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コラム column

2014年10月 2日

その他の実体法企業法契約

「債権法改正の『現在地』~債権時効を中心に~」

弁護士 北澤尚登(骨董通り法律事務所 for the Arts)


債権法(民法の一部)の改正に向けた議論については、過去のコラムでも幾度か紹介してきましたが(2009/9/9掲載2010/11/30掲載, 2013/5/28掲載)、その後の進展をふまえて、2014年9月8日に法務省のウェブサイトで、「要綱仮案」が公表されました。

名称からもわかるように、これがそのまま改正法の内容になるとは限らないわけですが、今後は、順調にいけば、おおむね次のような流れで進むものと思われます。

 (法制審議会民法(債権関係)部会での、さらなる議論を経て)「要綱案」→(法制審議会総会での決定を経て)「要綱」→(法務大臣への答申を経て)「法案」→(国会での審議・議決を経て、可決されれば)改正法

このように、先はまだ長いかもしれませんが、今回の「要綱仮案」は、以前の「中間試案」よりもさらに議論・検討が進んだ成果と位置付けられますので、より改正法(案)に近づいたものとはいえましょう。

そこで、本コラムでは、過去に取りあげたトピックスのうち、まず債権の時効(2009/9/9掲載のコラム参照)にスポットを当てて、要綱仮案の内容をご紹介したいと思います。なお、約款については、2013/5/28掲載のコラム で中間試案を若干解説しましたが、要綱仮案では約款部分が継続審議(つまり持ち越し)とされているため、今回のコラムでは残念ながら言及の対象外といたします。


1. 債権の時効期間

現行民法では、債権の消滅時効は原則として「権利を行使することができる時」から10年(ただし、商事債権は商法の規定により5年)とされている一方、例外として種々の短期消滅時効が定められており、特に職業別の短期消滅時効は1年~3年となっていました。

これに対し、要綱仮案は以下の内容となっています(なお、定期金債権・定期給付債権については省略します)。

① 原則的な時効期間は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」または「権利を行使することができる時から10年」のいずれか早い方(第7.1.)。ただし、「人の生命または身体の侵害による」損害賠償請求権については、上記の10年が20年に延びる(第7.5.(2))。

② 商事債権の5年は撤廃(第7.1.)

③ 職業別の短期消滅時効は撤廃(第7.3.)

上記のうち、①②については、「権利を行使することができる時から10年」は維持しつつ、商事債権に限らず民事債権でも「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という短期時効を認めるものであり、世界的な時効期間短期化のトレンドに沿うものといえます。

他方、③については、現行法における職業別の短期消滅時効は合理性に疑問が呈されていたこともあり、おそらく撤廃に異論は少なかったのではないでしょうか。2009/9/9掲載のコラムでも述べたとおり、現行法のもとではマイナーな短期消滅時効が思わぬ"落とし穴"になってしまうリスクもあったわけですが、この点は解決の方向にあるといえましょう。


なお、不法行為に基づく損害賠償請求権については、現行民法でも10年ではなく、「被害者または法定代理人が損害および加害者を知った時から3年」または「不法行為の時から20年」のいずれか早い方とされていました(724条)。これは要綱仮案でも原則としては同様ですが(第7.4.)、「人の生命または身体の侵害による」損害賠償請求権については、上記の3年が5年に延びることとされています(第7.5.(1))。


2. 時効成立を防ぐ方法~「完成猶予」と「更新」

時効の成立(完成)を阻止する仕組みとして、現行民法は主に「時効の中断」「時効の停止」という規定をおいており、両者はおおむね以下の意味をもっていました。

・「中断」...時効のカウントがゼロに戻る(中断事由の終了時から、あらためてカウントされる)

・「停止」...時効のカウントは止まらず、単に停止期間中は時効が完成しない(停止期間の終了時に時効期間を過ぎていれば、その時点で時効完成となる)

他方、要綱仮案では新たに「時効の完成猶予および更新」という概念が設けられていますが、具体的な文言(完成猶予は「...までの間は、時効は完成しない」、更新は「時効は...事由が終了した時から新たにその進行を始める」、と表現されています)をみると、「完成猶予」は「停止」、「更新」は「中断」に、それぞれ対応するものと考えられます。

ただし、要綱仮案における「更新」・「完成猶予」の事由は、現行法における「中断」事由・「停止」事由を単に置き換えたものではないため、注意を要します。

以下の一覧表は、両者の関係について、ごく簡潔に概要を整理したものです(なお、これはあくまで要約であり、必ずしも詳細を網羅してはいないため、具体的内容については現行法および要綱仮案の文言をご確認ください)。

効力 中断(現行法)
更新(要綱仮案)
停止(現行法)
完成猶予(要綱仮案)
その他の暫定的効力
現行法 裁判上の請求
(147条1号),
差押・仮差押・仮処分
(147条2号),
承認(147条3号)
未成年者・成年被後見人、
夫婦間、相続財産
(158~160条),
天災等(161条)
支払督促(150条),
和解・調停申立て
(151条),
破産手続参加等
(152条),
裁判外の請求(催告)(153条)
要綱仮案 右のいずれかにおける、
確定判決等による
権利確定
(第7.6.(1)イ)
裁判上の請求、支払督促、
和解・調停申立て、
破産手続参加等
(以上、第7.6.(1)ア)
強制執行等(第7.6.(2))
承認(第7.6.(5)) 仮差押・仮処分
(第7.6.(3)),
裁判外の請求(催告)
(第7.6.(6)),
天災等(第7.6.(7)),
未成年者・成年被後見人、
夫婦間、相続財産
(現行法158~160条
を維持。第7.6.柱書)
権利協議(第7.6.(8))


なお、上記の表の最下段にある「権利協議」は、要綱仮案で時効の完成猶予事由とされていますが、現行法にはなく、新たな概念といえます。具体的には、要綱仮案(第7.6.(8)ア)に以下の記載があります。


当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面による合意があったときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

(ア) 上記合意があった時から1年を経過した時

(イ) 上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時

(ウ) 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6箇月を経過した時

要綱仮案を前提とした場合、債権者の立場からみると、債務者が債務の存在を自認してくれれば「承認」による時効の更新(現行法では時効中断)が有力な選択肢となりますが、債務者が争っている場合には「承認」を得るのは難しいでしょうから、いわば次善の策として、上記の権利協議による完成猶予をめざすことも考えられます。訴訟や強制執行では時間や費用がかかりすぎ、かといって裁判外の請求(催告)では完成猶予が6ヶ月にとどまるため(第7.6.(6)ア)、権利協議というオプションが有用となる可能性もありそうですので、実務上念頭に置いておかれるとよいでしょう。

以上

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