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コラム column

2018年9月27日

著作権裁判メディアIT・インターネットダンス

「社交ダンス vs フラダンス ダンスの振付の著作物性について考える」

弁護士  岡本健太郎 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

先週9月21日に、大阪地裁で、フラダンスの振付に著作物性を認める判断がなされました。2012年に、東京地裁で、社交ダンスの振付の著作物性を否定する判断がなされた以降、ダンスの振付の著作物性をやや厳格に解する風潮がありました。今回のフラダンス事件の判断は、その風潮が変わる契機になるかもしれません。判決文の公開前であり、報道資料等のごく限られた情報に基づくものですが、今回の判断を速報的に検討してみます。

◆「振付の著作物性」についての裁判例

著作権法上、ダンス(舞踊)は著作物の1つに例示されており(10条1項3号)、振付を創作した振付家は、著作者として著作権等を有します(2条1項2号、17条1項)。ただ、全ての振付が著作物となるのではなく、一定の創作性(≒オリジナリティ)等が必要とされています(2条1項1号)。
「振付の著作物性」に関する過去の裁判例は多くはありませんが、これまで、①バレエ(肯定例:東京地判1998年11月20日)。②日本舞踊(肯定例:福岡高判2002年12月26日)、③手遊び歌(否定例:東京地判2009年8月28日)、④社交ダンス(否定例:東京地判2012年2月28日)、⑤ファッションショーにおけるモデルの動作(否定例:東京地判2014年8月28日)等がありました(過去のコラムもご参照)。

このうち、ダンスの振付に関するものとして、バレエ(上記①)、日本舞踊(上記②)及び社交ダンス(上記④)の各裁判例が挙げられますが、①バレエの裁判例では、著作物性は特に争点とはされませんでした。また、②日本舞踊の裁判例では、各振付の個別具体的な検討は行わず、「独自性のある振付がなされ、客観的にも芸術性が高い」などとして端的に著作物性を認めました。これに対して、④社交ダンスの裁判例は、映画「Shall we ダンス?」の振付の著作物性について判断しましたが、以下のように、個々のステップや身体の動き、振付の著作物性についての一般的な考え方を示しており、先例性がありました。


個々のステップや身体の動き ・ごく短く、ありふれた基本ステップは、著作物性はない。
・基本ステップにアレンジを加えても、元の基本ステップを認識可能なものは、ありふれたものであり、著作物性はない。
・新たなステップや身体の動きを加えたとしても、既存のステップと組合せた振付全体中の短い一部にすぎないものは、著作物性はない。
振付(ステップや身体の動きの組合せ) ・既存ステップの組合せを基本とするダンスの振付が著作物に該当するには、単なる既存のステップにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備える必要がある。

「Shall we ダンス?」事件では、上記の考え方のもと、それぞれの振付を検討し、それぞれ(a)基本ステップから構成され、流れや展開がありふれている、(b)基本ステップに若干のアレンジを加えたに過ぎない、(c)単純な動きであって顕著な特徴がないなどとして、著作物性を否定しました。同事件では、振付の著作物性をやや厳格に解する理由として、振付に著作物性を認めた場合、特定の者がその振付を独占し、その後の振付の自由度が過度に制約される懸念があるなどと述べています。また、同事件では、既存のステップの組合せに加えて、アレンジを加えたステップや、新たなステップや身体の動きを組合せた場合も同様としています。

◆各ダンスの特徴

ダンスには、バレエ、日本舞踊、Hip Hop等の様々なジャンルがありますが、例えば、バレエでは、姿勢を引上げて高めの重心を意識するのに対して、Hip Hopでは、身体の動きに緩急を付けつつ、重心を低めにする傾向があるなど、各ダンスには、それぞれ特徴的な身体の使い方や基本ステップがあります。また、方向性や重視される価値観がそれぞれ異なるようにも思われます。独断ですが、各ダンスには、それぞれ以下のような一般的な傾向があると感じています。


伝統舞踊(日本舞踊、民族舞踊) 確立された型、ステップ、振付等が多く、先行芸能の継承が重視される。振付の選択の幅は相対的に狭い。
クラシックダンス(バレエ、社交ダンス、タップダンス(但しブロードウェイ・スタイル)) 基本ステップが多く、振付の相当部分がその組合せからなる。ステップや振付の正確性や完成度が重視される。
ストリートダンス(Rock、Breakin’、Pop、New Jack Swing等のオールドスクール)、ジャズダンス(?) 基本ステップがそれなりに多く、振付の一定割合を占めている。ステップや振付の正確性だけでなく、オリジナリティも重視される。
ストリートダンス(Hip Hop、House等のニュースクール)、リズムタップ(?) 基本ステップはあるが、自由度が高く、振付の選択の幅も広い。ステップや振付の正確性よりも、巧さやオリジナリティが重視される。
コンテンポラリー 自由度が相当高く、振付の幅も広い。オリジナリティや表現力が重視される。

伝統舞踊やクラシックダンスも、過去の継承だけでなく、独自性や現代的な解釈を加えたりといった試みがあるように思われます。ただ、歴史の蓄積が多い分、基本ステップが多く、振付を作る上でのルールや制約も多くなりやすい印象です。これに対して、ストリートダンスやコンテンポラリーは、基本となるステップや身体の動きはあるものの、多様なステップや身体の動きを取り入れており、振付を作る上での制約は相対的に少ないように思われます。例えば、社交ダンスには名前付きのステップが多く存在するなど、名前付きのステップや振付の数も、こうした傾向を示す一要素と考えています。

◆今回のフラダンス事件の判断

幾つかの報道資料に基づく限り、今回の事件の概要は、以下のとおりです。
ハワイでは、フラダンスの振付を新たに考え、また、既存の振付をアレンジすることは、フラダンス伝承者として認められた指導者(クム)にしか許されておらず、クムは、曲の歌詞から物語をイメージし、手の動きや足のステップを組合せながら、振付として表現しているようです。原告は、ハワイでフラダンス教室を運営するクムの1人で、被告である九州・中国地方のフラダンス教室と契約を締結し、振付等を指導していました。被告が、原告との契約解除後も、原告の振付を利用していたため、原告が、被告に対して、振付の利用差止や損害賠償請求を求めました。
原告は、「フラダンスの手の動きやステップは、家族や恋人らへの愛情を表したものである。振付は、先代から受け継がれたものを含むほか、曲の意味を解釈しながら手や足の動きを独自に組合せ、深い意味や感情をこめて創作したものである」などとして、自身の振付の著作物性を主張しました。これに対して、被告は、「原告の振付は、既存の基本ステップの組合せであり、また、曲の歌詞をそのまま手の動きで表した手話のようなもので、著作物性はない」などと反論しました。

大阪地裁は、「フラダンスの手の動きは、歌詞を表現するもので、動作自体はありふれたものであっても、作者の個性が表れる。作者の個性が表れている部分が一定程度あれば、一連の流れ全体について舞踏としての特徴があるため、舞踏全体について著作物性を認めるのが相当である」などとした上、独自の振付がちりばめられているとして、本件で問題とされた6曲の振付全体について著作物性を認めました。

◆上記の判断を踏まえて

1. 判断枠組

「Shall we ダンス?」事件では、振付に著作物性が認められるには、「顕著な特徴を有するといった独創性」が必要とされ、通常より高度な創作性が必要とも読めます。他方、今回のフラダンス事件は、「独自性」(≒一定のオリジナリティ)があれば、振付に著作物性が認められるとしており、必要な創作性の程度が低まったようにも感じます。そればかりか、今回の判断は、「独自性のある振付がある程度存在すれば、独自性の乏しい部分も含めて、振付全体の創作性を認める」などとして、各振付(ステップや身体の動きの一定のまとまり)と振付全体の関係性について明示的に判断したように思われます。
確かに、「Shall we ダンス?」事件で懸念されたように、既存のステップや振付に著作物性を認めてしまうと、特定の振付家が独占するという弊害は生じ得ます。ただ、「振付全体」について著作物性を認め、第三者による無断利用を制限したとしても、第三者が「振付全体」に含まれる既存のステップや各振付を自由に利用できるのであれば、弊害は限定的でしょう。
また、経験上、振付家は、全体や前後の流れを考慮し、オリジナルのステップや各振付だけでなく、既存のステップや各振付から最適なものを取捨選択しつつ、1曲の振付(≒振付全体)を作ります。既存のステップや各振付の取捨選択にも個性があり得るのです。今回の判断が、振付全体に著作物性を認めているのだとすれば、振付家の創作活動の実情に沿ったものと感じます。

2. フラダンスの特徴

フラダンスには、現代フラと古典フラがあり、日本で多く踊られているのは現代フラのようです。今回問題とされたフラダンスも現代フラですが、現代フラには、古典フラと比べて、様々な手の動きやステップがある上、体の向き、顔や目線の方向、重心の位置、ターンの仕方等にも選択の幅があるとされます。ただ、筆者個人としては、フラダンスは伝統舞踊の1つであり、上記のとおり、他のダンスとの比較において、振付における手の動きやステップはシンプルであり、その選択の幅は少ない印象を持っています。報道映像からしても、身体の動きやステップは比較的シンプルに見えます。
しかし、今回、下記3のような特徴を考慮しつつ、フラダンスの振付に著作物性を認めました。今回の判断は、動きや振付が複雑で、その選択の幅も広いストリートダンスやコンテンポラリーだけでなく、伝統舞踊やクラシックダンスについてもより広く著作物性を認めていく契機になり得るかもしれません。

3. 歌詞の意味

フラダンスの振付は、①手の動き(ハンドモーション)と②足のステップの組合せからなり、花、雨、太陽、愛などの特定の言葉に対応するハンドモーションは概ね決まっているようです。裁判所は、「フラダンスの手の動きは、歌詞を表現するもので、動作自体はありふれたものであっても、作者の個性が表れる」などと判断したようですが、歌詞と動きの対応関係に個性があれば(例:「花」という歌詞に、いくつもある選択肢の中から、通常は「花」には使われない手の動きを敢えてあてたような場合)、著作物性を認める趣旨と推測されます。
フラダンスは歌詞に合わせて踊るため、歌詞と動きの対応関係は分かりやすそうです。また、各動きが表す意味は、伝統舞踊やコンテンポラリーでは重視され得る一方、ストリートダンス等ではそれほど重視されない印象があります。また、「Shall we ダンス?」事件では、「振付と音楽の調和」は振付の著作物性を直ちに基礎付けないとの判断でした。ただ、歌詞と動きの対応関係に創作性を認めた今回の裁判所の判断を前提とすると、ストリートダンス等についても、歌詞だけでなく、音と動きの対応関係に個性がある箇所(例:特徴的な音ハメをした箇所)にも創作性が認められるかもしれません。

4. 実務への影響

今回の判断を踏まえ、振付家に振付を依頼する際には、本件のような紛争を未然に防ぐべく、振付の著作権の帰属や利用関係を明確にするため、権利処理の必要性がさらに高まるように思われます。
また、今回、裁判所は、フラダンスの曲全体の振付に著作物性を認めたようですが、第三者に自己の振付の一部を無断利用された場合に、どこまでの範囲に著作物性を認め、利用差止や損害賠償請求を可能とするのか、といった実務的な問題も生じそうです。

今回の裁判手続では、証拠調べ(検証)において、裁判所でダンスの実演があったようです。今後、判決文が公表されると思われますが、その点も含めて、引き続き注目していきたいと思います。

以上

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