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コラム column

2015年4月22日

その他の実体法契約IT法

「民法と『約款』のゆくえ ~債権法改正『要綱案』を読む~」

弁護士 北澤尚登(骨董通り法律事務所 for the Arts)


民法(債権法)改正に向けたプロセスが、いよいよ大詰めを迎えようとしています。2014年10月のコラムでは、その前月に出された「要綱仮案」について若干ご紹介しましたが、その後の議論を経て、2015年2月10日付けの「要綱案」が公表されました(全文は、法務省のホームページに掲載されています)。

この要綱案で注目に値する点の一つとして、「(定型)約款」に関する項目が盛り込まれたことが挙げられます。この項目は、要綱仮案では継続検討(持ち越し)とされており、消費者・事業者等の様々な立場からの意見集約が容易ではなかったことを窺わせますが、要綱案の段階で明文の項目が入ったことは、(ある程度は妥協の産物という側面もあるにせよ)一定の成果ともいえるのではないでしょうか。何しろ、要綱仮案の前段階であった「中間試案」(2013年2月26日付け)においては、「約款に関する規律を設けないという考え方がある」との注記もあったほどですから。


そこで、今回は要綱案のうち「第28 定型約款」の項目について、若干の解読を試みたいと思います。その際、中間試案における「約款」の項目と比較しつつ、中間試案当時の本コラム(2013年5月)で論じた、利用規約との関係についても言及します。(ただし、要綱案の公表後さほど時間が経っていないこともあり、特に解釈論については、今後の議論の進展を待つべき部分も多くあります。また、要綱案の後、法案化や国会審議を経てはじめて改正法となりますので、要綱案の文言がそのまま法律になるとは限らない点、ご留意ください。)


以下では、要綱案「第28 定型約款」の各項の文言(□で囲った箇所)を挙げつつ、コメントを付記する形をとっています。


1 定型約款の定義

定型約款の定義について、次のような規律を設けるものとする。

定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。

これは、中間試案での定義(「約款とは,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって,それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする」)と比べて、「画一的であることが...双方にとって合理的」という要件が加わっている点で異なりますが、「(定型)約款」の該当性判断に際して「画一性」がメルクマールとなる点では共通しています。

具体例としては、ライブイベントのチケット規約や、ウェブサービスの利用規約などの多くは、やはり「定型約款」に該当するものと思われます。他方、法務省ホームページに掲載されている審議資料(部会資料)をみると、「製品の原材料の供給契約等のような事業者間取引に用いられる契約書」(基本契約書のフォーマットどおりの場合でも)や「基本契約書に合意した上で行われる個別の売買取引など」は、「定型約款」に該当しない例として挙げられています。


2 定型約款についてのみなし合意

定型約款についてのみなし合意について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型取引を行うことの合意(3において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

イ 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

(2) (1)の規定にかかわらず、(1)の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

上記の(1)は、中間試案の「組入要件」(=約款が契約の内容となるための要件)に相当するものと読めますが、内容は中間試案とは異なっています。具体的には、中間試案では組入要件として「その契約に約款を用いること」の合意が必須とされていたのに対し、これに近似する要綱案の上記(1)ア「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」は、必須の要件ではない(イが充たされる場合には不要)と解されます。

具体的な適用については、ウェブサービスの利用規約や申込画面の仕組み(中間試案に関するコラムQ.5の設例)を題材に考えてみましょう。上記(1)にあてはめると、概ね以下のような結論になりそうです。②では、ユーザーが「利用規約に同意する」という明示的な意思表示をしていなくとも、約款による合意が成立し得ることがポイントといえましょう。

① ユーザーに「利用規約に同意した上で申し込みます」と明記したボタンをクリックしてもらう場合、「定型取引合意」+「ア」により、(1)の「みなし合意」をクリア可能。

② ユーザーに「申し込みます」とだけ明記したボタンをクリックしてもらう場合、「定型取引合意」はあるが、「ア」は不充足とも解し得る(ただし、黙示の合意により充足と解する余地あり)。しかし、例えば申込画面上で「利用条件は利用規約による」旨を明記した上で、ユーザーが申込画面上で利用規約を読めるようにする(か、あるいは申込画面上に利用規約ページへの見易いリンクを貼る)といった方法で「イ」を充足すれば、「定型取引合意」+「イ」により、(1)の「みなし合意」をクリア可能。


次に、上記の(2)は、中間試案の「不意打ち条項規制」「不当条項規制」を一本化したものと理解できます。

この(2)は、中間試案の文言と見比べても、「諸事情を総合的に考慮する」というニュアンスが一層強まったように見受けられます。特に、最終的には信義則(=「民法第1条第2項に規定する基本原則」)に照らして判断するとされているため、事案に即した個別判断の余地が相当広いものと考えられます。実際、審議資料においても、この(2)が従来の裁判実務の柔軟な運用をふまえた規定である旨が述べられています。

なお、(2)には「不意打ち条項規制」に相当する内容(特に「相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができない」との文言)は明記されていません。しかし、審議資料によれば、「相手方にとって予測し難い条項が置かれている場合には、その内容を容易に知り得る措置を講じなければ、信義則に反する蓋然性が高い」ため、不意打ち条項の存在は(2)における考慮要素の一つとなり得るようです。

具体的な検討としては、中間試案に関するコラムのA.5で例として挙げた:

・ユーザーからの解約を一切認めない条項

・解約やサービス中止の場合に、事情にかかわらず返金を一切認めない条項

・紛争が生じた場合の裁判管轄を、サービス提供事業者の本店所在地のみとする条項

などは、中間試案の下では(仮に不意打ち条項ではないとしても)不当条項と解され得るものでしたが、要綱案の下では、(2)により「合意をしなかったものとみなす」と解される余地があるでしょう(その場合、「当該条項がユーザーに対して拘束力を持たない」という意味では、中間試案でも要綱案でも同様の結論になります)。


3 定型約款の内容の表示

定型約款の内容の表示について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、 定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

(2) 定型約款準備者が定型取引合意の前において(1)の請求を拒んだときは、2の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

中間試案では、このような約款の表示に関する独立の項目は特にありませんでしたが、その後の議論を経て、要綱案では上記の項目が設けられています。ただし、「相手方から請求があった場合」に開示義務があるとされていますので、いかなる場合でも約款の表示が必須というわけではありません。

なお、中間試案では「相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されていること」を、「約款」が契約内容になるための要件(組入要件)としていたが、この要件は要綱案には入っていません。また、本項の開示義務を果たさなくても、それによって直ちに約款による合意成立が否定されるわけではありません(約款による合意成立の有無は、主に上記2.の「みなし合意」の成否によります)。

具体的な適用については、「利用規約のウェブサイトへの掲載」(中間試案に関するコラムQ.5の設例)の場面を考えることが、ここでも有用でしょう。この点、中間試案では上記の組入要件に照らして、「多くの取引においては、約款をウェブサイトのわかりやすい場所に掲示することで足りる」と考えられましたが(中間試案に関するコラムA.5参照)、要綱案では要件が変わったため、全く同一に考えられるわけではありません。

もっとも、要綱案の上記(1)「(定型約款)を記録した電磁的記録を提供」を充たすためには、やはり①ユーザーが申込画面上で利用規約を読めるようにするか、あるいは②申込画面上に利用規約ページへの見易いリンクを貼る、といった方法が最も現実的ではありましょう(なお、こういった方法を採れば、上記2(1)イの要件もクリアできる場合が多いように思います)。その意味では、利用規約のウェブ掲載に関する基本的な留意点は、中間試案と要綱案とで本質的には異ならないともいえそうです。


4 定型約款の変更

定型約款の変更について、次のような規律を設けるものとする。

(1) 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。

ア 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

イ 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

(2) 定型約款準備者は、(1)の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

(3) (1)イの規定による定型約款の変更は、(2)の効力発生時期が到来するまでに(2)による周知をしなければ、その効力を生じない。

(4) 2(2)の規定は、(1)の規定による定型約款の変更については、適用しない。

約款の変更に対する規律は、中間試案では「引き続き検討」となっていましたが(中間試案に関するコラムA.6参照)、要綱案では上記の文言が明記されていますので、この内容がおそらく改正法案にも反映されることとなりましょう。


上記のうち、特にポイントとなる「個別合意をせずに約款を変更できるための要件」(上記(1)ア・イの一方を充たせば足りると解されます)を、中間試案のそれと見比べてみると、かなり異なるようにも見えます。ちなみに、中間試案では、以下のア~エを全て充たすことが要件とされていました。

ア 当該約款の内容を画一的に変更すべき合理的な必要性があること。

イ 当該約款を使用した契約が現に多数あり,その全ての相手方から契約内容の変更についての同意を得ることが著しく困難であること。

ウ 上記アの必要性に照らして,当該約款の変更の内容が合理的であり,かつ,変更の範囲及び程度が相当なものであること。

エ 当該約款の変更の内容が相手方に不利益なものである場合にあっては, その不利益の程度に応じて適切な措置が講じられていること。


しかし、文言上の差異だけでなく全体を実質的にみれば、要綱案と中間試案とで判断要素は概ね共通しており、主な差異は「個々の要素を別々に判断するか、あるいは総合的に判断するかにある、とも理解できます。審議資料をみても、要綱案(1)イ.の判断要素として「相手方に解除権を与えるなどの措置が講じられているか否か」(中間試案のエ.に相当)や「個別の同意を得ようとすることにどの程度の困難を伴うか」(中間試案のイ.に相当)といった事情が挙げられており、判断要素の共通性がうかがえます。

なお、上記4.による約款変更は、元の約款に変更条項(「この約款は、個別の合意を経ずに変更できる」旨の条項)がなくても成立し得ます。この点、議論の途上では変更条項の存在を必須の要件とする案も出ていたようですが、要綱案ではそうなっておらず、変更の合理性の考慮要素の一つとして明示されている((1)イ「この4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容」)以上、変更条項の存在は必須ではないと解すべきこととなりましょう。

以上

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