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コラム column

2016年3月24日

文化・メディア著作権法

アニメビジエンス「福井健策の著作権と法務とアニメ」アップデート版:
「『同人マーク』は、果たして日本の二次創作文化を救うのか?
 ~ポストTPP"決着"、パブリックライセンスへの期待編」

弁護士 福井健策(骨董通り法律事務所 for the Arts)


本稿は、雑誌「アニメビジエンス」に連載中の「福井健策の著作権と法務とアニメ」過去記事からピックアップし、現在の視点からアップデートを加えて再掲載するものです(2013年9月初出)。



さて、今や懐かしい響きの「同人マーク」である。
同人マークとは、漫画やアニメなどの作品に作者が自由意思で付けるロゴで、ざっくり言えば「この作品は即売同人誌で自由にパロディ化して良いですよ」と宣言するもの。こういう社会に向けて作品利用のルールを示すことを「パブリックライセンス」といい、世界的に普及するクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC)が著名だ。そこでは、「作り手を表示してね」「非営利だけ」「改変は禁止」「(改変して良いが)同じライセンスで公開しなさい」という、シンプルな4つのマークを組み合わせることで、自作の利用を世界中の人々に認めることができる。日本で著名な例には、あの「初音ミク」があるのはご存じの方も多いだろう。

CC Licenses
クリエイティブ・コモンズライセンス(CC):詳しくはこちら

2013年、CCを日本で運営するコモンスフィアというマジメな団体が、オタク二次創作に的を絞ったマークとして、世界で初めて(←当たり前だ)提唱。発案者である人気漫画家の赤松健さんが「少年マガジン」の新連載作に使って、ネットの話題をさらった。明治大学や骨董通り法律事務所も協力している。
基本的には「エロ」を含めてどんなパロディもOK。ただし、原作者が公序良俗に反するなどと判断した場合には、以後の販売は止めることができる形だ。また、原則としてコミケなどの即売会当日の紙の同人誌での配布だけが許される。作者がデジタル配布や常設販売なども許したいと思えば、そう付記すれば良い。
このマーク、世界的に普及するCCとどう違ったのか?CCは、原作をそのままコピーして配布する行為(デッドコピー)は必ず許すルールだ。それだと学術資料などには向くが、商業誌のマンガや商業アニメには付けられない、と赤松さん。コミックスをそのままコピーして販売するような行為も許しては商売にならないという。まあ、そりゃそうだろう。そこで「二次創作は許すが、そのままコピーはダメ」というライセンスが発案された。


赤松健氏+コモンスフィアの「同人マーク」
赤松健氏+コモンスフィアの「同人マーク」。詳しくはこちら

今やよく知られているが、マークのきっかけはあのTPP(環太平洋経済連携協定)だった。
日本は、コミケに限らず様々な二次創作が花開いて来た文化だ。夏冬50万人の入場者を誇りオタク文化を象徴するコミケだが、同人誌の75%までが既存作品のパロディ系とされ、厳密にいえば原作への著作権・著作者人格権侵害の疑いがある。しかし、作家側・出版社側も必ずしも同人誌がなくなることまでは望んではいない。正式な許可は出しづらいけれどやり過ぎなければ問題視はしない、いわば「黙認」「放置」が続いて来た。
このグレー領域と相性が良かったのが現行法の刑事罰の扱いだ。著作権侵害には刑事罰があるが、それは「親告罪」といって、被害者(権利者)の告訴がないと国はも処罰も出来ない。「黙認」文化との相性がバツグンに良かったのだ。
ここで登場したのがTPPである。交渉の中で米国は、他国に著作権侵害を「非親告罪」にすることを求めてきた。通れば、権利者の告訴がなくても起訴・処罰が出来てしまう。海賊版対策を狙ったものだろうが、仮に「気に入らないパロディへの第三者通報」などと結びついたら、二次創作文化の萎縮につながらないか。そうした危機意識がネットで高まる中、同人マークの試みとなった。
このマーク、発表以後実に多くの議論を呼んだ。問題の根底にあったのは、「ファンの発信活動をどう評価し、共存するか」という問いだ。たとえば「ファンサブ」という言葉がある。日本のアニメや漫画に海外のファンが現地語で字幕・翻訳を付けて動画サイトなどで公開するものだ。多くの国では著作権侵害にあたり、実際、海賊版同然の活動もあったりする。ところがこのファンサブ、他方で功罪論も盛んなのだ。「現地語版がまだ存在しない地域で、ファンが手弁当で現地語版を広げてくれる。それで人気が高まって正規ビジネスの土壌が出来るなら良いではないか」という議論だ。ふむ、なるほど。
無論それだけでうまく行くなら苦労はしないのだが、全ての人が発信者となった現在、どこまでの無断利用を取り締まり、どこからはファンの自由な発信を許すかの「ベストミックス」が問われているのは事実である。
同人マークにも全く同じことが言える。コミケでパロディが作られるうちが人気の証、と考える関係者も多いだろう。果たして原作をより多くの人に楽しんで貰い収益をあげるためのベストミックスは何なのか。答えは見えないが、試してみなければはじまらない。どうせ試すなら明るくやるべしが、「赤松流」と読んだ。

・・・というのが2013年9月の本稿初出時の状況だった。ご存じのとおり、その後、TPPは2016年ついに正式調印される(この間の議論はこちら)。非親告罪化をめぐる国内議論の高まりを受けて、政府閣僚は再三「二次創作を守る」と答弁し、文化庁は2016年2月、大規模な「セーフガード」の導入を発表した。
どんなものかといえば、①市販作品の利用、②原作のままの利用(≒二次創作を除く)、③権利者の利益を不当に害する場合、に限定して非親告罪化するというものだ(文化審議会資料その後の著作権法改正案も同方針(123条2項))。これは筆者らthinkTPPIPや各団体の提案も取り入れ、踏みこんだと言えるもので、通常の読み方なら限りなく「海賊版のみを非親告罪として罰する」と受け取れる。本稿執筆時点ではまだ国内法審議中なのでなお紆余曲折はあり得るが、まあ二次創作に関する限り、危機感の大きい部分は解消されたと言って良いだろう。
とすると「同人マーク」はお役御免か?となる。もともとこうしたパブリックライセンスには、これまで「見て見ぬふり」で事実上やって来られた行為をいわばガラス張りにして、ある基準でシロとクロにはっきり分けようとする性質がある。条件を満たせば適法だが、満たさない利用はその分余計に黒く見える。その意味では諸刃の剣だ。赤松さん自身、「非親告罪化が回避された時には危ないのでこのマークは使わないで欲しい」とさえ述べていた。

であれば、「二次創作の危機が去った今、マークはめでたく楽隠居となり封印」が通常のルートだろう。まあ恐らくそうなる。

ただ、非親告罪化が大部分回避されたとはいえ、そもそも二次創作が著作権法上微妙な立ち位置にあることは変わりがない。むしろ、TPP論議の避けられない副産物として、「二次創作の著作権リスク」にはかつてないほどスポットライトがあたったとも言える。そして、忘れてはならないが、来たるTPPによって日本の著作権は米国流に厳しくなりこそすれ、緩やかに変わる訳では決してないことだ。となると、同人マーク的なパブリックライセンスの役割は、むしろ社会の中で高まっているようにも見える。
二次創作には限らない。万人がますます情報発信者となる時代に、膨大なコンテンツやデータを人々がいかにスムーズに利用できるかの仕組みこそが、全世界的な要請だ。CCライセンスを付したコンテンツ数はその後も増加を続け、今や世界で11億点以上だという(Creative Commons — State of the Commons 2015)。いや、恐らく実数はもっと多い。なにせ3800万を超えるWikipediaの全記事が自由利用度の高い「CC表示-継承」付きであり、Flickr上の投稿画像だけで3億点以上にCCライセンスが付いているというのだ(パブリックライセンスの広がりについて詳しくはこちら)。ひょっとすると、「同人マーク的な存在」の本当の出番はこれからかもしれない。



Untitled Funny cat
Flickr上で無償提供されている写真の例
(左:by Leonardo Shinagawa、右:Funny Cat by Moyan Brenn。いずれもCC-表示)


果たして簡単に夢の楽隠居生活に入れるのか、同人マーク? 折から2015年7月には、前述コモンスフィアが最新形「クリエイティブ・コモンズ4.0」の日本語版を、満を持して発表した。文化庁が支援を発表しつつ足踏み状態の日本政府をしりめに(ITmedia ニュース)、進化し続けるパブリックライセンスの動向から目が離せない、2016年春である。

以上

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