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コラム column

2017年3月22日

著作権法IT法

〘情報・メディアと知財のスローニュース〙

「DeNA報告書276ページを15分でざっくり読む
               彼らは何を間違い、我々に何を残したのか?」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

最初に謝ってしまおう。すみません誇大広告です。幾らなんでもあんなすごいもの15分では読めない。これは「自分が15分でポイントを語ればこうなる」という報告である。
何かといえば昨年暮れの最大のネット炎上のひとつ、キュレーションメディア大量閉鎖問題だ。そのきっかけとなり10サイト閉鎖に追い込まれたDeNAについて、第三者委員会の報告書が公表された。本文実に276頁、要約でも30頁という大分量ばかりか、その問いかけの多様性といい語りの「熱さ」といい、インパクト十分の内容である。ざっくりと中身をのぞいてみよう。

著作権侵害の記事はどれだけあったか

委員会メンバーは、企業法務のベテラン・知財法の第一人者・元検事とオール弁護士4名、顔ぶれの信頼感も十分だ。対象は閉鎖10サイト全体。その経緯や運営体制から記事の著作権侵害その他法令違反の検証、原因・背景の分析、再発防止策と実に手厚い。
まず記事の違法性。騒ぎのきっかけになった①WELQの謎の健康記事からいえば、問題にされた19記事中10本に、薬機法ほか法令違反の可能性があるとされた(244頁。以下ページ数は本文)。薬機法(医薬品医療機器等法)とは医薬品の誇大広告などを禁ずる法令で、例えば市販の鎮咳去痰剤について「副作用が多い成分ではない」と書いた記事がこれにあたり得るとされた。
次いで、②写真など画像の無断転載。こちらは全記事の472万超の画像中74万点以上について、権利者の許可が確認できず著作権侵害(無断複製・公衆送信)の可能性があるとされた(45頁)。率にして掲載画像全体の6分の1に迫るので、事実なら確かに極めて多い。
この際、他のサイトからの直リンクの画像150万点超については、違法の疑い対象から全て除かれた。リンクは、技術的にはいわば「元サイトの場所を教えてあげる」行為であり、直接の複製・送信は行っていないので著作権侵害にはあたらない、が通説だからだ。
さて、画像は使われていれば一目瞭然なのだが、大変なのは③文章の盗用である。例えば複数の元記事からコピペやリライトを繰り返している場合、そう簡単には元記事じたいが見つからない。どうしたかというと、合計37万超の過去記事から無作為で400本だけ抜き出し、サンプル調査をおこなった(29頁~)。400本を引用分析ツールにかけ、ネット上の様々な文章から「30文字以上の文で内容が90%以上一致するもの」を洗い出し、そうした文がひとつでも含まれている文章は「ネタ元候補」とする(紙のネタ元の可能性はいったん度外視している)。こうして4300以上の文章を抽出して、後は目視で侵害か否かを判断したというのだ。これだけでも何人もの昼と夜と週末が飛びそうだよね!という作業を受託したのは大手の西村あさひ法律事務所。弁護士の働き方改革の日は遠い。は冗談として、その結果、「著作権侵害の可能性があるもの」が15点(3.75%)、標本誤差を考慮すると出現率は1.9~5.6%と推定された。また、その下に「侵害の可能性がないとは言い切れない」というグループもあって、こちらは全体の0.5~3.0%と推定。
・・・そうですね。日本語をなんとかしたい。ロジカルには「可能性がある」と「可能性がないとは言い切れない」は同義だ。が、まあ法律家用語ということでニュアンスは汲み取ってほしい。前者は(もし第三者の文章が先にあってDeNA側のライターがそれを見ていたなら)かなり危ない、そして後者はグレー、と恐らく伝えたいのだろう。なお報告書は、この「ネタ元候補」には逆にDeNAの記事を真似たものが混ざっているかもしれない、と注釈している(先後関係は記事の日付だけでは断定できないため)。つまり、かなり危ない記事が最大で2万点強と推計。十分多いと言えば多いが、先ほどの画像の無断使用率を比べると控えめだ。少し実物を見てみよう。

まず、これが「侵害の可能性がある」例(37頁)。

.「侵害の可能性がある」例

・・・いや「以下17文章にわたり一致」って。可能性というか、コピペだなこれは!もはやすがすがしいまでの一致ぶりである。

そして、こちらが「侵害の可能性がないとは言い切れない」例(38頁)。

.「侵害の可能性がないとは言い切れない」例

うーむ、これでも一般の方の感覚としては十分クロではなかろうか。元ネタにしていることは明らかで、誰でも出来そうなリライトをちょっと加えたに過ぎない気もする。これで「グレー」なのか?

どこまで似れば著作権侵害か?

ここで著作権の基本をおさらいしておこう。著作権の保護は「創作的な表現」に及ぶ。といっても完全に人の表現をデッドコピーしていなくても、ところどころ言い換えた程度だったり、構成全体が似ているなど、「表現の本質的特徴」が類似していれば著作権侵害だ。ただし、創作的な表現「以外」の要素が似ているに過ぎない場合、例えばありふれた表現が共通であるとか、事実・データや用語を借用したに過ぎないとか、アイディアを借りたに過ぎない場合には、侵害は成立しない。こうした要素は、文化・社会の観点から自由利用が認められている。そのせいもあり、一般の方が考えるよりは恐らく裁判所のクロ基準は高い(侵害は認められにくい)。
では実際どの程度の類似だと裁判所はアウトにして来たのか。報告書も引用した「ホテル・ジャンキーズ事件」の地裁判決が参考になる。少し長いが、これがネット記事の類似で侵害とされた例だ。

原告記述 転載文
①の部分について侵害と判断 >キョウコさん
こんにちは!初シンガ上陸なんですね。(バリもいいないいな~)①初めていらっしゃると言うことと、お一人と言うことで、交通の便の良い、観光地にもアクセスしやすいホテルが良いのではないかと思います。
と、言うことで、地下鉄Cityhall駅上のウェスティンスタンフォードとウェスティンプラザ(同系列ですがプラザの方が上位グレード)、地下鉄Orchard駅からすぐのマリオットかグランドハイアットが良いのではないかな、と。
Cityhall駅はOrchardから3つ目の駅で、ここからマリーナ地区やマーライオンなどに歩いて行けます。お隣はラッフルズホテル。Orchardはガイドブックでもお馴染みのショッピング天国です。またどちらもフードコートやレストランが充実しているので、一人のお食事も問題ないと思います。インド人街やチャイナタウンにも近いです(歩いて行くには辛いかな...)。

なーんて、私の考えはこんな感じです。
Lさん、上記の訂正なり他のお勧めをぜひぜひよろしくお願いいたします。
私事で言えば、来月に私の両親&叔母のシニアトリオが来星することになりまして、これはフォーシーズンを予約したようです。②orchard駅から10分ぐらい歩きますが、FSもいいですよ。
初めていらっしゃるということと、おひとりということで、交通の便の良い、観光地にもアクセスしやすいホテルが良いのではないかと思います。と、いうことで、地下鉄シティホール駅上の「ウェスティン・スタンフォード」と「ウェスティン・プラザ」(同系列ですがプラザの方が上位グレード)、地下鉄オーチャード駅からすぐの「マリオット」か「グランドハイアット」が良いのではないかな、と。
シティホール駅はオーチャードから三つ目の駅で、ここからマリーナ地区やマーライオンなどに歩いて行けます。お隣は「ラッフルズホテル」。オーチャードはガイドブックでもお馴染みのショッピング天国です。またどちらもフードコートやレストランが充実しているので、ひとりのお食事も問題ないと思います。インド人街やチャイナタウンにも近いです(歩いて行くには辛いかな......)。
オーチャード駅から一〇分ぐらい歩きますが、「フォーシーズンズ」もいいですよ。 (どきん) 
全部について侵害せずと判断 はじめまして。今まで旅行の計画が無くてここは「いつか行く日のために」ROM専門でしたが、とうとうその「いつか」のチャンスがやってきました!
①夏に最長9日間予定でアジアリゾート行きを計画しています。第一希望はウブドです。
しかし、同行人がウブドに9日間なんて絶対に飽きるから嫌だといいます。
やっぱり1週間以上ウブドに滞在するのは長すぎるのでしょうか?

私は絵を探したり、ケチャやイベント物を見たり、ホテルでのんびりしたり、ウブド1週間は充実できると思うんだけどな。
②バリの海は堪能したので、次は(私にとっては)未開の地ウブドでずっと同じホテルに滞在したいのです。
ちなみに第二希望はボロブドゥール遺跡のアマンジオなのですが、こっちも9日間は飽きるだろうと言われています。
これは私もちょっとそう思います。
ウブドの9日間(まあ1週間でよし)って③皆さんはどう思われますか? 
夏に最長九日間の予定でアジアリゾート行きを計画しています。
第一希望はウプドゥですが、同行人がウブドゥに九日間なんて絶対に飽きるから嫌だといいます。やっぱり一週間以上ウブドゥに滞在するのは長すぎるのでしょうか?
バリの海は堪能したので、次は(私にとっては)初めての地ウブドゥでずっと同じホテルに滞在したいのです。ちなみに第二希望はボロブドゥール遺跡の「アマンジオ」なのですが、こっちも九日間は飽きるだろうといわれています。皆さんはどう思われますか?(どきん)

東京地裁2002年4月15日判決(ホテル・ジャンキーズ事件)より

ふむ。この下の方の文章を地裁裁判所は「単なる事実の説明やありふれた表現」と判断して、その部分だけでは侵害はないと結論している。この判断じたい賛否のあるところだろうし、実際高裁レベルでは逆転で侵害が肯定されているのだが、恐らくこの辺りが侵害のボーダーラインに近いのは事実だろう。ちょうど、DeNA報告書のグレー事案も同じくらいの借用程度とは思える。
そしていずれにせよ、このボーダー辺りの評価は報告書の結論に特に影響はしていない。なぜなら、第三者委は最大5.6%の文章侵害を既に大問題だと見ている上、そもそも侵害多発という意味では図案16%の無断転載だけで十分だからである。

最後に、こうした侵害記事について誰が責任を負うかの問題がある。もちろんライターが負うのだが、DeNAなど運営事業者にも法的責任があるのか。これは「プロバイダー責任制限法」という法律があって、投稿などの場を提供するだけの事業者(≒プラットフォーム)は、元々侵害を知らず、かつ侵害だよという通知を受けた時点で適正に削除対応などすれば免責されることになっている。他方、自ら記事を編集して発信するニュースサイトなど(≒メディア)は、この免責は受けられない。発信主体なので、当然だ。
DeNA法務部はこの点、「同社はプラットフォームなのでプロ責法の免責を受けられる」という前提でアドバイスを行っていた、と報告書は認定する(267頁)。しかし、実際には多くのサイトで一般ユーザーの投稿は5%以下に過ぎず(12頁~)、DeNA側が記事をライターに発注して報酬を払うなど関与していたと認定されており、同社をプラットフォームと呼ぶのはやや無理がある。大部分はメディアでありプロ責法の免責は受けられない、というのが報告書の認定だ。つまり、DeNAは侵害について法的責任を負う。

事件の背景に何があったか

報告書はここで、過去の責任論を離れて問題の背景分析に進む。これも実に多様で深いが、目立ったものをピックアップすれば、①そもそも同社が検索エンジン対策(SEO)として記事量産の方針を取ったことに続き、②ライター向けマニュアルがコピペ推奨と受け取られる余地のあるものだったこと、が挙げられる。報告書の精緻な認定事実を読む限りは、各マニュアルの記載はむしろコピペを厳しく禁じていたようにも見えるのだが、個別の聞き取りでは「出所の隠し方」の指南を受けたように感じていたライターも一定数いたようで、報告書はこれを要因としている。次いで、③チェック体制が不備で、コピペチェックツールなどを使うとしてもアドホック的だったこと、④書き手にプロフェッショナルが少なく、編集担当者も含めて法令・著作権などの知識が不十分だったこと、などが続く(以上248頁~)。
加えて、筆者が大きな背景と感じるのは、ここでも書き報告書(274頁)も一部触れる、「情報爆発」という構造要因である。今や1億人が総発信者であってコンテンツは「過剰」だ。経済原理によって当然発注単価は下がり、報道では「1記事あたり1000円」といった低額での発注も取りざたされた。到底、プロの作家が生活できる報酬額ではなかろう。いきおい粗製乱造を生み、未熟練のアマチュア・ライターの大量参加を生むことになった。「プロ・クリエイターは果たして生き残れるか」という、重い問いかけである。
同根の問題として、ここまで情報が過剰になれば検索エンジンでの順位が死命を決するのでSEO至上主義を生みやすく、DeNAの場合、それが記事の無理な量産に拍車を掛けたと認定されている。つまり、キュレーションに限らず、情報社会のどこにでも起きている課題であり、今後も形を変えて再発する可能性は十分にある問題に思える。

DeNA問題が残したもの

さて、ではキュレーションサイトの大量閉鎖は我々に何を突きつけたのか。第一は、上記で書いた「ITネットワーク化と知的財産権の衝突」である。ライター達の中にはコピペからの記事量産のため、いわゆる「リライトツール」(元文章の単語などを自動で高速に置きかえるソフトウェア)を多用した者もいたとされる。こうしたツールはAIネットワーク化の進展で間違いなく今後高度化するだろう。同時に、AIネットワーク化はそれら「コピペ」の発見・追及も容易化する。加速化する情報の大量創出・大量流通は著作権などの既存の情報ルールと、どう共存するのか。
第二に、あふれかえるコンテンツの中、問題ある情報を発見し警鐘を鳴らす「ウォッチドッグ」的団体の活動、そしてジャーナリズムの役割(再生)への期待は大きい。
そして最後に、今回の報告書には顕著な特徴がある。それはこれまでの企業としてのDeNAの歩みを丁寧に検証した上で、「永久ベンチャー」が免罪符化したことを問題の主因ととらえ、そこからの再生の道に多くのページを割いたことだ。「永久ベンチャー」とは成長して大企業病に陥らないようスピード感を重視し、ベンチャー精神を持ち続けようというDeNAの社是である。報告書はこのベンチャー精神を高く評価する。しかしそれは企業としての成熟や、リスク管理と絶えざる内部検証についての先人の蓄積をないがしろにする免罪符にはならず、それらと両立され得ることを熱っぽく説く。
そしてこう結ぶ。「本問題を乗り越えて、いま一度、社会に愛され、信頼される企業となっていくことを期待したい。」 厳しい断罪の後のこん身のエール。まさにDeNA再生に向けた熱い思いのラストが276頁の末には待っていたのである。

DeNAに(たぶん)友達はいないが、同感だ。責任論は責任論として、是非立ち直って頂きたい。その際、言うまでもなくこの「リスク管理」とは、悪しきコンプライアンス至上主義に陥って、「リスクゼロ」などというありもしない幻想を追いかけることではない。そうした大企業病の弊害なら、筆者もまた嫌になるほど見て来た。大事なのはリスクゼロではない。リスクの大きさを正しく測って、ビジネスのチャンスがそれを超えるならば時にあえて踏み出し、逆にビジネスメリットがリスクを下回るような場合にはきっちり軌道修正できる能力である。
知財において大切なのも、(もちろん正確な知識は言うまでもないが)この力だろう。グーグルは、結果論だがそれが上手かった。だからYouTube買収時には200億円もの訴訟対策費を用意し、プロ責法の米国版といえるDMCA法やフェアユース規定を使いこなし、走りながら覇権を確立しゲームチェンジに成功した。DeNAは、結果論だがそれが下手だった。プロ責法を巡る、ちょっと支えようのない上記のフィクション的な法解釈にそれが端的に出ている。
かつて筆者は、キュレーションメディア問題について「絶望的な未熟感」という失礼極まりない感想を書いた。しかし、問題の全容が明らかになるにつれ、「これでまた米国勢との距離が開くのか」と失望を抱いたのは筆者だけではないだろう。課題は大きいが、果たして日本のメディア・プラットフォーム企業たちがここから立ち上がり、したたかに成長できるか。やっぱりそんなエール感満載で、15分はちょっとオーバーしつつコラム終了。

以上

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