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コラム column

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 (CC BY 2.1 JP) ライセンス
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2015年6月 2日

著作権IT・インターネット

「骨董通り散歩で学ぶ、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス入門」

弁護士  永井幸輔(骨董通り法律事務所 for the Arts)



今回は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)をご紹介いたします。

今日、書籍や雑誌、ブログやウェブなどのメディアで公表するコンテンツに他人の著作物を使うことは少なくありません。また、映像を制作するクリエイターが、素材に他人の画像や映像を利用したり、BGMに他人の音楽を利用することも多いでしょう。
このような場合に、他人の著作物を無断で利用すると著作権侵害になりかねませんが、CCライセンスの下で公開されている著作物であれば、一定の条件に従うことで適法な利用が可能です。

最近では、知名度も幾分高くなりつつありますが、CCライセンスの仕組みについて、改めてご紹介したいと思います。


0. 骨董通り散歩

唐突ですが、まずはイントロとして「骨董通り」をご紹介してみたいと思います。

私たちの事務所「骨董通り法律事務所」は、その名の通り、東京都港区にある骨董通りのすぐ近くにあります。骨董通りはこちらの地図のとおり、青山通りからほぼ垂直に六本木通りに向かって続いています。まずは、青山通り側の入口からの写真を一枚。右側手前にはアボカドバーガーがおいしい「クア・アイナ」が見えます。

Kotto Dori street Tokyo
骨董通り(2011年4月)

それでは入ってみましょう。一つ目の信号まで歩くと、次のような看板が目に入ります。「高樹町通り(骨董通り)」...何故、2つの名称が記載されているのでしょうか。
実は、「骨董通り」は通称です。区道としては「特別区道第1,108号線」という名称を持っていますが、通りのある南青山5丁目の一部が江戸時代から青山高樹町と呼ばれ、その後都電が渋谷駅から走っていたこともあり、「高樹町電車通り」と呼ばれることもあったそうです。港区では近年、そのような歴史を踏まえた「高樹町」の名称を周知する観点から、このような2つの名称を記載した看板を設置しています 。

骨董通りの本名
by bm.iphone

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


下って行くと付近には、日本・東洋の古美術コレクションで有名な根津美術館を始め、岡本太郎記念館、小原流会館、ブルーノート東京などの文化施設が数多く存在します。その影響もあって、(現在はかなり減ってしまったようですが)かつては古美術店が多く集まっており、「骨董通り」の名称が使われるきっかけになったようです。

根津美術館
根津美術館 by Kentaro Ohno

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


次は少し時間を遡ってみましょう。こちらは、2013年1月14日の大雪の日。いつもは人も街も彩りに溢れる骨董通りですが、一面真っ白のいつもと違う表情を見せています。

骨董通り。 #fb
by Kazuhisa OTSUBO

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


最近は、新しいビルの建設が始まったり、パンケーキに長蛇の列ができる「クリントン・ストリート・ベーキング」や、「パリで一番美味しいコーヒーが飲めるカフェ」こと「クチューム」など新しい店のオープンも目立ちます。お近くにいらした際には、是非足を運んでみてください。

骨董通りの新旧パンケーキ屋さん
by bm.iphone

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


以上、駆け足の骨董通り散歩でした。

さて、今回掲載した写真は、全てCCライセンスの下で公開されているものです。いずれも、「Flickr」などのサイトに掲載されている写真を作者に連絡を取ることなく利用していますが、勿論著作権は侵害していません。
どのような仕組みになっているのか、以下解説しましょう。


1.CCライセンスの仕組み

(1) 著作権法に対する問題意識
まず、CCライセンスとは、自分の作品をより自由に多くの人に使ってもらうために、作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのツールです。インターネット時代に適応した作品の流通を実現するために生まれました。PCとインターネットが普及した今日、テキストにせよ画像にせよ、人々はコピー&ペーストを駆使して様々な情報を利用します。Twitterの「リツイート」など、SNSにおける情報のシェアが盛んに行われ、様々なバリエーションの情報キュレーションサイトが登場し、個人を超えて情報が流通・拡散することが一般的になりました。プロの作家が他人の画像や映像、音楽をサンプリングして利用したり、他人の作品をリミックスすることも頻繁に目にします。

しかし、現在の著作権法は、必ずしもこのような情報の利用に適した内容になっていないとの指摘があります。
そもそも、著作権とは、一定の情報(=著作物)の利用を独占させる仕組みです。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)で、ある作品が著作物として著作権で保護されるためには、「創作性」すなわち「何らかの個性」を持っている必要があります。この「何らかの個性」とは、例えば、幼稚園児の描く絵日記にも認められると言われ、創作性が認められるハードルは一般に高いものではありません。そのため、インターネット上に存在するある程度個性が見られるテキストや画像は著作物である可能性があり、原則として作者に無断で使用することはできず、作者に許諾(ライセンス)してもらう(権利処理を行う)必要があります。

そうすると、個別の権利処理を行うことで問題なく利用できそうに思えます。しかし、権利処理を行うためには、(1)ライセンスを得るための対価である使用料の他に、(2)相当量の「取引コスト」を支払う必要があります。一般的には、①権利者を探すまでのサーチコスト、②権利者と交渉して許可を得るまでの交渉コスト、③権利者が対価を受け取るまでの徴収分配コストが発生するでしょう。
例えば、ビジネス目的で少数の著作物を利用するのであれば、上記の権利処理のコストをかけることも可能ですが、上記のような日常的な情報利用や大量の作品利用のために権利処理を行うことは、時間的、金銭的、労力的に実現不可能であるように思えます。また、著作物の中には「孤児著作物」とも呼ばれる、著作権者が見つからないものもかなりの割合で存在し、権利処理を行いたくとも行えない場合もあります。そうすると、途中で権利処理が立ち行かなくなることや、そもそも権利処理をすること自体を諦めることが増え、著作物の流通は大きく阻害されてしまいます。

他方で、全ての権利者が著作物利用の許諾や対価を必要としているのでしょうか。Twitterで発信するユーザーはもちろん、インターネット上で作品を投稿する作者の中には、金銭的な対価よりも多くの人々の目に留まることを求める人が少なくないように思われます。カナダの作家のコリー・ドクトロウは、「作家としての私の問題は作品を盗まれることではなく、誰にも知られないこと」だと言います。プロフェッショナルの作家であっても、作品の対価を得られないことより、作品が誰の目にも触れなくなることを恐れるのです。

ポイントは、著作権法のデフォルトのルール「原則:利用禁止」が、著作物を積極的に利用して欲しいと考えている作者にとって、作品利用を阻害する要因になりかねないという点です。そこで考えられたオルタナティブなルールが、CCライセンスです。


(2) CCライセンスの設計
まず、著作権がある状態は通常「All Rights Reserved」と表現されます。著作権法では、著作権の置かれる状況は基本的に「存在する」か「存在しない」かの二択です。著作権保護期間の経過や権利の放棄によって著作権が失効するまで、全ての権利が守られることになります。

pd-copyright
by クリエイティブ・コモンズ・ジャパン

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


これに対して、CCライセンスでは、「Some Rights reserved」すなわち限定された著作権を主張します。これは、中間領域を設定し、一定のルールを守ることを条件に、著作物の利用を事前に誰に対しても認めるもので、著作権法におけるデフォルトのルール「原則:利用禁止」を、「原則:利用可能」に書き換えるものです。これによって、一定の条件に従えば利用者は権利処理を行う必要がなくなる=コストを大幅に削減できるため、著作物の利用が大きく促進されることになります。作者にとって望ましい著作権の状態を作り出すことで、より作者の意思に即した作品の流通や共有を実現することができるのです。また、通常のライセンスが特定の個人や団体に対してのみ利用を認める属人的な利用許諾であるのに対し、CCライセンスが世界の誰に対しても利用を認める点も画期的と言えるでしょう。

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by クリエイティブ・コモンズ・ジャパン

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC BY 2.0


(3) 4種類の条件と6種類のライセンス
CCライセンスでは、以下の4種類の条件を組み合わせた6通りのライセンスを設定することが可能です。(なお、条件のうち「表示(BY)」については、全てのライセンスで必須です。)

  4種類の条件

条件
【略称】
マーク 内容
表示
【BY】
by.large 作品のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を
表示しなければなりません。
非営利
【NC】
nc-jp.large 作品を営利目的で利用してはいけません。
改変禁止
【ND】
nd.large 作品を改変して利用してはいけません。
継承
【SA】
sa.large 元の作品を利用して二次的著作物を作る場合、
その二次的著作物を元の作品と同じ種類の
CCライセンスで公開しなければいけません。


  6種類のライセンス

ライセンス
【略称】
マーク 内容
表示
【CC BY】
by 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:可能
営利目的での利用:可能
表示-継承
【CC BY-SA】
by-sa 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:可能、ただし改変した場合は同じ【表示-継承】ライセンスで作品を公開する必要あり
営利目的での利用:可能
表示-改変禁止
【CC BY-ND】
by-nd 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:禁止
営利目的での利用:可能
表示-非営利
【CC BY-NC】
by-nc 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:可能
営利目的での利用:禁止
表示-非営利-継承
【CC BY-NC-SA】
by-nc-sa 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:可能、ただし改変した場合は同じ【表示-非営利-継承】ライセンスで作品を公開する必要あり
営利目的での利用:禁止
表示-非営利-改変禁止
【CC BY-NC-ND】
by-nc-nd 原作者のクレジット:必要あり
作品の改変:禁止
営利目的での利用:禁止



2.CCライセンスの導入事例

次に、CCライセンスがどのような場面で利用されているのかご紹介しましょう。

CCライセンスは2014年11月の時点で、約8億8200万個以上のコンテンツに付与されています。具体的には、WikipediaYoutubeFlickrSOUNDCLOUDEDEUROPEANAなどの世界的に著名なプロジェクトで利用されています。
日本でも、「初音ミク」、「聖☆お兄さん」、「アイ・ウェイウェイ展」「こどものにわ展」「オノ・ヨーコ展」などの美術館での導入(CC in Museum)、政府情報をオープン化する取り組みであるオープンデータ大学の教材等をインターネット上で公開する取り組みであるオープンコースウェア(OCW)など様々なコンテンツで利用されています。また、2013年3月には、文化庁がCCライセンスの普及を支援することを表明しました。その他、CCライセンスを利用した成功事例は、米国クリエイティブ・コモンズの制作による「THE POWER OF OPEN」に詳しく掲載されているので、ご興味のある方は是非ご覧ください。

ご自身で作品を利用したい場合など、CCライセンスで公開されている作品を調べるには、米国クリエイティブ・コモンズが提供する横断検索が便利です。高いクオリティの写真や音楽にも出会えるので、是非一度試していただければと思います。


3.もう一つのライセンス「CC0」

日本でCCライセンスの普及活動を行っているクリエイティブ・コモンズ・ジャパンは、2015年5月1日、「CC0(シーシーゼロ)」の日本語版を公開しました。CC0は、著作権者が作品の著作権を放棄し、パブリックドメインで提供することを表明するもので、クレジット表記すらも不要になるライセンスです。CC0が作品に付与されている場合、権利者は作品の著作権を行使することはできません。
従来のCCライセンスとは毛色の異なるライセンスですが、作者自身が望む著作権の状態を作り出すことで、より作者の意思に即した作品の流通や共有を実現するというCCライセンスのコンセプトはここにも通低しています。

CC zero license logo

なお、2015年3月30日以降、Flickrでは、アップロードされる際のライセンス設定にCC0を新たに選択できるようになりました。Flickrのようなプラットフォームにとって、利用条件の幅広い選択肢は作者に作品流通のための利便性を提供するものであり、プラットフォームの価値を高める一要素になりそうです。


4.おわりに

私はPCの前に座ったままで、冒頭の「骨董通り散歩」に使用した写真とそれに纏わる情報を手に入れることができました。中には、足を伸ばせば撮影可能な写真もありますが、その利便性やクオリティの高さ(自分ではこんなに綺麗な写真は撮影できない!)は特筆すべきでしょう。また、「高樹町通り」の写真は自分では気付かなかった視点を提供してくれますし、「大雪の骨董通り」の写真はその時・その場所にいなければ目にすることのできない風景です。作品の共有は、代替可能な体験だけではなく、代替不可能な隣人の体験をも共有させてくれます。

CCライセンスが登場した2002年から早10数年が経ち、私たちは今日、ブログやSNSで、携帯電話のカメラで、日常的にあるいは無意識に、様々な著作物を生み出し共有するようになりました。SNSなどで自分の投稿がシェアされた経験がある方も少なくないでしょう。私達にとって、作品は今や受容するだけではなく、他人に分け与え得るものでもあります。著作物共有のためのツールであるCCライセンスは、今こそ多くの人のためのインフラとして役立つように思います。

ところで、骨董通り法律事務所のメンバーによるこの連載コラム、かなり以前から、実はCCクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで提供されていたことはご存知だったでしょうか。是非共有していただ頂いて、皆様の創造の一助となることができれば、望外の幸せです。

以上

※本サイト上の文章は、すべて一般的な情報提供のために掲載するものであり、
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。
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