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コラム column

2018年1月22日

契約文化・メディア

「追記版:国民議論化したチケットの高額転売」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)

【2018年1月22日追記】

外での発言ばかりでコラムを放置していた。何かと言えば、チケット高額転売問題に関する下記の2016年のコラムである。この間、転売業界(?)を揺るがす大きな地殻変動がふたつ起きている。この朝日新聞「耕論」でも予測した、「規制法の進行」と「詐欺などでの摘発増加」である。
規制案については、自民党ライブ・エンタテインメント議連が着々と議論を進行させて来た。もともと各自治体の迷惑防止条例では「公共の場所」での転売目的のチケット購入などが規制されている。これをインターネット等にも拡大し、端的に「転売目的でのチケット入手や、定価を超える価格で商売として転売する行為」を処罰する法案が2017年12月に公表され、遂にこの22日から国会で審議入りである。議連にはわが愛する武田鉄矢とサカナクション山口一郎らも出席して法案成立を訴えている。武田に山口、この顔ぶれはいい。九州から北海道までカバーしてるし(ふたりだけど)、何と言うか常人を超えた高い次元で通じ合うふたりという気がする(自信はないけど)。今通常国会での議論が注目だろう。

一方、その流れと影響を与え合いつつ並行して、もうひとつの勢力がすさまじい破砕力で現状を変えつつある。関西警察だ。
転機は昨年9月。そのサカナのコンサートチケットを転売目的で購入したとして兵庫県警に逮捕された男性が、神戸地裁で執行猶予付き2年6ヶ月の、詐欺有罪判決を受けたのだ。チケット「転売」での詐欺ではない。チケット「購入」が詐欺だというのだ。多くの主催者は規約で転売目的でのチケット購入を禁止している。転売目的だとわかっていれば売らないだろう。よって、転売目的を秘してチケット購入をすること自体が詐欺だという立論だ。確かに主催者からすれば詐欺だと言いたくなる状況だろうが、これで道筋がついた。
1月11日には、同じ容疑で東京の業者を京都府警が摘発。2年余りで30億円以上の売り上げをあげていた大物業者だ。そして、この際、なんと最大手のチケット転売サイトである「チケットキャンプ」の前社長まで共犯で書類送検されたのである。手数料を無料にするなど、業者による高額転売を働きかけていたというのだ。言うまでもなく、業界には激震が走り、チケットキャンプはこれに先がけて新規チケットの取り扱い停止と5月の営業停止を発表している。
更に翌日には、兵庫県警が東方神起のチケット70枚購入の容疑で2人の男性を逮捕。認定面で課題もあるとはいえ、この関西勢コンボにより、「転売目的を秘した購入での詐欺立件」の流れはほぼ固まったと言ってよい。

前記「耕論」でも書いた通り、最大の買占め・転売対策は、電子チケット普及などの「転売防止技術」、そして価格を多様化して実勢価格に近付けることによる「転売益の抑え込み」だ。ただし、顔認証など技術面のハードルをあまり高め過ぎれば、新たなファン達の足はコンサートに向かいにくくなるだろう。価格の多様化はある程度は不可避だと思うが、「一般のファンが購入しやすい価格で売りたい」と希望するアーティストがいるのに、それが買占め転売の横行で破壊される事態は、少なくとも美しくはない。「手ごろな価格で楽しんで貰おうと努力しているので、高額転売品を買わないで欲しい」と訴えた日本酒「獺祭」蔵元の思いに通じる課題だ。
警察は、更にメルカリ・チケット流通センター・チケットストリートの3業者に転売チケットの扱い停止を求めている。しかし、本稿執筆現在、いまだに転売サイトではジャニーズなど10万円前後での大量出品が続いている。そのどれもが、いつ詐欺容疑で立件されてもおかしくない状況だ。いや、それだけではない。既に指摘もある通り、元の購入が詐欺となれば、転売チケットは「財産犯で入手された物」ということになる。すると、薄々そうと知って購入したユーザーは、「盗品譲受け等の罪」(刑法256条2項)に問われる可能性が大いにあるのだ。現状は一般ユーザーにとって、極めて危険な状態と言える。「転売は市場原理」などとうそぶきながら利得を続け、事態を放置・利用した転売サイトの責任は、軽くないだろう。
既に有罪判決まで出ているのだ。普通の観客が普通にチケットを買えない異常事態の解決に向けて、関係者の真摯な対応を本稿でも勧告したい。


【2016年10月26日のコラム】

去る8月、全国紙にこんな一面広告が掲載された。ジャニーズ、サザン、Perfumeなど名だたるアーティスト名がずらっと並ぶそれは、深刻化するチケットのネット転売問題についてアーティスト116名や音楽系団体が反対する連名の意見広告。かなり評判になったのでご存じの方も多いだろう。先日には、筆者もNHK「クローズアップ現代+」に出演し、かなり生々しいチケット買占めと高額転売の実態を目の当たりにした。

朝日新聞や読売新聞に出された意見広告。賛同者には人気アーティストの名がずらり- ねとらぼ - ITmedia
朝日新聞や読売新聞上の意見広告

確かに、人気のチケットが発売されるや特殊ソフトや多数のファンクラブ資格を駆使して買い占められ、「チケットキャンプ」などの転売サイトや「ヤフオク」で高値で売り出されるのは、もはや日常的な光景だ。先日のEXILE系のステージツアーなど、最終的にチケキャンだけで実に約5万5000枚が、最高数十万円といった高額で取引された。

ファンからすれば、楽しみにしていたチケットは瞬く間になくなって定価では買えず、やむなく高い転売チケットを買う構図だ。もっとも、当のファンが転売を小遣い稼ぎに利用しているケースもあるようで厄介だが。

さてこの高額転売問題、コンサートだけでなくステージ全般にも及んでいる。ミュージカルやアイドル系などは特に常連で、例えば宝塚「エリザベート 愛と死の輪舞」はチケキャン上だけで1万枚以上、最高額85,000円などで取引されていた。オークションサイトなどを含めれば数万枚が売買され、サイトの手数料収入だけで数千万円に達しただろう。更に「クローズアップ現代+」では、プロ野球「クライマックスシリーズ」のチケットを買おうとコンビニに並んだファン達が、回線混雑で買えない間にチケットは売り切れ、同時に転売サイトに数万円単位で多数出品されるのを目にする、という衝撃的な光景も流れた。コンサート、舞台、スポーツ、テーマパークと、今やその影響は絶好調ライブイベントのあらゆる領域に及んでいると言っても過言ではない。

そこで払われた上乗せ分は誰かの懐を潤すだけで主催者にも関係者にも一銭も回らず、またファンは高額チケットのせいで他の公演に行く資力もなくなる。その意味では直接に転売されない公演の売上にまで、問題の影響は及んでいる。


さて、こうしたチケット転売は古くから「ダフ屋」と言われたが、法的にはどうなのか。ダフ屋は通常、自治体の「迷惑防止条例」というもので規制される。例えば東京都の条例では、以下のような行為が禁止され、最高懲役6ヶ月の罰則まで科される(図)。


第2条

  何人も、......入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用する権利を証する物(乗車券等)を不特定の者に転売......するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む)......において、買い、又はうろつき、人につきまとい、呼び掛け......買おうとしてはならない

2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所......において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、呼び掛け、......売ろうとしてはならない


東京都「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」
(太字筆者)

例えば売るのはオンラインでも、チケット入手のために売り場にバイトを並ばせたりすればこれにあたるので、その意味での摘発は少なくない。最近では、それこそ宝塚やジブリ美術館で摘発例がある。

では、大多数を占めるネットで入手しネットで転売するスタイルの「転売ヤー」達(転売とバイヤーをもじった呼び名)はどうか。これは、インターネットが条例のいう「公共の場所」と言えるかがポイントになるが、条文の書きぶりからすると少なくともネットは典型例ではない。無論、警察が踏み込んだ解釈をすれば現行条例でも摘発はあり得るだろうが、まあせいぜいが「微妙」といったところだろう。

他方、最近は「古物営業法」で逮捕者が出て話題になった。というのも転売チケットは古物とされるので、それを営業的に売買するときにはいわゆる古物商の許可がいるのだ。逮捕されたのは25才の女性で、嵐のコンサートチケットをこれまで300枚以上ネットで転売していたとされる。さすがに規模が大きいので「営業」とされたのだろう。もっとも、本当に常習的な転売ヤー達は古物営業許可を取るだろうから、彼らへの歯止めにはならないかもしれない。

このように現行法では処罰できないケースもあるため、主催者の対策の主流は「規約によるチケットの転売防止」である。だいたいチケットぴあでも何でも、購入する際には購入規約というものに同意する。そこでは高額転売やネット転売は禁止されているケースが多い。この規約、果たして有効なのか?自分のチケットを転売したって自由じゃないかとも思える。ただ、チケットの販売は単なる物の売買とは違い、実は「イベントに入場させて観覧させるという契約」である。チケットはこの「入場して観覧する権利」を示す証券という位置づけだ。この場合、制約はあるが転売禁止は原則として出来る。

という訳で、ジャニーズなど主催者の中には規約で転売を一律禁止した上、転売出品があると番号で把握して無効化を通知したり、当日入場拒否するケースも出ている。更に、ももクロのように、顔認証で受付で転売チケットを発見する技術も発達して来た。今後も、こうした規約と技術による転売禁止は広がるであろうし、無効化されたチケットを転売した者が、購入者に対する詐欺罪で逮捕される、というような事態も想定される。


確かにそれ程、悪質な転売業者は蔓延している。一定の法規制もやむを得ないだろう。

ただし、それは同時に、主催者側でも必要な対応を取るのとセットであるべきだ。まずは、「不要チケット対策」である。予定が変わったり体調を崩して、公演に行けなくなることは誰にもある。予約・当日清算ならこういう際には普通にノーショーされて制作が泣いたりする訳だが、事前に購入発券されたチケットはこうは行かない。確かに、主催者も収支はギリギリでやっているのだから、簡単にキャンセルを認めることは難しいだろう。だが、せめて購入者が自己責任で不要チケットの引き取り手を探す道は残すべきだ。つまり、高額ではなく定価かそれ以下の転売は、もっと容易に行えるべきではないか。チケットぴあなどが一部導入しているが、米国などではもっと便利に拡充されている。

逆に言えば、既存のチケット転売サイトは早急に、主催者側が営利転売を禁止しているチケットについては高額転売を出来ないシステムに改めるべきだ。この点、一部転売サイトからは「高値でも買いたい人がいる以上、売買は市場原理であり我々はその場を提供しているだけ」といった開き直りのような言い分が聞こえる。だが、これは「買占めによって定価で買えない状況を作られ泣く泣く高額チケットを買う事態」と、「対等な市場での自由取引」を意図的に混同した議論だろう。大量の高額転売の背景には、明らかに不当な買占め行為があり、それは「市場の失敗」の典型例である。転売サイトは、「市場原理」などとうそぶく暇があれば、本当に不要なチケットを転売したい人々のニーズに応えるべく、高額転売を排除できるシステムに迅速に切り替えるべきだろう。そうでなければ、より思い切った法規制の可能性が高まる。

第二に、「チケット価格の多様化」である。これは舞台の分野では既にかなり対応は済んでいるが、つまり転売とは、「その席への需要がチケット価格を大幅に上回っているから機能できる」商売だ。座席ごとに実勢価格で売り出せば、原理的に転売は起きない。ところがコンサートなどでは従来、チケット価格は一律平等に抑えるケースが多かった。特にライブはファンとの共同作業なので、彼らが買えない価格設定にはしたくないし、ファンは平等でありたいという、主催者の思いもあったろう。

しかし、今後はブロードウェイを席巻するプレミアムシートや公式オークション制など、チケット価格の一層の柔軟化で、払える人には大いに出して頂き公演収支を潤して貰うべきではないか。そして少しでもゆとりが出来るなら、その余剰で中盤以降のチケット価格を下げて、リピーターの懐を楽にすべきとも思うが、どうか。

以上

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