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コラム column

2013年10月24日

著作権

『デザイナーのための著作権と法律講座』
   「第1講 守られる情報とフリーな情報の境界線」

弁護士  諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)


本コラムは、弊所の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年8月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



■ 「激おこぷんぷん丸」は独占できるか

ホームページやロゴ制作の依頼を受け、「使える」フレーズがないかインターネットで探すこともあるでしょう。見かけたものを参考に、制作にとりかかるとき、ふと気になるのが著作権です。

著作権とは、「著作物」という情報に認められる権利です。「著作物」とは何かというと、①その人の考えなど(思想・感情)を②オリジナリティをもって(創作的に)③表現したもの、と定められています。例としては、小説、音楽、美術、映画、写真などがあります。これだけではわかりにくいと思いますので、逆に著作物に当たらない情報を挙げてみましょう。たとえば、気温のデータなどの「事実それ自体」は、思想や感情を表現したものではなく、著作物にはなりません。誰かが平安時代の気温について古文書をひも解いて「発見」したとしても、それは著作権では守られません。また、ありふれた文章やキャッチフレーズ・標語・スローガンなどの短い文章は、事実そのものであることや、誰が書いても同じような表現にしかならないケースが多く、著作物とならない場合が多いでしょう。その意味で、「いつやるか?今でしょ!」といった短いフレーズは、表現それ自体にはオリジナリティがないと考えられます(なお、弊所の桑野が取材協力した記事はこちら)。同様に、「激おこぷんぷん丸」や「ガチしょんぼり沈殿丸」などの単語は誰かに独占させるほどのオリジナリティのある表現とはいえず、これも著作物でないと考えられます。

ただ、短いからといって全て著作権がないというわけでもありません。たとえば、多くの俳句には著作権があるといわれています。裁判例でも、交通標語「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」は筆者の個性が現れているとして著作物だと判断されました(東京地裁平成13年5月30日判決)。


■ 著作権という「武器」

ある表現に著作権が認められると、その著作物の利用を基本的に独占することができます。そのため、著作物を著作権者の同意なくコピーし、アップロードなどをすると原則として著作権の侵害となります。著作権侵害に対し、著作権者は、その侵害行為を強制的に中止させること(差止)や損害賠償などを請求することができます。さらに、被害者の告訴があれば、刑事罰の対象ともなります。

なお、著作権に加えて、著作者には「著作者人格権」という権利もあります。これは、未公表作品を公表するかしないか、公表する場合にはいつどのような形で公表するか決定できる権利(公表権)、著作者名を表示するか、どのような名前をつけるか決定できる権利(氏名表示権)、著作物の内容や題号を無断で改変されない権利(同一性保持権)の総称です。著作権は他の人に譲渡できますが、著作者人格権は譲渡できないのが特徴です。


■ アイディアが使われたら

雑誌に使用するロゴ制作の打ち合わせで、デザイナーが「レトロモダンな、伝統と上品をモチーフにした、イギリス人風紳士が立っているセピア色のロゴ。真ん中にタイトルを入れる。」とのコンセプトを提案しました。しかし、その後自分には仕事の依頼はなく、提案したコンセプトをもとに、勝手に他のデザイナーが雑誌のロゴを制作しているのを見つけたとします。このとき、コンセプトの無断盗用でクライアントに対して何かいえないものでしょうか。

先ほど、著作物は「表現したもの」である必要があるとご説明しました。逆にいうと、表現として形をとる以前の「アイディア」には著作権がありません。これは、アイディアを独占させると、自由な創作活動に支障が生じるためです。たとえば、「BLACK JACK」の主人公の「顔に手術痕のある外科医」に著作権があると、ブラックジャックとは似ても似つかない顔に手術痕のある外科医にも長期間の独占権が発生してしまい、そのような絵が一切描けなくなってしまいます。

さて、先ほどの話に戻りますと、デザイナーがいくらコンセプトを出したとしても、そのロゴの制作に具体的に関与していない場合には、出した提案は「アイディア」にとどまり著作権はないと考えられます。この場合のデザイナーが自分のアイディアを守るための手段としては、理論上は、「このアイディアを第三者に開示してはいけない」という秘密保持契約を雑誌側と締結した上で、アイディアを提供することなどが考えられます(現実には容易では無いでしょうが、海外では例が見られます)。


■ 著作権は永遠に続くのか

著作権があるといっても、どんなに古いものでも保護されるわけではありません。著作権は、私たちの社会全体の創作活動を促すための権利です。ある期間は著作権を守って創作者が作品から収入を得られるようにする代わり、その後は自由に使えるようにすることで、文化の発展をはかろうとしています。そのため、著作権には保護期間があります。現在の著作権法で定められている保護期間は、著作物創作時からスタートし、原則として「著作者の死後50年まで」です(著作者が不明な場合や団体発行の作品は公表後50年まで、映画の場合は公表後70年まで)。なお、先ほどの「死後50年」といった保護期間の計算は、「死亡・公表の翌年の1月1日」から始まります(著作権法57条)。2013年時点では、1962年12月31日以前に死亡した方の作品であれば、基本的には著作権の保護期間が満了しています(ただ、今の著作権法に変わる前の法律の適用があるケースや、海外の著作者の場合の戦時加算などの例外があります。)。この著作権の保護期間が満了した作品は、「パブリックドメイン(PD)」と呼ばれ、誰でも自由に利用できます。たとえば、1962年に亡くなった吉川英治や柳田國男の小説は、2012年末で著作権の保護期間が満了しました。そのため、2013年から、著作権フリーの電子図書館「青空文庫」で読めるようになりました。

ただ、著作権の保護期間が満了していても、その著作物に変更やアレンジを加えるときに注意しなければならないのが、著作者人格権(同一性保持権)です。基本的に著作者の意向に反する変更ができないという権利で、著作者の死後も、著作者の孫までは差止などを請求できます(著作権法116条)。そのため、PDであっても、アレンジなどを加える場合には、死後50年以降も注意しなければなりません。

以上



参考文献:福井健策『著作権とは何か―文化と創造のゆくえ』(集英社新書、2005)、松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

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