All photos by courtesy of SuperHeadz INa Babylon.

English

コラム column

2015年1月29日

企業法契約

「プラットフォーム寡占化問題
  ~アメリカでのYouTube Music Key問題をきっかけに」

弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)


1.Googleの音楽聴き放題サービス「YouTube Music Key」

2014年11月17日、Googleは音楽ストリーミングサービス「YouTube Music Key」のベータ版の提供を開始しました。YouTube Music Keyはいわゆる「音楽聞き放題サービス」で、有料サービス(開始当初は月額7.99ドル、2015年より月額9.99ドル)では広告が表示されず、オフラインでの動画視聴も可能なようです。当初のベータ版提供は、アメリカ、イギリス、スペイン、ポルトガルなど7カ国でスタートしました。日本ではまだベータ版の提供は行われていません。
アメリカでは、Pandra(無料/月額4.99ドル)、Spotify(無料/月額9.99ドル)、iHeatRadio(無料)やAppleが買収したBeats Music(月額9.99ドル)など、音楽聴き放題サービスが数多く提供されています(Wikipedia)。一方で、日本では「レコチョクBest」(レコチョク、月額980円)といった大手音楽配信業者のサービスがありますが、アメリカでは有料音楽配信売上の割合が全体の60%であるにもかかわらず、日本は16%であり(2013年。一般社団法人日本レコード協会『日本のレコード産業2014』24頁(PDF))、まだまだ普及していないといえるでしょう(DeNAの「Groovy」は2013年の開始から1年でサービスが終了しました)。そして、海外サービスの日本進出は、ジャケット付の音源を持っていたいという中高年層の要望や、十分な数のアーティストの参加が得られていない可能性などが原因で難航しているようです(ニュース記事)。なお、日本で「Music Unlimited」サービスを提供していたソニーは、Spotifyと提携し世界41カ国・地域「Playstation Music」を開始することを決定しました(2015年1月29日付プレスリリース)。ただ、日本での同サービスの提供は現時点では未定であり、もし「Music Unlimited」終了時の3月29日までに日本で提供開始されないのであれば、定額制音楽配信サービスが日本でまた一つ終了してしまうことになりそうです。
「聞き放題サービス」が果たして権利者にとって利益を増大させるかどうかも大きな話題になっていますが(ニュース記事(英文))、今回のコラムでは、YouTube Music Key提供開始時のアメリカのインディーズレーベルの動きをご紹介しながら、プラットフォーム寡占化の問題について考えたいと思います。


2.インディーズレーベルの闘い

Googleが有料のYouTube Music Keyのサービス提供を開始するにあたり、Googleは各レコード会社との間で音源利用の契約交渉を開始し、3大メジャーレーベルとの間で合意に至りました。
一方、Googleとインディーズレーベルとの間の契約交渉は難航したようです。これは、Googleがレーベル側に「ライセンスに合意できないレーベルの音源は今後YouTubeでは見られないようにする」と告知したことをきっかけに知られるところとなりました。アメリカのインディーズレーベルの業界団体であるWorldwide Independent Network(WIN)は、その告知が報道された直後、大要、以下のような声明を出しました(2014年5月22日の声明同年6月18日の声明)。


Google契約はインディーズレーベル側に不利で、レーベル側に交渉の余地がない。さらにライセンス料率もSpotifyやRdioなどの既存のストリーミングサービスよりも低い。公平かつ平等な契約を締結するよう望む。

「不利」の詳細が気になるところですが、実は契約書がネット上に流出しています(Digital Music News(英文))。もちろんGoogleが内容を認めたわけではありませんが、投稿者はDigital Music Newsの設立者であり、内容はWINの声明のようにGoogle側有利のようにも思われます。
たとえば、この契約書には、同業他社に提供した音源・ミュージックビデオは全てGoogleにも提供しなければならないという「品揃えの最恵国待遇」(3.b条)や、他のメジャーレーベルがさらに低い料率で合意した場合にはこちらの料率も下がるとする(一種の)「料率の最恵国待遇」が定められています(別紙B 3項)。また、今回の契約によれば、ユーザー動画の削除の自由度が低くなるようにも思われます(4.c条)。
料率については、無料サービスと有料のそれとで異なり、無料の場合にはその音源の広告料収入の5~55%、有料の場合には(基本的には)その音源の広告料収入の5~55%+その音源の利益按分額となるようです(別紙B 2項a、別紙D)。

ここで注目されるのは、品揃えや料率の「最恵国待遇」(most-favored-nation、MFN)条項です。一般的に「最恵国待遇」とは、契約の相手方に、最も良い条件で取引するように約束させる条項です。この条項は、新規参入者にとっては、品揃えと価格での優位性を保てますので参入がしやすくなるといった競争促進的な側面も指摘されます。しかし、デメリットもあります。典型的な料率の最恵国待遇は「他のプラットフォームとの間で更に低い料率で合意した場合には契約先のプラットフォームもその料率まで下がる」という内容ですが、料率の最恵国待遇があるプラットフォームは他のプラットフォームが安く販売してないかなどを監視し、価格に関する協調行為を誘発することになります。また、コンテンツ提供者(レーベル事業者や電子書籍の出版社など)にとっても、あるプラットフォームでの料率を下げると、最恵国待遇により他のプラットフォームの料率も下がってしまうことから、容易に料率を下げることをしなくなるでしょう。料率だけではなく、たとえば特定のプラットフォームで限定配信のような音源提供を企画したとしても、最恵国待遇があればそのようなサービスを提供することができなくなります。結果として、プラットフォーム間のサービスは均一化し、競争が行われなくなる可能性があります(最恵国待遇の競争法上の検討として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成 24 年度我が国経済構造に関する 競争政策的観点からの調査研究(プラットフォーム関連事業に関する競争評価研究)報告書」57頁以下(PDF))。実際に、アメリカや欧州では、電子書籍のプラットフォーム事業者が要求する料率の最恵国待遇が競争を制限させているのではないかという点が問題視されています。

このように、巨大プラットフォームYouTubeとインディーズレーベルの契約交渉は、一度座礁に乗り上げました。もっともすでに音楽業界では、楽曲のプロモーションをYouTube抜きで語るのは難しいように思われます。メジャーレーベルのような営業力をもたないインディーズであれば、更に重要度が増すでしょう。そのような状態で「YouTubeで公開させない」といえば相当のプレッシャーになることは想像に難くありません。Googleが、本来であればプラットフォーム毎に異なっていておかしくない品揃えや料率の最恵国待遇をレーベルに求めるのは、営利企業として当然の選択ではあるでしょう。

ただ、アメリカでは著作権管理団体であるMerlinが2万のインディーズレーベルを代理しており、個別のレーベルが個別に交渉するよりは交渉力のある状態で話し合いすることができたようです。その結果、この交渉は2014年11月に無事軟着陸し、当初契約よりもGoogle側が譲歩した形で音源利用契約を締結することになったと報道されています(ニュース記事(英文)ニュース記事(和文))。どのような条件で契約締結が行われたかは明らかになっていませんが、Googleが最恵国待遇条項について譲歩したかは注目されるところです。


3.寡占化されやすいデジタルプラットフォームビジネス

プラットフォーム事業は「ユーザーの集客」が最も重要なポイントです。プラットフォーム事業者の魅力的なサービスによりユーザーが特定のプラットフォームに集まると、そこにコンテンツも集まり、さらに多くのユーザーが集まる、といった好循環が生まれます(「ネットワーク効果」といいます)。特にデジタルプラットフォームの場合には、輸送コストや複製コストがゼロに近く、また「在庫」がないことから全国に物流網を敷く必要がありません。そのため、デジタルプラットフォームは従来のプラットフォームとは異なり事業拡大が容易で、かつそのインセンティブが強いと考えられます(NERA Economic Consulting「平成24年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究(プラットフォーム関連事業に関する理論分析)」42頁(PDF))。また、あるプラットフォームが巨大化していくと新規参入へのハードルは高くなり、かつ同種の人気のないプラットフォームは縮小していきます(上記NERA調査研究30頁)。結果として、プラットフォームビジネスは寡占化が進みやすい業態であると考えられます。そのため、いち早くネットワーク効果を得て巨大化するために、市場立ち上げ期ではプラットフォーム間の競争は非常に激しいものになります。コンテンツ提供者もユーザーも特定のプラットフォームへの依存度が高くなった寡占後は、当然力関係はプラットフォームに傾きます。
プラットフォーム優位の契約交渉の一例として、アメリカでのAmazonの事例を紹介します。Amazonの電子書籍の販売は同国市場の60%を占めるといわれる巨人ですが、そのAmazonとアメリカ出版大手Hachetteは電子書籍の契約交渉でもめていました。そこで2014年5月にAmazonがとった対抗措置は、Hachetteの書籍の新刊予約注文ボタンを削除し、在庫の補充を認めないといった手法でした(ニュース記事)。こちらはアメリカの著作者団体から反発がおき、騒動になりつつも2014年11月に決着したようですが(ニュース記事)、HachetteとしてみればAmazonの措置は人気作家が他の出版社に流れかねない大きな脅威であったと思われます。

AmazonやGoogleのようにプラットフォームの寡占・独占化が行われると、プラットフォーム事業者の言うとおりにしないとコンテンツ事業が成りたたなくなる事態が生じます。一方で、多角化したプラットフォームは、ある事業で廉価販売をして集客しその赤字は他の商品でカバーする、といった販売方法をとることも(理論上は)考えられます。
このように、プラットフォームの寡占化は、プラットフォームの新規参入を阻害する効果だけではなく、商品・価格の恣意的な操作の危険性をも内包するものだとも言えます。


4.プラットフォームによる情報コントロール

プラットフォーム寡占化のリスクは上記だけではありません。その最大のリスクは、寡占化された特定のプラットフォームに大量の情報が集中することから、その情報をプラットフォームの裁量でコントロールできるようになる点でしょう。たとえば、ウェブサイトを検索するときには、Googleを使わない日はないと思われます。Google検索をしてトップページにランクインしなければ、そのページをユーザーが閲覧する可能性はぐっと減るといわれています(海外の調査ですが、94%のユーザーがトップページしか閲覧しないそうです。福井健策『誰が「知」を独占するのか』(集英社新書・2014)36頁)。にもかかわらず、表示のアルゴリズムがどうなっているかは、私企業であるGoogleのみが知るところになります。
また、Amazonは、昨今「優遇マーケティングプログラム」というプログラムを発表し、Amazonの格付け(Amazonへの料率がいい会社や電子書籍の提供度合いなどにより格付けがなされるようです)が高い会社の書籍を優遇するというサービスを提供しているようです(ニュース記事)。格付けが高い出版社については集中的にマーケティングを行うといったものですが、その格付けの評価基準が不透明であることや、かつ下位ランクの社にはこれまで当然と考えられてきたような情報提供もされなくなることから、出版社独自のマーケティングにも支障が生じ、出版社から批判がでているところです(ニュース記事)。さらに格付けが高い出版社の書籍は、ユーザーのサイトで表示される「おすすめ書籍リスト」に表示されやすくなるなど、ユーザーの行動もまた、プラットフォームにコントロールされつつあるようにも思われます。


5.情報コントロールのゆくえ

ここで申し上げたいのは、「プラットフォーム=悪」といった類の論ではありません。プラットフォームは我々の生活を豊かにしてくれます。Google、AmazonやAppleのプラットフォームは確かに便利で、実際に私がこれらのプラットフォームを使用しない日はないといってもいいでしょう。また、コンテンツ提供者にとっても、プラットフォームは、コンテンツにまつわる様々な「場」を提供してコンテンツの制作を促進してくれる役割があります。その販売方法に乗ることで、さらに売上が伸びるケースも少なくありません。プラットフォームがユーザーとコンテンツ提供者をつないでくれるからこそ、ユーザーは多くのコンテンツに接することが出来るのです。プラットフォーム事業者の有限なリソースを、特定の企業に優先的に配分することも競争制限等の法令に触れない限り許容されるでしょう。
しかしながら、私企業であるプラットフォームのいくつかは、既に社会的なインフラに近い存在です。そして、私企業による情報の過度の独占とコントロールには、いくばくかの危機感を感じざるを得ません。近時、ヨーロッパにおいてGoogle分割論が盛んなのも(ニュース記事)、そのような懸念からだと思われます。

本来であれば、複数プラットフォーム間で適正なサービス競争が行われるような状態が理想でしょう。ただ、寡占が現存する場合の課題をどのように解決していくのかは、とても難しい問題です。プラットフォーム側から提案される最恵国待遇や不利益変更等について競争制限的効果があれば独占禁止法をはじめとする法的規制も考えられるところですが、それだけでは困難な部分もあるでしょう。そして、日本でもコンテンツ提供者とプラットフォーム事業者の対立が先鋭化する時は、早晩訪れることが予想されるところです。個々で対抗しては交渉力に劣るインディーズレーベル2万社を代理してMerlinが契約交渉をおこなったように、今後寡占化されたプラットフォームに対抗するための交渉力を高める工夫を(法的に許される範囲で)検討すべきでしょう。


以上


※本サイト上の文章は、すべて一般的な情報提供のために掲載するものであり、
法的若しくは専門的なアドバイスを目的とするものではありません。
※文章内容には適宜訂正や追加がおこなわれることがあります。