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コラム column

2010年11月30日

その他の実体法企業法契約

「契約違反と損害賠償~民法の"読み方"案内」

弁護士 北澤尚登(骨董通り法律事務所 for the Arts)

時効に関する昨年のコラムでもご紹介したとおり、民法の重要な一部である債権法について、改正に向けた動きが進んでいます。前回のコラムを書いた時点では、既に民法学者を中心とする検討委員会が「債権法改正の基本方針(改正試案)」を発表していましたが、その後、法務省の法制審議会に「民法(債権関係)部会」という専門の部会が設置され、昨年11月から始まって今年10月までの約1年間に17回の会議が開催されており、活発な検討が行われているようです。


契約に関する民法の主要な規定は、債権法の一部として、改正の検討対象に含まれています。したがって、契約で動いている(実際に"契約書"を交わしているかはともかく)ビジネスの世界に、改正が大きな影響を及ぼすこともあり得ます。

とはいえ、何がどのように改正されようとしているのか、改正によってどんな影響があるのか、といった具体的な話は、専門家以外にはなかなか伝わってこないのが現状です。そこで、今回のコラムでは、特にビジネスに関係の深いトピックとして「(契約違反などの)債務不履行にもとづく損害賠償」を取り上げ、現行民法の内容と改正の動向についてご紹介します。


1. 現行民法の内容

契約違反が問題となったとき(相手方が、あるいは自分が、契約を守らなかったとき)、まず考えるべきは「契約書に何と書いてあるか」ですが、日本の当事者どうしで交わされる契約条項の典型例は、次のようなシンプルなものです。

「いずれかの当事者が本契約の規定に違反したときは、相手方当事者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」

しかし、この条項で全ての条件が言い尽くされているわけではなく、実際に損害賠償を請求できるためには、「違反」や「損害」が(契約違反の理由、損害の範囲といった)上記に書かれていない一定の条件をみたす必要があります。

契約条項に書かれていない条件は、民法などの法律によって補充されることになります。では、現在の民法では、契約違反(以下では「債務不履行」という用語に含意されます)による損害賠償について、どのように定めているか、見てみましょう。

・415条 (債務不履行による損害賠償)
「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

・416条 (損害賠償の範囲)
(1項)「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」
(2項)「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」


他にも規定はありますが、主なものは上記の415条と416条です。契約で別途の合意をしない限り(そして、日本法が契約準拠法となる限り)、契約違反による損害賠償請求は、上記の規定によることになります。

とはいえ、これを文字どおり読んだだけでは、まだ足りません。条文そのものにはストレートに書かれていない条件もありますし、書かれている条件の中にも、読み方の分かれるものがあります。

そういった条件は、判例や学説の解釈によって、さらに補う必要があります。しかし、そのような解釈は専門家でなければ詳しく知らないのが普通ですから(専門家にとってさえ難解で複雑な議論も沢山ありますが)、法律家でない方々を含めた民法の「ユーザー」向けに、ある程度わかりやすい形にまとめたものがあると便利です。

そこで、以下では、民法415条と416条に判例や学説で広く認められている内容を盛り込み、少しでも意味を補充してわかりやすくするため、解説つきで「リライト」してみました。もっとも、判例・学説を簡潔に整理するには限界もありますので、以下はあくまで理解の一助としてご参考いただくものであり、個々の適用場面に即した厳密な解釈は別途必要になることにご注意ください。また、この「リライト」は、それ自体で現行法の新たな解釈や改正を提案するものではありません。


・415条 (債務不履行による損害賠償)
契約などに基づく債務が、その本旨に従って履行されない場合(①期限どおりに履行されない場合、②債務の内容どおりに履行されない場合、または③履行できなくなった場合を含み、「不履行」という)、債権者は、次条の規定により損害賠償を請求することができる。ただし、その不履行が債務者の故意もしくは過失、またはこれらと同視できる理由によって生じたものでない場合を除く。

〈解説〉
契約などの債務の「不履行」には、履行遅滞(期限に遅れること)・不完全履行(全部を守らないこと)、履行不能、の三種類あると考えられています。これを、①~③に明記しました。また、現在の415条では「責めに帰すべき事由」が履行不能だけに関わるようにも読めますが、通常の解釈では、①~③の全てにおいて、「責めに帰すべき事由」(「帰責事由」と略称されます)が無いことを債務者が立証(証明)した場合には、損害賠償責任が発生しないとされています。
そして、帰責事由は従来の伝統的な理解では「債務者の故意もしくは過失、または信義則上これと同視できる理由」とされていますので、そのように言い換えました。なお、契約書では、天災などのいわゆる不可抗力事由については両当事者とも契約違反の責任を負わないと規定することがよくありますが、そのような規定がなくとも、不可抗力にあたるようなケースでは故意や過失が原因とはならないのが通常でしょうから、民法に従えば同様の結論を導くことが可能といえそうです。


・416条 (損害賠償の範囲)
前条に該当する不履行があった場合、債権者は、①その不履行によって生じた相当な因果関係のある損害であって通常生じうるもの、及び、②当事者が予測していたか又は予測できた特別の事情によって生じた相当な因果関係のある損害につき、賠償を請求することができる。

〈解説〉
現行416条は、1項と2項の関係が少々わかりにくい印象を受けます。また、現行415条の「これによって生じた損害」は因果関係を意味すると読めますが、これと現行416条との関係についても整理した方が望ましいでしょう。
債務不履行にもとづく損害賠償における因果関係とは、「不履行が無かったならば発生したであろう損害」の全てという意味(法律用語でいう「条件関係」あるいは「事実的因果関係」)に解釈してしまうと、賠償額が無限定に拡大して債務者に酷な結果を招くおそれがあるため、社会通念からみて妥当と認められる因果関係(「相当因果関係」)の範囲内に限定される、と一般に解されているようです。そこで、この相当因果関係を① ②に明記したうえで、現行415条の「これによって生じた損害」は(重複するため)削りました。
なお、②では「当事者」が誰を意味するのか(債務者だけなのか、それとも両当事者なのか)、「予見」の基準時がいつなのか(契約時か、あるいは不履行をした時か)、といった問題もあるのですが、これらの点については学説の対立などもあって一概に明記するのが難しいため、現行2項の文言そのままにしてあります。


これで、いくらか読みやすく、わかりやすくなったでしょうか。分量の関係で具体的な適用例を挙げていないこともあって、あまり代わり映えしない印象があるかもしれませんが、理解の手がかりとしてご利用いただければ幸いです。


2. 民法改正の動向

冒頭で言及した、民法(債権法)改正検討委員会による「債権法改正の基本方針(改正試案)」では、債務不履行に基づく損害賠償の規定について、以下のような提案をしています(関連提案は他にもありますが、ここでは現行415条・416条に対応する主なものだけご紹介します)。


【3.1.1.62】(債務不履行を理由とする損害賠償)
債権者は、債務者に対し、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求することができる。

【3.1.1.63】(損害賠償の免責事由)
〈1〉契約において債務者が引き受けていなかった事由により債務不履行が生じたときには、債務者は【3.1.1.62】の損害賠償責任を負わない。
〈2〉(略)

【3.1.1.67】(損害賠償の範囲)
〈1〉契約に基づき発生した債権において、債権者は、契約締結時に両当事者が債務不履行の結果として予見し、または予見すべきであった損害の賠償を、債務者に対して請求することができる。
〈2〉債権者は、契約締結後、債務不履行が生じるまでに債務者が予見し、または予見すべきであった損害についても、債務者がこれを回避するための合理的な措置を講じたのでなければ、債務者に対して、その賠償を請求することができる。


現行415条に対応するのは【3.1.1.62】と【3.1.1.63】ですが、ここには「債務者が引き受けていなかった事由」という目新しい言葉が出てきます。これは、現行415条の「債務者の責めに帰すべき事由」(リライト版では「債務者の故意もしくは過失、あるいはこれらと同視できる理由」)に代わるコンセプトであり、【3.1.1.63】の「提案要旨」の記述によれば、「契約上の債権において債務者が債務不履行責任から免責されるかどうかは契約に基づくリスク分配が基準になること」を示すものとされています。

これは、第一線の学者の先生方が議論の末に辿り着いた結論ですから、もちろんそれなりの深い理由があると思われますが、「契約において債務者が引き受けていなかった事由」や「契約に基づくリスク分配」が表現として適切なのか、具体的に何を意味するのか、「債務者の責めに帰すべき事由」とどう違うのか、「債務者の責めに帰すべき事由」よりもベターなのか、さらなる議論が必要かもしれません。


【3.1.1.67】は、現行416条に対応するものですが、少なくとも見た目はかなり異なっています。これは「提案要旨」において、「契約に基づくリスク分配を基礎にして賠償範囲を決すべきであるとの立場を前提として、いわゆる予見可能性ルールを採用した」と説明されています。【3.1.1.62】と【3.1.1.63】と同様に「契約に基づくリスク分配」というコンセプトを基礎にしたもののようですが、通常損害・特別損害という現行の枠組みとどちらが良いのか、相当因果関係については言及しなくてよいのか、といった点について、検証の余地がありそうです。

前述した法制審議会の民法(債権関係)部会では、債務不履行に基づく損害賠償の規定については主に第3回の会議(平成22年1月26日開催)で検討されていますが、議事録をみると、改正の方向性や内容についてかなりの議論があったようです。もとより、改正試案は学者の先生方のリーダーシップによって作成されたものですので、企業の法務担当者や弁護士などの実務家から異論があり得ることは当然ともいえ、上記の改正試案に沿った方向で進むかどうかは予断を許さない状況です。

ちなみに、この議事録からは、現行規定の理解ないし解釈についても学者や実務家の間で必ずしも一致をみていないことがうかがわれます。これは、現行民法が条文そのままでは理解しにくいことの例証ともいえるように思います。

改正の動向を把握するには、まず現行法の内容をある程度まで正確に理解することが重要といえます。その意味でも、上記のリライトがご参考になればと願っております。

以上

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