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コラム column

2015年3月 4日

契約著作権法裁判

「委嘱楽曲を巡る話題をいくつか~『頼んだ、払った、手に入れた』・・え?違うの?」

弁護士 唐津真美(骨董通り法律事務所 for the Arts)


CMにドラマに映画にゲーム・・・音楽は、様々なコンテンツの中で利用されています。既存の楽曲を使う場合ももちろん多いですが、特定の作品のために作曲家に依頼して制作してもらうオリジナル楽曲も少なくありません。
楽曲の制作を委託して、作品ができあがり、合意した対価を支払ったら、あとは自由に使えるはず。楽曲制作を委託した方はそう期待するでしょう。でも、権利関係について明確な合意がなければ、「あとは自由」に使えるとは限りません。アーティストによっては、著作権管理団体との関係で著作権譲渡ができない場合もありますし、最初に合意した対価を払っておしまいと思っていたら、その後の使用に対してさらに使用料を支払わなければならない可能性もあります。
今回は、委嘱楽曲をめぐる話題をいくつかご紹介したいと思います。


● 委嘱楽曲とは

「委嘱楽曲」というと何やら堅苦しいですが、ここでは「特定の目的のために作曲家に委託して制作してもらった楽曲」と考えてください。たとえばCMのためにオリジナル曲を作ってもらう場合です。似たようなタイプの楽曲に「タイアップ曲」があります。レコード会社やCMの制作会社といった楽曲制作側と、テレビ局やスポンサーという利用者側が提携して使用する曲を決定する場合です。アーティストに依頼して、ドラマやCMの雰囲気に合わせた楽曲を制作してもらう場合も多いようですが、この場合の楽曲は、アーティストのアルバムに他の楽曲と同様に収録されるなど、もともとアーティストの通常のレパートリーの一曲になることが想定されている場合も多いので、今回のコラムでは「委嘱楽曲」とは少し違う概念として整理しておきたいと思います。


● 権利関係-著作権譲渡かライセンスか

委嘱楽曲の著作権は、誰が持つことになるのでしょうか。
CM制作会社やゲーム制作会社の場合、社員として作曲家を雇用している場合があります。この場合、著作権法の職務著作の規定がありますので、原則として、社員である作曲家が業務の一環として制作した楽曲の著作者は、社員個人ではなく会社であり、著作権も会社に帰属することになります。
もっとも、実際の制作の形式としては、社員としての制作よりも、その都度制作会社と作曲家が制作委託契約を締結して、楽曲を制作するパターンが多いでしょう。業界的に見ると、必ずしもきちんとした契約書が締結されているわけではありませんが、口頭でもメールのやりとりでも、制作会社が作曲家に楽曲の制作を委託し作曲家がこれを受託する制作委託契約が存在することは間違いありません。

制作委託契約に基づいて制作した楽曲の場合、できた楽曲の著作者は作曲家個人です。そこで、著作権は誰が持つのかという問題が生じます。楽曲制作を注文したCM制作会社やゲーム制作会社の立場から見れば、どんな権利に基づいてその楽曲を使用できるのかという問題です。

1つ目のパターンは著作権譲渡です。権利関係について詳細な規定がある契約書の場合、委託者から作曲家に対して対価が支払われることにより、楽曲の著作権が作曲家から制作会社に移転する、というような規定が多いようです。著作権譲渡をしても公表権や同一性保持権といった著作者人格権は譲渡できないので、著作者である作曲家が引き続き持ち続けることになります。この点については、「作曲家は著作者人格権を行使しない」という規定を入れる場合が多いようです。
上記のような規定に従って著作権の譲渡を受ければ、CM制作会社やゲーム制作会社は、基本的には納品された楽曲を自由に使えることになります。

2つ目のパターンは、ライセンスの付与を受けるパターンです。制作された楽曲の著作権は作曲家が持ち続け、CM制作会社やゲーム制作会社は、作曲家から許諾を得て楽曲を使用するという権利関係になります。特定のCMやゲームで利用する楽曲の制作を委嘱された場合、たとえ明確な契約書がなくても、完成し注文者に引き渡された楽曲を、そのCMの制作・放送・配信、またはゲームの制作・販売・配信といった範囲で使用することについては、当事者間で合意があると言える場合がほとんどでしょう。しかし、委嘱料と別に使用料が発生するのか、ゲームの続編が制作された場合に同じテーマ曲をそのまま使えるのか、といった細部については、制作会社と作曲家の間で思惑が異なる可能性があります。


● 「買い取り」=著作権譲渡なのか

委嘱契約の権利関係については、著作権譲渡とライセンスの2つのパターンがあるという話をしました。これは、当事者間の合意で決まる問題です。契約書で権利関係を明確にしておかない限り、後日のトラブルのもとになります。
音楽業界では「買い取り」という言葉が使われることがあります。「買い取り、ってことは著作権譲渡ですよね?」と質問されることもあります。しかし、「買い取り」=「著作権譲渡」とは限らず、「支払いは委嘱料の1回きり。その後の使用料の支払いは必要ないライセンス」という意味で使われている場合もあります。また、委嘱楽曲だから当然買い取り、というわけでもありません。

例として、委嘱楽曲の権利関係が争われた訴訟を1つ紹介します(東京地裁平成23年3月24日判決東京高裁平成23年8月9日判決)。この裁判では、昼ドラのオープニングで使われたBGMの楽曲に対する使用料支払いの有無が争点になりました。
事案を簡単に説明すると、放送会社からドラマのオープニング映像の制作委託を受けた制作会社が、作曲家(原告)に楽曲の制作を委託し、作曲家は楽曲の納品をして、制作会社から作曲家に対して「音楽制作費」という名目で20万円が支払われました。楽曲は予定通りドラマのオープニングに使用され、放送されました。なお、楽曲の使用に関しては放送会社・制作会社と作曲家の間で書面が締結されておらず、またドラマ放送時には、楽曲はJASRACにも信託譲渡はされていませんでした。その後、放送会社から権利義務の承継を受けた会社(被告)に対して、作曲家が、楽曲の使用料相当額を不当利得として請求したのが本件訴訟です。(細かい事実関係は省略していますので、気になる方は判決の原文をご参照ください。地裁判決高裁判決

作曲家の主張は、受領した20万円は楽曲制作の実費であって、使用料は支払われていない、というものです。楽曲の著作権は作曲家が持っており、放送会社・制作会社に対しては、使用料の支払いを条件に楽曲の使用を許諾したので、使用料の支払いがない以上、許諾(ライセンス)も与えていないという主張です。
これに対して被告側は、本件楽曲は、ドラマのオープニング映像に組み込みことを目的とした委嘱楽曲であって、委嘱の趣旨から、20万円の音楽制作費以外に使用料が支払われない、つまり20万円に使用料も含まれている、と主張しました。(著作権の譲渡を受けたという主張ではありません。)

結果として、第一審でも控訴審でも被告側の主張が認められましたが、判決の内容を見ると、「委嘱楽曲だから委嘱料の中に使用料が含まれている」という単純な認定ではありません。具体的な依頼の内容、作成された楽曲に照らした場合の対価の相当性など、様々な事情を考慮して、「作曲家は20万円を対価として放送会社に対して楽曲の使用を許諾していた」と認定したのです。つまり、委嘱楽曲であっても、事情によっては最初に支払う委嘱料以外に使用料の支払いが別途必要と認定される可能性もある、ということになります。
被告会社は、使用料相当額の支払いは免れましたが、訴訟が一審・二審と続いたことを考えれば、訴訟に対応するために相当の時間的・経済的負担を強いられたと思われます。このようなトラブルを回避するためには、最初の段階で、明確な契約を交わしておくことが重要なのです。


● JASRACに管理を委託している作曲家-権利譲渡はできない?

委嘱楽曲を制作した作曲家がJASRACやその他の著作権管理団体に著作権の管理を委託している場合、権利関係や使用料については、これらの著作権管理団体の規定の影響も受けることになるので、注意が必要です。
著作権管理団体は現在複数存在していますが、依然として、JASRACが大多数の楽曲の著作権を管理していますので、本コラムでは、以下、JASRACの規定に照らしながら委嘱楽曲の実務的な処理について見ていきます。
JASRACの使用料規定の概要については 以前のコラム に少し詳しく書きましたので、そちらを見てください。(コラム「JASRAC使用料規程の基礎知識」

著作権者がJASRACに対して直接に著作権管理を委託する場合の条件は、JASRACとの間で締結する著作権信託契約約款に基づいて決まり、対象となる著作者のすべての音楽作品に適用されるのが原則となっています。楽曲制作を委嘱した相手がJASRACに楽曲を信託している作曲家の場合、楽曲の著作権は、JASRACに信託譲渡されJASRACが管理することになるのです。(なお、少し細かい話をすると、この原則は、作曲家がJASRAC会員の場合に適用されます。非会員の作曲家が音楽出版社経由でJASRACに楽曲の管理を委託する場合もあり、この場合は同じ信託でも適用されるルールが少し異なります。本コラムでは詳細は割愛します。)
JASRACに対する信託は、「一任型の信託契約」と呼ばれており、使用料の額はJASRACが決定します。ただし、上記コラムでも書いたように、利用したい楽曲がJASRACの管理楽曲であっても、必ずしも一律の使用料が設定されているとは限りません。ゲームソフト、CM、または映画への録音のような利用形態については、使用料は「指値」とされています。支払手続自体はJASRACを通して行いますが、使用料は事前に利用者と権利者が協議して決定することができるのです。


● 追加の使用料は払いたくない!~3つの方法

では、JASRAC会員である作曲家に楽曲制作を委託したCM制作会社やゲーム会社が、委嘱料以外の使用料は支払いたくない場合は、どうしたら良いのでしょうか。
現在のJASRACの規定上、選択肢は3つあります。

1つ目は、著作者がそのタイプの使用形態を、信託契約の対象から除外する方法です。以前は約款上認められていませんでしたが、現在は、たとえば「CMへの録音」「ゲームソフトへの録音」というような特定のタイプの利用方法について、JASRACの管理の対象外とすることができるのです。この場合、利用者との契約内容は自由になります。ただし、個別の楽曲ごとに適用を変えることはできないので、作曲家がたとえば「ゲームソフトへの録音」を除外すると、他の楽曲をゲームソフトに利用する場合も自分自身または音楽出版社を通じて管理することが必要になります。

2つ目の方法は、上記の「指値」の活用です。使用料を自由に決めて良いということはゼロ円でも良い訳です。利用者は利用規約にのっとった手続きを取ることは必要ですが、追加の使用料は支払わなくても良いことになります。ただし、たとえばCM利用の場合、「指値」にできるのは「CMへの録音」だけで、「CMの放送・配信」については、使用料規程の定める額が適用されることになります。

3つ目の方法が、委嘱楽曲としての届出をする方法です。JASRACの信託契約約款の規定(39条)により、「当分の間」ではありますが、CM、映画や放送番組、演劇作品のテーマ音楽・BGM、またはゲーム用の楽曲として制作を委託した委嘱楽曲については、「依頼目的として掲げられた一定の範囲」について使用料を支払わなくても良い、という規定があります。

ここで、「一定の範囲」が問題になります。CM委嘱楽曲については、免除が可能な「一定の範囲」は、①CM放送用録音、②CM放送、③CM用のビデオグラム等への録音(店頭、街頭、航空機、イベント会場または劇場での上映を目的とするものに限る)、④店頭または劇場における上映、がこの範囲に含まれます。CM配信用録音、インタラクティブ配信など、CMをインターネットや携帯電話などネットワーク上で配信する場合は使用料免除の対象とはならないため要注意です。また、免除期間は原則として1年間であり、1年間を超えた場合には、既成曲CMと同様の権利処理を行う必要があります。
ゲーム委嘱楽曲の場合の「一定の範囲」は、①ゲームソフトへの録音、②ゲームソフトの配信、③ゲームソフトの告知用CM,そして④ゲーム製作者が行うその他の利用となっています。④は具体的には、たとえば販促イベントで配布される無償CDなどが想定されています。CMの委嘱楽曲と異なり、免除期間は設定されていません。
なお演劇作品に書き下ろした委嘱楽曲については こちらのコラムもご覧ください。

委嘱楽曲の届出は、合意によってJASRACへの支払い免除の範囲を規定できますし、楽曲ごとに指定できるので、使い勝手が良さそうです。ただし、音楽出版社が楽曲をJASRACに届け出る際に委嘱楽曲としての届出をする必要があるので、契約でその点も明記しておいた方が安心でしょう。


● まとめ

委嘱楽曲の場合、「制作費を払えばあとは自由に使える」とは限らないという話をしてきました。JASRACの信託契約でも近年委嘱楽曲の規定が整備されるなど、使い勝手は整ってきてはいるものの、最初の契約で明確にしておかなければトラブルのもとです。ちょっとした楽曲制作に契約書なんて大袈裟!と思わずに、どうぞ頭の隅に置いておいてください。

以上

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