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コラム column

2014年11月12日

その他の実体法

「エンタテインメント業界の労働法~演劇子役の悲哀~」

弁護士 小林利明(骨董通り法律事務所 for the Arts)


1. 意外な関係

「ライオンキング」というミュージカルをご存じでしょうか。ミュージカルの本場・ブロードウェイでもチケットを入手しにくい人気作の1つです。日本でも大人気で、日本語で上演される点を除けば、アメリカで観るものとほぼ同じものを楽しむことができます。しかし、ブロードウェイで観るライオンキングにはあって、日本にはないものが1つあります。一体何でしょうか。意外なことに、それは法律と深く関係しています。今回は、エンタテインメント業界における労働法について、ライオンキングを切り口に論じてみたいと思います。


2. 労働時間規制と「労働者」

(1) 労働基準法が定める労働時間規制

労働基準法は数ある労働関連法規の中でも最も重要な法律の1つであり、労働者を保護するための基本的条件について様々なことを定めています。とりわけ、労働時間に関する規制は重要です。たとえば、労働者の労働時間は原則として上限を1日8時間、1週間40時間とすること(労働基準法32条。以下は断りがない限り労働基準法の条文。)、変形労働時間制及びフレックスタイム制(32条の2~32条の5)、休日(35条)、時間外・休日労働(36条)、裁量労働制(38条の3、38条の4)等について定められています*1。また、18歳未満の労働者について労働時間の特例が定められ(60条)、深夜労働についても規制(61条)が設けられています。


(2) 労働基準法上の「労働者」とは

しかし、これらの労働時間規制は誰にでも適用されるわけではありません。「労働者」にのみ適用されます。そこで「労働者」とは何かという点が重要になってきます。

エンタテインメント業界で働く方を例にとって話を進めましょう。たとえば、NHKの管弦楽団等の団員は、原則として「労働者」であるという通達があります(昭和24年7月7日基収第2145号)。また、フリーの映画撮影技師が「労働者」にあたると判断された裁判例があります(東京高裁平成14年7月11日判決。なお本事件の地裁判決は労働者性を否定しています。)。他方で、映画の照明技術者及び録音技術者は労働者ではない旨を示した裁判例もあります(東京地裁昭和57年6月24日判決)。出演者(俳優・芸能人・タレント等)についてはどうでしょうか。イメージとしては、テレビに出るようなタレントは「労働者」ではないように思われますが、実は必ずしもそうとはいいきれないのです。つまり、「労働者」である出演者もいれば、そうでない出演者もいるのです。

ではいったい、「労働者」かどうかを区別する基準は何でしょう。労働基準法は、「労働者」とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所(中略)に使用される者で、賃金を支払われる者」だと定めています(9条)。これを受けて、「労働者」とは、他人の指揮監督下で働き、その労務の対価として報酬を得る者のことだと理解されています。したがって、他人のために働いていても、他人の指揮監督下で働いているわけではない請負事業者や業務受託者は原則として「労働者」ではありません。逆に、契約書の表題が「請負契約」や「業務委託契約」であっても「労働者」である可能性があります。なぜなら、労働者性の判断では、名目ではなくその労働実態が重要だからです。具体的には、仕事の依頼や業務従事の指示に対する諾否の自由の有無、業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無、勤務場所および勤務時間に関する拘束性の有無、労務提供の代替性の有無その他の事情が総合的に考慮されます。上の裁判例もあくまでその事案を踏まえた個別的判断であり、「映画撮影技師は常に労働者」とまで一般化することはできません。

出演者は「労働者」かという点に戻りましょう。一口に出演者といっても、(a)自ら独立してプロダクションを設立するような大物芸能人、(b)芸能プロダクションやモデル事務所に所属する「売れている」タレント、アイドル、モデル、(c)売り出し中のタレント、アイドル、モデルなど様々です。上述の基準に照らすと、(a)は、形式上はさておき少なくとも実質上は経営者ですから、通常は「労働者」ではないでしょう。(b)や(c)についてはどうでしょうか。世間一般がイメージする芸能人というのは、(c)ではなく(b)の方であることが多いと思われます。(b)のような芸能人であっても、仕事選択の自由や所属事務所からの指示に対する諾否の自由や職務遂行上の裁量等は認められていないケースが多いようですが、もしそれらが認められているならば、「労働者」ではないと判断される可能性が高いでしょう。これに対して、(c)は「労働者」とされることが多いでしょう。


3. 光GENJIが実務に残した影響~年少者の深夜業規制~

(1) なぜ光GENJIか?

エンタテインメント業界には、18歳未満の出演者が多く存在します。その場合、労働基準法の規制がより一層問題となります。次に、年少者の労働規制についてみていくことにしましょう。なお、なぜ最近のアイドルではなく光GENJIなのかはもう少し読み進めていただくとご理解いただけるはずです。


(2) 労働基準法が定める年少者の最低年齢規制及び深夜業規制

(a)最低年齢

労働基準法は、年少者について特別の就業制限を定めており、特に、義務教育終了前(満15歳に達した日以後最初の3月31日が終了するまで)の年少者を使用することを原則として禁止しています(56条1項)。ただしこれには例外があり、非工業的業種で、「児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なもの」については、行政官庁の許可を受けて、満13歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができ、「映画の製作又は演劇の事業」については、満13歳に満たない児童であっても、同様の条件の下で使用することができるとされています(56条2項)。

(b)深夜業制限

更に、年少労働者の労働時間については特別の労働時間制限があります。具体的には、満18歳未満の者について原則として午後10時から午前5時の間は就業不可(61条1項)と定めています。また、上記56条2項に基づき使用する年少者については、原則として午後8時から午前5時の間は就業できず、厚生労働大臣が必要と認める場合に限りその時刻を午後9時から午前6時としています(61条5項)。つまり、義務教育終了前は原則として午後8時までしか働くことはできないのです。


(3) 人気中学生アイドルと深夜業規制

では人気中学生アイドルに上記の深夜業規制は適用されるでしょうか。いくら人気アイドルとはいえ中学生であれば、スケジュールや仕事の選択を含み、業務遂行にあたって所属事務所からの細かな指揮監督・命令を受ける程度は強いと思われます。そうであれば、その他の事情も含めて「労働者」として労働基準法が適用される可能性が高そうです。

さて、時は昭和63年。「アイドル戦国時代」などと評される現在とは異なり、当時、国民的・絶対的アイドルは光GENJIでした。当時の光GENJIは14歳のメンバーを含んでいました。そのため、いくら大人気アイドルとはいえ、義務教育終了前の「労働者」であれば原則として午後8時以降は働くことができません。そんな折、当時の労働省からいわゆる「芸能タレント通達」(昭和63年7月30日基収355号)が公表されました。この通達は、従来の解釈の延長として、タレントという具体的職種について労働者性を検討する場合の指針を示したものと理解できますが、この通達によって、次の4要件を全て満たすならばそのタレントは労働基準法上の労働者ではないということが一応明確化されたのです。


1 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。

2 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。

3 リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあってもプロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。

4 契約形態が雇用契約ではないこと。

光GENJIと深夜業の問題は当時国会でも取り上げられるほどでしたが、この通達に照らし、当時14歳を含んでいた光GENJIのメンバーはいずれも「労働者」ではないと判断されたようです。(そのため「光GENJI通達」などと称されることもあります。)これにより労働基準法の深夜業制限を受けないこととなった光GENJIは、以後、当時毎週9時から生放送されていた歌番組にフルメンバーで出演することができるようになったそうです。

国会審議では、平成11年にテレビに深夜出演した年少者タレントを巡って、所属事務所とテレビ局の社員が労働基準法違反の疑いで「書類送検」されたことにも触れられています。この件の処理と光GENJIの件の処理がアンバランスではないかという趣旨の質問に対して、政府委員は、個々のタレントの契約の実態、内容、所得の課税の状況等々を勘案して労働者に該当するかを判断した結果、書類送検された事案のタレントは、「かなり名前が通って」所得が多いタレントなどとは異なり、「売り出し中」あるいは「余り売り出しがまだできていないような方」だったため労働基準法上の問題に抵触する可能性があった、と回答しています(第147回国会衆議院青少年問題に関する特別委員会議事録5号)。

この点を捉えて、売れている芸能人は「労働者」ではないといった説明がなされることがあります。しかし、売れていること自体は労働者かどうかの判断と直接関係ありません。そのような見解は、売れている芸能人は所属事務所等の使用従属下にないこと等を前提としていると思われますが、そのような前提が現実にはどうなのかということこそが問題なのです。ちなみに、タレント通達に基づき、SMAP、SPEED、モーニング娘。などが労働者には該当しないとされているそうです(梅田=中川「よくわかるテレビ番組制作の法律相談」127ページ(角川学芸出版))。


4. 「ヤングシンバ」の悲哀

(1) ブロードウェイにあって日本にないもの

タレント通達がでたことで、大人気タレントが深夜業の規制対象から外れる場合が明確化されました。しかし残念ながら、舞台で活躍する演劇子役についてはその4要件を満たさないとされるケースが多いのです。そうなると、義務教育終了前の子役は原則として午後8時までしか労働できないということになります。演劇子役の場合、この規制を受けることで困る事情が1つあります。本コラム冒頭に挙げた「ライオンキング」についていえば、実はこの規制があるために、日本で観る内容は、ブロードウェイで観るものと少し違うのです。

このことについて、劇団四季のウェブサイト公益社団法人日本演劇興行協会のウェブサイトに興味深い記載があります。現在東京で行われているライオンキングの公演は、平日は午後6時30分開演で、上演時間は休憩をはさんで2時間50分です。公演終了は午後9時をすぎます。そのため、主役の幼少期である「ヤングシンバ」を演じる子役は、せっかくその日の公演を終えても、カーテンコールの前に帰宅しなければならないそうです。(これに対してブロードウェイでは演劇子役もカーテンコールに登場します。)重要な役所を演じきった子役がカーテンコールで出てきたときの会場の盛り上がりは、舞台ファンならご存知でしょう。子役がカーテンコールに出られないというのは、観客としても寂しい限りですし、何より、子役自身が非常に悲しく感じているのではないでしょうか。

さらに深刻なのは「美女と野獣」だそうです。このミュージカルではチップという男の子役が最後まで舞台に立たなければならないのですが、平日の公演スケジュールでは終了が午後9時を超えてしまいます。(現在名古屋で行われている「美女と野獣」は、平日夜公演は午後6時半開演で、休憩をはさんで上演時間は2時間50分です。)そこで、劇団側では身長140センチの女優を起用して対応しているそうです。

もちろん、開演時間を早めるという対応は可能でしょう。実際に、子役が主役のミュージカル「アニー」ではそのような対応をしているようですが(今年4月から5月にかけて行われた東京公演では、夜公演は午後4時または午後5時開演となっています。)、これでは一般の勤めの方はまず来られない時間に開演していることになります。


(2) 演劇子役の特例

実は平成16年に、業界の要請に基づき、義務教育を終了するまでの演劇子役の就労可能時間が従前の午後8時から午後9時までに延長されました(平成16年11月22日基発1122001号参照。法律的に言えば、演劇子役の就労時間について、「厚生労働大臣が必要であると認める場合」に指定されました。61条5項・2項。)。これにより、平日公演よりも開始時間がやや早い休日公演については、カーテンコールに出られないといったような問題は減ったといえるでしょう。しかし、それでも平日はカーテンコールが午後9時をすぎる場合が多いため、演劇業界からは、海外の例に倣い午後10時までの延長を求める声が多いようです。


(3) ブロードウェイにおける演劇子役の深夜労働時間規制

海外の子役の深夜労働規制はどのようになっているのでしょうか。米国では州により労働法制が異なりますが、ここでは本場ブロードウェイを擁するニューヨーク州についてみてみることにします。ニューヨーク州では、生後15日から18歳未満の実演家をchild performerと扱い、年齢及び実演の種類に応じた労働時間規制を設けています。そして、18歳未満の年少者が行うライブパフォーマンスについては、翌日に学校がある場合は深夜0時まで、学校がない場合には午前0時30分までの労働が認められています(NYCRR Part 186;「ニューヨーク州児童実演家に関する規制」)。もっとも、ギルド組織率が高い米国では、ギルドと使用者側との間で合意される労働協約によって法律の定めより労働者に有利な内容の労働条件が決定されるのが一般的であり、SAG-AFTRAというギルドに加入している子役については、翌日に学校がある場合は午後10時まで、学校がない場合には午前0時30分までの労働が認められます(Screen Actors Guild『A Guide for Young Performers』参照)。これと比べると、日本は厳しい規制となっています。


5. おわりに

子役の深夜労働時間規制の問題は、エンタテインメント業界の発展という視点が必要ではあるものの、児童の保護という重要な観点からの議論も必要な分野です。そもそも午後8時または9時という時間の区切りに合理性があるのか、他の法律による規制や他の方法による児童保護の方法を充実させることで代えることはできないのか、売れているがゆえに「労働者」ではないとされた年少者に対する保護はどうすべきなのかといった問題等、様々な視点からの議論がありうるところです。ここではこれ以上立ち入りませんが、エンタテインメント業界も他の業界と同じく多くのプレイヤーがいて成り立っている業界であり、そこに人がいる限りは労働法と無縁ではいられません。上記でみたような年少者保護の問題のみならず、各種労働法規はいわゆる裏方の方々に対しても様々な保護を与えており(例を挙げると、有期雇用、労働者派遣、労働災害、解雇等についての労働者保護等)、これらはいずれも実務上非常に重要な点です。どのような法制の下でよりよい制度を作っていくべきかについては議論があるでしょうが、どんな制度であれ、すばらしい作品が1つでも増えることを願っているという点は関係者皆共通の想いではないでしょうか。

以上

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