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コラム column

2014年4月25日

契約著作権法

「放送コンテンツの海外展開のために」

弁護士 松島恵美(骨董通り法律事務所 for the Arts)


はじめに~盛り上がる日本文化の海外発信~

先日、「『クールジャパン』に1500億円 文化発信を支援」という記事が新聞の一面を飾りました。クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)が今後5年で、コンテンツ、食文化、ファッション、生活、おもてなしの5分野に1500億円を投資し、日本文化を海外に発信していくといいます。経産省が中心となって掲げてきたクールジャパン政策が、2020年のオリンピック開催の追い風を受け、ようやく本格始動するようです。

ほかにも、ASEAN主要国において放送枠を確保して、日本の放送コンテンツを継続的に放送することを目指し、昨年夏に放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)が、また、一昨年には、日本のコンテンツのリメイクをハリウッドで行うプロジェクトを支援する(株)All Nippon Entertainment Worksが、いずれも政府の大規模な出資のもと立ち上がっています。

このように、日本文化の海外発信がにわかに脚光を浴びていますが、本稿では、放送コンテンツについて、その海外展開の形と権利処理等の問題を概観します。

1.放送コンテンツの海外展開の形

放送コンテンツが海外展開するにあたっては、さまざまな形があります。
たとえば、ライセンス対象が番組の全部か一部かによって、いわゆる完パケのライセンスと、フッテージのライセンスに分けられます。
放送コンテンツを海外でライセンスする際は、いわゆるウィンドウ(展開するメディアの順番とタイミング)やメディアの選別について十分リサーチし、進出先の地域のメディアの特性に合わせた戦略を検討することが必要となります。後述する権利処理の問題に加え、フッテージライセンスの場合には、切り取られ方、使われる場面等によっては、著作者人格権、実演家人格権等の問題にも留意する必要があります。

また、番組の翻案を前提とする場合は、リメイクやフォーマットライセンスの形があり、国際共同制作という形をとる場合もあります。
リメイクについては、以前のコラムで触れたとおり、ライセンス対象とするプロパティの範囲とクリエイティブ・コントロールをどの程度及ぼすことができるかという点が交渉ポイントとなります。
一方、フォーマットライセンスの対象は、ゲーム番組やバラエティ番組の構成、コンセプト、セットのデザイン、進行・演出上のノウハウ等であることが一般的で、これがバイブル(仕様書)としてまとめられます。いずれもアイディアであることが多く、法的には著作権による保護対象とすることは難しいと思われます。ただし、番組に特徴的な要素があり、そこから番組の制作者や放送局を想起できるような場合には、不正競争防止法による保護の余地もあるかもしれません。
いずれにしても、契約を締結した当事者間では、フォーマットをベースに取り決めたルールに従って番組を制作し、これを監修することになります。現在では世界的にフォーマットライセンスが盛んにおこなわれていて、日本のテレビ番組でも、風雲たけし城、料理の鉄人、マネーの虎などのコンテンツが、フォーマットベースで海外制作されています。

国際共同制作は、クリエイティブ面で参加するもの、出資面で参加するもの、双方の面から参加するもの等、様々なタイプがあり、紙面の都合上、ここでは紹介しません。

2.放送番組制作時の権利処理

放送コンテンツを海外展開するにあたっては、権利処理済みの範囲を確認するとともに、今後必要な権利処理の範囲をまずは認識する必要があります。権利未処理の部分がある場合、権利許諾が得られなかったり、使用料について合意できないリスクをも想定する必要があります。
そして、いまや、ネット抜きでコンテンツの流通を語るのは難しく、見逃した放送をネットで見ることのできる「キャッチアップTV」のための権利処理は、海外展開する上では必須といえましょう。

しかしながら、放送局が自局で放送する番組の制作、特に古い番組においては、主に放送のみを目的とした簡易な権利処理がなされているのが実情です。
これは、著作権法上、また実務上も、放送のための簡易な権利処理制度が用意されていることに大いに起因します。
たとえば、以下のような制度があります。

(1) 著作権法上の規定
自己の放送のための一時的固定(著作権法44条、102条):著作権者、実演家、レコード製作者等に放送の許諾さえ得ておけば、録音・録画の許諾を別途とる必要はありません。
放送のための固定(著作権法93条):実演については、放送のための許諾を得ていれば、実演家から録音・録画の許諾を別途とる必要はありません。

(2) 放送事業者の包括契約の存在
音楽著作物(JASRAC)
商業用レコード(日本レコード協会)
商業用レコードの実演家(CPRA)
このような包括契約の存在によって、放送事業者は、個別の使用申請、個別の使用料の支払いをすることなく、音楽著作物及び商業用レコードを使用して、放送番組制作時の録音録画、国内外の放送ができるようになっています。

放送のための権利処理しかしていない場合、DVDやブルーレイなどのビデオグラムを発売する際に、音楽著作物、商業用レコード、実演家それぞれについて、別途権利処理が必要となりますし、オンデマンドやキャッチアップTV等の配信を行う場合も、別途権利処理が必要になります。(なお、外部制作会社が制作する場合の権利処理、実演家のワンチャンス主義等については、ここでは触れません)

*注: JASRACはキャッチアップTVが放送の補完的役割を担うことを重視し、今後、包括契約の範囲にキャッチアップTVのための配信を入れることを検討している模様です。

3.円滑な権利処理のために

言うまでもなく、番組制作時に想定される利用について予め権利処理をしておくのが理想形です。総務省では、昨年から、海外展開予定の番組を選び、国内利用とともに海外展開までの実演家の許諾を取得する実証実験を行っているようです。

しかし、現実には、制作予算が限られていたり、将来的な利用が未確定であるなどの理由で、ごく限定的な権利処理しか行われていないことのほうが多いでしょう。
そこで、事後的に円滑な権利処理をするための制度についても検討されています。

たとえば、実演家の権利処理のために、日本音楽事業者協会、日本芸能実演家団体協議会、日本音楽制作者連盟が共同で設立したaRma(映像コンテンツ権利処理機構)では、従来それぞれの所属事務所や所属団体を通じてしか行われていなかった使用申請、使用料の徴収について、aRmaに窓口を集約し、ウェブを利用した許諾申請システムを稼働しています。
また、レコード原盤については、これまで海外展開の許諾が得られず、差し替えなどで対応せざるを得ないケースが多かったのですが、海外展開が可能なレコード原盤リストを作成し、データベース化する作業が進行中です。これによって、海外展開を予定しているコンテンツは海外展開が可能なレコード原盤を選定することができます。

さらに、古い番組については、権利者の消息が不明な場合などが多いですが、裁定制度(著作権法67条)を利用することが考えられます。また、裁定制度を利用する前提となる、不明権利者探索業務の効率的な進め方についても検討されています。
すなわち、不明権利者探索のための「相当な努力」として挙げられている調査のうち、作業負荷が少なく発見率が高いものから行うことが検討され、その結果、以下の順番が最も効率的な方法とされました。
(1)著作権者団体への照会⇒(2)著作権管理事業者への照会⇒(3)タレント名鑑探索⇒(4)インターネット探索⇒(5)申請テレビ局以外への照会⇒(6)出演者名簿探索
なお、ウェブ掲載による呼びかけは当初から並行して行うとされています。
各調査の具体的な説明については、文化庁の裁定の手引をご参照ください。

4.Chain of Titles

権利処理問題のほかに、もうひとつ、コンテンツホルダー泣かせなのが、Chain of Titlesを要求されることです。
Chain of Titlesとは、権利がライセンサー(あるいはコンテンツホルダー)まで間断なくつながっていることを示す証拠となる書面です。
海外展開の地域や形態によっては、ライセンサーによる作品の表明保証以上のものを要求されないこともありますが、リメイクの場合は大抵、ライセンサーがChain of Titlesを提出し、その内容をライセンシーが確認することが契約発効条件となります。

それでは、具体的にどのような内容の書面が必要となるのでしょうか。
製作委員会が製作した、オリジナル脚本の実写映画(以下、便宜上「原映画」といいます)のリメイクを行う場合を例にとって説明しましょう。

まず、(1)原映画の脚本家から、脚本について第三者の権利侵害がないこと等の表明保証、原映画をリメイクすることの(脚本の限度においての)許諾、著作者人格権の不行使等についての書面(ライセンス契約であることが多いです)を取得します。
次に (2)原映画の監督やプロデューサー等、原映画の著作者となる人からは、原映画の権利帰属、著作者人格権の不行使等の確認書を取得します。
また、(3)原映画の制作会社からは、製作委員会に原映画の権利が帰属している(譲渡されている)こと、原映画に関して製作委員会の未払いその他の債務不履行はないこと、権利者やスタッフの権利処理が済んでおり、必要な支払いをしていること、原映画について第三者の権利侵害がないこと等の表明保証、著作者人格権の不行使等について、確認書を取得します。
さらに、(4)原映画の著作権を保有している製作委員会のメンバーそれぞれから、リメイクのライセンス権限に関する委任状を取得することが必要になります。
最後に、(5)ライセンサーとなるコンテンツホルダーが、リメイクライセンスする権限があること、制作関与者の氏名・肖像等の使用権があること、原映画について第三者の権利侵害がないこと等の表明保証、著作者人格権の不行使等について、確認書を発行します。
なお、上記書面の内容はあくまで一例であり、相手方によって要求される内容は異なります。これらの書面に加え、(6)日本の弁護士によるオピニオンレターが必要な場合もあります。

このような内容は、原映画製作時の締結済み契約に盛り込まれていなければ、新たに権利者からそれぞれ取得する必要があります。場合によっては、この作業を完了するのに、1年以上必要となることもあります。このような作業を経て、ようやく海外展開の入口に立てるのです。

終わりに

日本文化を海外に発信できる放送コンテンツは、今後制作する番組だけではなく、これまで制作されたアーカイブにも豊富にあります。
しかしながら、海外展開にあたっては、権利処理、Chain of Titlesの取得等、さまざまなプロセスを経る必要があります。
ひとつでも多くの放送コンテンツが海外においても円滑に流通できるよう、諸制度が整備されて弾力的に運用されること、権利者の協力が得られること、そして、日本の放送コンテンツの権利処理の実情に対して海外展開先の理解が得られることが、今後の課題となりましょう。
この分野に携わる者として、放送コンテンツを通じて、一人でも多くの方に日本の豊かな文化を発信できることを願ってやみません。

以上

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