それに,ゲームソフトが映画の著作物だとした判例はあるのですが,上映権の対象が映画に限られていた時点で上映権侵害を認めたり,譲渡権が創設される前に映画特有の権利である頒布権があることを認めたりしたものです。現在は上映権侵害の対象は映画に限定されていませんし,譲渡権も創設されたので,無理に映画としなくても同様の結論が導き出せるものですし,これらの判例は本問で問題となる著作権の帰属について映画の著作物であることを前提とした判断はしていません。ですから,少なくともこの問題でこれらの判例を前提とした議論をさせるのは少し無理があるところです。ちなみに,採点実感を見ると大半の受験生はどちらか一方についてしか論じなかったようです。後述する別の小問では,映画であることを前提とした「録音又は録画」についての問題が出ていますので,試験委員としては映画に該当することを意識した論述をして欲しかったのだろうと思います。

また,αをダウンロードしたGの行為については,私的使用目的の複製の例外規定である30条1項2号と3号の知識が問われています。このうち3号は,いわゆる私的違法ダウンロードに関するもので,「著作権を侵害する自動公衆送信・・・を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」となっています。「録音又は録画」ということで,映像や音楽・音声が想定されているのですが,果たしてゲームソフトであるαをダウンロードすることが「録音又は録画」といえるのでしょうか。ゲームソフトが映画なのだとすると,それをダウンロードするのは当然「録音又は録画」なのだ,と割り切って考えれば複製権侵害で違法だという結論になるでしょう。ただ,日常用語的にはちょっと違和感があるので,受験生も悩んだのではないかな,という気がします。なお,2号についても面白い問題はあるのですが,字数の制約もあるのでここでは割愛します。


4.おわりに

司法試験の問題は試験委員の先生方が苦心して作成されるものです。裁判例などを参考にして作成されているものもありますが,独自に作られたものもあり,中には誰も考えたことのない,面白い(と思えるのは試験会場にいない人だけでしょうが)問題が含まれていることもあります。司法試験受験を考えていなくても,著作権に興味のある方は一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。

以上

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