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コラム column

2018年1月29日

改正契約エンタメ

「あらためて「時効」を知ろう ~債権法改正の成立をふまえて~」

弁護士  北澤尚登 (骨董通り法律事務所 for the Arts)

債権法(民法の一部)の改正が、ついに成立しました。施行期日は(一部の例外を除いて)2020年4月1日となっています。改正点は多岐にわたりますが、今回は債権の時効について、過去のコラム(「時効のリスク、お気づきですか?~民法改正の動きをふまえて」および「債権法改正の『現在地』~債権時効を中心に~」)をアップデートする意味も込めて、改正内容をご紹介したいと思います。

1. 時効期間~「いつから」「いつまで」に要注意

改正後の時効期間は、主に以下のようになります(定期金債権・定期給付債権については省略します)。下線部分は、改正によって新たに加わった内容です。この時効期間は、施行日以後に発生した債権に適用されることとなります。
なお、商法に定められていた商事債権の消滅時効(5年)、および民法に定められていた職業別の短期消滅時効(1年~3年)は廃止となりました。特に短期消滅時効について、(以前のコラムでも述べたような)盲点になってしまうリスクがなくなったのは望ましいことといえましょう。


①債権の原則的な時効期間は、以下(a)(b)のいずれか早い方

(a)債権者が権利を行使できることを知った時から5年

(b)権利を行使できる時から10年(ただし、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については20年

②「債権または所有権以外の財産権」の原則的な時効時間は、「権利を行使できる時から20年」

...①(a)が加わったことにより、時効の管理には新たな注意が必要になったといえましょう。契約書や借用証で期限が特定されている支払請求権などについては、あらかじめ債権者が「権利を行使することができることを知って」いる以上、(現行法の商事債権にあたるかどうかに関わらず)支払期限から5年で時効にかかるため、債権者としては、それを見越した回収や訴訟提起などの措置をとる必要があります。
また、債権者が「権利を行使できる(ようになった)時」よりも後に「権利を行使できることを知った」場合には、その時点で5年のカウントが始まることになり、①(b)の10年(または20年)とは起算点にズレが生じますので、どちらが早く経過するかを含めて、やはり時効管理に注意を要します。
なお、①(b)の「人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権」は、例えば安全配慮義務違反に基づく債務不履行請求権(スタッフが業務で負傷した場合など)が含まれるものと思われます。


③不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、以下(a)(b)のいずれか早い方

(a)被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年(ただし、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については5年

(b)不法行為の時から20年

...現行法のもとでは、(b)の20年については、時効ではなく「除斥期間」である(したがって、訴訟提起などによってカウントを止めることはできない)と解する判例がありました。しかし、改正法ではこれも時効として明記されたため、後述する時効の「完成猶予」や「更新」の措置により権利消滅を阻止し得ることが明確になりました。

なお、著作権など知的財産権を侵害されたケースでは、不法行為に基づく損害賠償請求権だけでなく不当利得返還請求権を主張(行使)することもありますが、前者については上記③、後者については上記①が適用されることとなります。特に(損失・損害および侵害者などの判明後においては)不法行為では③(a)により3年、不当利得では①(a)により5年の消滅時効期間が適用され得ることになりますので、これを念頭において権利行使のタイミングを検討するのが望ましいでしょう。

2. 時効の「完成猶予」と「更新」~時効成立を阻止するには

改正法では、時効の成立(完成)を阻止する仕組みとして、以下の二つの概念が設けられています。これらは、現行法における時効の「停止」「中断」を(単に言い換えただけではなく)再構成したものといえます。


①完成猶予:一定の事由が生じている場合、その事由の終了(ないし一定期間経過後)までは時効が完成しない

②更新:時効のカウントが新たに(ゼロから)始まる

完成猶予および更新の「事由」は、概ね以下のように要約・整理できます(必ずしも詳細を網羅してはいないため、具体的内容については適宜条文等をご確認ください)。施行日以後に発生した事由について、これらの改正法に基づく完成猶予・更新が適用されることとなります(なお、(vii)の「権利についての協議を行う旨の合意」については、施行日以後に合意書面が作成された場合に適用されます)。

事由 完成猶予 更新
有無 期間
(いつまで猶予されるか)
有無 時点
(いつカウントがゼロに戻るか)
(i) 裁判上の請求、支払督促
和解・調停申立て、破産手続参加等
事由終了まで
(確定判決等により権利が確定せず終了した場合は、事由終了から6ヶ月経過まで)
事由終了時
(ただし、確定判決等により権利が確定した場合のみ)
【※1】
(ii) 強制執行、担保権の実行等 事由終了まで
(申立ての取下げまたは法律不遵守による取消しにより終了した場合は、事由終了から6ヶ月経過まで)
事由終了時
(ただし、申立ての取下げまたは法律不遵守による取消しにより終了した場合を除く)
(iii) 仮差押、仮処分 事由終了から6ヶ月経過まで ×
(iv) (債務者等による)承認 × 承認時
(v) (債権者等による)催告 催告から6ヶ月経過まで ×
(vi) 天災等により(i)(ii)の手続を行うことができない場合 障害消滅から3ヶ月経過まで ×
(vii) 権利についての協議を行う旨の合意 【※2】 ×


【※1】...確定判決等(確定判決と同一の効力をもつ、裁判上の和解などを含む)によって確定した権利については、法定の時効期間が10年未満であっても、10年に延びることになります(ただし、確定時に弁済期未到来の場合は除きます)。この点は、現行法と同様です。

【※2】...(vii)の「権利についての協議を行う旨の合意」は、改正法において新たに加わった時効成立(完成)の阻止事由です。この合意がなされた場合、以下のいずれか早い時点までの間、完成猶予となります。

・合意後1年を経過した時

・合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時

・当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨を書面で通知をした場合、その通知から6箇月を経過した時

債権者としては、裁判上の手続((i)~(iii))をとることが時間や労力の観点から困難な場合、裁判外の措置として、「承認」(債務者に債務を自認してもらうこと...上記では(iv)に該当)による更新、あるいは「催告」(内容証明郵便での通知による履行請求など...上記では(v)に該当)による完成猶予、という選択肢もあります。しかし、この二つの選択肢は現行法と同様ですが、債務者が争っているケースでは「承認」を得られない可能性があり、催告では6ヶ月間の猶予しかないため、不十分な場合もあるかもしれません。そのような場合に、より現実的で実効性のある時効管理の方法として、まずは裁判外での協議を申し入れ、「権利についての協議を行う旨の合意」を書面で締結することにより、一定期間の完成猶予を得た上で(交渉による和解も視野に入れた)解決をめざすことも選択肢に加えるべきこととなりましょう。

以上

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