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コラム column

2017年9月20日

その他の知的財産法裁判IT法

「著名商標と「~風」「~タイプ」問題 ―日本の裁判例とフランス商標法」

弁護士 中川隆太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)

ファッション関係の法務・知財担当者の間で以前から話題に上ることも多い「~風」「~タイプ」問題。例えばYahoo!ショッピングで「バーキン風」と検索してみると、エルメス社のバーキンではないが、そのデザインを模したと思われるバッグがずらりと並ぶ

Yahoo!ショッピング
Yahoo!ショッピングより(2017年9月15日時点)

同様の現象は、ヤフーに限らず様々なインターネットモールや、メルカリなどのC2Cの中古品売買プラットフォームでも生じている。またそのバリエーションについても、見出しや商品画像において著名ブランドのブランドネームや人気商品名に「~風」「~系」「~タイプ」「~モデル」「~スタイル」などの語を付記するだけのもの、商品概要において「○○タイプミニバッグ」などと記載するもの、さらには、説明文の中で「このバッグは、~風のデザインのバッグです」などの表現により文章として記述するものなど、様々な態様が存在している。

このような現象の背景には、「~風」「~タイプ」としておけば、「商品の説明に過ぎない」「誤認混同のおそれがない」として商標権侵害のリスクを回避できるとの思惑があるようにも感じられるところである。そこで本コラムでは、関連する日本の裁判例、さらには筆者がパリ留学中に遭遇した興味深いフランス商標法の関連規定を紹介した上で、この「~風」問題について少し考えてみたい。

注) なお、①デザインについての権利侵害の有無や、②メタタグとしての商標の使用と商標権侵害の成否、さらには③不正競争防止法2条1項14号の品質誤認表示も別途問題となりうるが、本コラムでは「~風」と商標権侵害の問題に焦点を絞りたい。

■商標的使用の法理

日本の商標法では、従来より「その商品やサービスの出所を示す態様以外での使用は商標としての使用に当たらず商標権侵害とならない」という『商標的使用の法理』が判例上確立されている(平成26年の商標法改正では、これを明文化するものとして26条1項6号が追加された)。またこの考え方は、不正競争防止法2条1項1号・2号の「自己の商品等表示としての使用」についても概ね共通するものと考えられている。

では、「~風」「~タイプ」などの態様での使用は商標的使用に当たるだろうか。これらの表示に接した消費者が、商品の出所(ブランド)を示す表示と受けとめるリスクがあるかどうか。この点こそが、この「~風」問題の最大のポイントとなる。

■「シャネルNo.5」事件

この点について、「シャネルNo.5」事件東京地裁平成5年3月24日判決では、東京地裁は、「Cinq 5」(cinqはフランス語で数字の5の意)という名のスティック型香水のパッケージに丸囲みで『シャネルNo.5 タイプ』と表記するなどした事例で、商標的使用を認めている(下記写真右がパッケージの全体図、写真左はパッケージの上半分の、写真中央はパッケージ下半分の拡大写真)。

Yahoo!ショッピング

具体的には、この裁判例では2つの商標の使用が問題となった。まず、パッケージ左上に付されている『シャネルNo.5 タイプ』の丸囲み部分(上記画像の赤丸で囲んだ部分)について、東京地裁は


・ 「シャネル」「No 5タイプ」の文字は、唯一の日本語であり、橙黄色の地の中の灰色の円形の中に記載されていることもあって、小さな文字であっても需要者、取引者の注目を引くこと

・ 「シャネルNo 5」がシャネル・グループの製造販売する香水の商品表示として著名である以上、「シャネルNo 5タイプ」の内「シャネルNo 5」の部分をもって出所を表示する標章と理解する需要者も決して少なくないこと

・ 「シャネルの販売するシャネル五番の香水ではない」ことをわかりやすい表現で明瞭に記載せずに「シャネルNo.5タイプ」との表示をすると、多数の需要者の中には「タイプ」の意味するところを理解できずあるいは不注意から「タイプ」の意味するところを深く考えないままに、被告商品の出所を表示する標章と理解する需要者が少なくないこと

・ 「シャネルNo 5タイプ」の表示をもって、「シャネル五番の香水ではないが似た香りのもの」という趣旨の表示として正しく理解する需要者もあることは当然であるが、「シャネルの販売するシャネル五番の香水ではない」ことをわかりやすい表現で明瞭に記載してあればともかく、前記のような表示では多数の需要者の中には「タイプ」の意味するところを理解できずあるいは不注意から「タイプ」の意味するところを深く考えないままに、前記表示をもって、被告商品の出所を表示する標章と理解する需要者が少なくないと認める妨げとはならないこと

などを理由に、商標的使用に当たると認めている。ここでは、①需要者の注目を引く表示であること、②原告商標が著名であること、③明確で分かりやすい打ち消し表示がなされていなかったことなどがポイントとなっている。また、特に目を引くのは、「タイプ」と付記していれば、「そのものではないが似た香りのもの」という表示として正しく理解する需要者もあることは当然だと評価しつつ、それでもなお、分かりやすい打ち消し表示をしていない以上、その趣旨を理解できずあるいは不注意からその意味を深く考えないままに、被告商品の出所を表示する標章と理解する需要者が少なくない、と判断されている点である。簡略化して言えば、少なくとも本判決は、著名ブランドネームや著名商品名と組み合わせる場合には、「タイプ」のみでは十分な打ち消し表示とはならないと判断している。

また、本件のパッケージには、商品の下部右側(上記画像の青枠で囲んだ部分)に

If You Like
The Fragrance
Of
CHANEL No.5®,
You'll Love
Cinq
5.

という英文での商品説明が記載されていたが、上記の通り、「CHANEL No.5®」のみで1段となるように改行され、かつ、この部分のみ太字フォントで記載されているという事例であった。この点についても、東京地裁は


・ 「CHANEL NO.5」の部分はやや肉太の、他とは異なる書体で表されて一段をなしていることから需要者、取引者の注目を引くこと

・ この部分を含む英語の文章全体の意味を理解できない需要者は少なくないものと認められること

・ 「CHANEL No.5」の直後に登録商標であることを示す®の記号が付されていること

・ 「シャネルNo 5」がシャネル・グループの製造販売する香水の商品表示として著名であること

を理由に商標的使用を認め、こちらも商標権侵害と判断した。ここでもやはり、注目を引く表示であることや原告商標が著名であることなどがポイントとされている。

■「香りのタイプ」事件

他方で、比較広告での「~タイプ」が問題となった「香りのタイプ」事件東京高裁昭和56年2月25日判決では、逆の結論が出されている。

この事件では、被告が自社の香水「SWEET LOVER」について「その香りの調子は、世界の名香と同じで、しかもお求めやすいお値段です」とのうたい文句とともに、自社香水のそれぞれのラインナップについて、「この香りのタイプは世界の名香でいえば・・・」と記載して比較表の形で広告に掲載した行為について、不正競争防止法1条1項1号(現在の2条1項1号)の誤認惹起表示行為に該当するかが争われた。

SWEET LOVER
問題となった比較表(裁判所HPより)

東京高裁は、このような利用行為について、


・ 被告は、その商品を「SWEET LOVER」若しくは「スイートラバー」又はこれに一定の番号を付したものを自己の商品であるとして販売、宣伝しているにほかならないこと

・ 被告は、原告ブランドの商品であることを示す表示と同一又は類似のものを使用しているわけではなく、ただ、自己の商品である香水の香りのタイプ又は調子が、原告ブランドの香水の香りと同じであるとしているにすぎないこと

を指摘した上で、


・ そうだとすると、被告の商品又は比較広告に接する者は、被告の比較広告の上記の具体的表示とその用い方に徴し、その商品を世界的に著名であるとされる原告らの商品(香水)とその香りが似ているとの認識を抱き、その認識のもとに取引に当ることはあつても、被告の商品を原告らの香水と誤認し又は誤認するおそれがあるものとは考えられない

として、不正競争行為に当たらないと判断した。

■両判決の整理

これらの判決は、一見すると正反対の判断をしたように見えなくもない。しかし、いずれも「~タイプ」が争点となった事案とはいえ、問題となった具体的な表示の内容は、上記の通り、大きく異なるものである。

そして実際に、シャネルNo.5事件判決でポイントとなった点を香りのタイプ事件の事実関係に当てはめてみても、以下の通り、商標的使用を否定する判断に結びつきやすいように思われる。

シャネルNo.5事件判決で
ポイントとなった点
「香りのタイプ」事件に当てはめた場合
①表示が注目を引くものかどうか 商標的使用を否定する方向

(広告内で「その香りの調子は、世界の名香と同じで、しかもお求めやすいお値段です」との説明文と共に、上記比較表の形で「この香りのタイプは世界の名香でいえば・・・」と表示された欄に商標が記載されているにとどまり、商標のみが注目を引く形になっていない)
②原告商標が著名かどうか 商標的使用を肯定する方向
(原告商標はいずれも著名)
③明瞭で分かりやすい打ち消し表示があるかどうか 商標的使用を否定する方向か

(自社の商品名が「SWEET LOVER」であることを明示しつつ、説明文において当該自社商品の香りのタイプが著名ブランドの香水と同じだとうたっており、「被告商品が原告ブランドによる原告の商品ではないことが分かりやすく示されている」と評価する余地もある)


このように、両判決は十分に整合的に理解することが可能である。また、アプローチとしても、上記①②③など、消費者が当該表示から商品の出所について受ける印象を左右するポイントに基づき、事案に応じて「~風」「~タイプ」が商品の出所を示す表示として消費者に理解されるリスクがあるかどうかを検討するという手法は、適切なものと思われる。

■フランス商標法の興味深いルール

ところで、筆者の留学先であったフランスでは、知的財産権法典L713-2条において、この「~風」問題について正面から定められている。


L713-2条

権利者の許諾を得ることなく次の行為を行うことを禁止する。

(a) 指定商品又は役務と同一の商品又は役務について、登録された標章を複製し、使用し、もしくは付する行為(たとえ「方式、風、系、模倣、タイプ、方法」("formule, façon, système, imitation, genre, méthode")などの用語を付加した場合であっても)又は複製された標章を使用する行為

(b) 適法に付された標章を削除又は変更する行為

つまりフランスでは、「~風」「~タイプ」などの表記は、それが登録商標と同一の標章であり、かつ、指定商品・役務と同一の商品・役務について使用される限り、直ちに商標権侵害となる。そして条文の書きぶりからも明らかであるように、上記の「方式、風・・・」などの用語はあくまで例示列挙であるとされており(代表的な文献のひとつであるFrédéric Pollaud-Dulian"La Propriété Industrielle"等参照)、実際の裁判例でも、これらに限られず、以下のような商標の使用が全て商標権侵害と判断されている。


・ en remplacement de + 商標(~の代わりに)

・ ex + 商標(以前の)

・ tendance + 商標(~派)

では、どうしてこのように日本と状況が異なるのだろうか。

その背景のひとつには、EUでは商標的使用が商標権侵害の要件とされていないという事情がある(なお、米国も基本的に同様。ただし、関連し得る権利制限あり)。EUでは、「商標の本質的な機能は出所表示機能だが、それに限られるものではなく、広告機能や投資機能、コミュニケーション機能なども商標の機能である」というのが、EU司法裁判所の判例によって確立された考え方であり、これらの機能を害する形で取引上使用されれば、たとえ商品・サービスの出所(ブランド)を示すような態様で使用されていなくとも、商標権侵害となりうるとされているのである。

■まとめに代えて

商標の機能論や商標的使用について、日本法とフランス法・EU法の議論のどちらがより適切・妥当かという「ディープ」な領域には、本コラムでは立ち入らない。また、どちらの商標法も、商標へのフリーライドを一切禁止するものでもない。

しかし、昨今の日本のファッションEC業界で氾濫する「~風」「~タイプ」は、すでに見てきた通り、これまでの日本の裁判例に照らしても商標権侵害や不正競争防止法違反のリスクが十分にあるように思われる。具体的には、


・ 商品ページの見出しや商品画像などECサイトユーザーの目につきやすい箇所に、

・ 特に明瞭で分かりやすい打ち消し表示をしたり、自社の商品名を大きく目立つように表示したりすることもなく、

・ 著名なブランドネームや人気商品・シリーズ名に

・ 単に「~風」「~タイプ」「~系」などと付しているにすぎない場合(「風」「タイプ」の部分のみが目立つようには表示されてはいない場合)

には、商標権侵害や不正競争防止法違反となるリスクが十分に認められるだろう(実質的にも、そうでないと「~風」「~タイプ」と付記さえすれば簡単に商標権侵害等を潜脱できてしまうことになりかねない)。少なくとも、「商品説明に過ぎず商標的使用に当たらない」との紋切型の議論は、これまでの裁判例を前提とするとなかなか通用しにくい以上、「~風」「~タイプ」を使用する際には十分な注意が必要となるだろう。

注) なお、この点については経産省模倣品対策室も、前記の2つの裁判例を紹介しつつ、「Xなどの登録商標の権利を保有しない者が、「Xタイプ」、「X風」という表示を商品に添付して販売する行為が、権利者の商標権又は専用使用権を侵害するかどうか、又は、不正競争防止法違反に該当するかどうかといった判断は、事案によって異なってきますので、政府模倣品・海賊版対策総合窓口において判断することは出来ません。」としている。


以上

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