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コラム column

2013年10月 3日

その他の知的財産法裁判

「ピンク・レディー事件最高裁判決から1年半。
     ~著名人の『イメージ』は果たしてパブリシティ権で守られるのか?」

弁護士 鈴木里佳(骨董通り法律事務所 for the Arts)

● はじめに

個人のブログやSNSをはじめとする多様な表現の場の出現や、スマートフォンやタブレット端末などの情報通信機器の発達により、個人による情報発信も当たり前に行われるようになりました。
日々飛び交う情報の中には、隠し撮りした有名人のプライベート写真だったり、オフィシャルショットであっても、複数の顔写真を時系列に並べて「整形前→整形後」といったコメントをつけたものなど、法的にグレーな雰囲気の漂う著名人の写真利用も多く見られます。
真正面から許容されてはいないにもかかわらず繰り返し行われている、これらの著名人の写真の無断利用は、マナー違反というだけでなく、パブリシティ権やプライバシーの侵害といった法的問題とも隣りあわせといえます。

著名人の肖像利用に関する近年のトピックといえば、やはりピンク・レディー事件最高裁判決(最高裁平成24年2月2日判決)が思い浮かびます。
同判決の概要については以前のコラムをご参照頂ければと思いますが、最高裁により、パブリシティ権(肖像等のもつ顧客吸引力を排他的に利用する権利)が人格権に由来する権利として法的に保護されると認められるとともに、パブリシティ権侵害の成否に関する判断基準、及び侵害の典型例である3類型(*1)が示されたことで、注目が集まりました。

(*1 ピンク・レディー事件最高裁判決が示したパブリシティ権侵害3類型:
    ①肖像等それ自体を独立して鑑賞対象とする場合、
    ②差別化目的で肖像等を商品等に付す場合、
    ③広告として使用する場合)

もっとも、侵害3類型に該当するのは具体的にどのようなケースなのかという点や、差止めの可否、損害賠償額の算定方法など、残された問題も多く、その後の事例判断に関心が寄せられていました。

前置きが長くなりましたが、本コラムでは、ピンク・レディー事件最高裁判決後おそらく初めて、いわゆるグラビア写真の無断掲載によるパブリシティ権侵害の成否が判断され、かつ、「パブリシティ価値の毀損」という損害が認定された裁判例(平成25年4月26日東京地裁判決/平成22年(ワ)第46450号)を取り上げてみたいと思います。


● 事案のあらまし

本件は、深田恭子さんや綾瀬はるかさんら、合わせて21人の女性芸能人が、自分たちの写真(計166点)を雑誌に無断掲載した出版社らに対して、パブリシティ権やプライバシー権の侵害を理由として、計約2300万円の損害賠償と雑誌の印刷・販売の中止、廃棄を求めた事案です。
本件で使われた写真は、深田さんら対象タレントの過去の芸能活動に関連して撮影された写真や、デビュー前の制服姿の写真など多岐にわたるのもので、「ENJOY MAX」という雑誌のシリーズの中の66件の記事に掲載されました。
「ENJOY MAX」というのは、(コンビニエンスストアの「成人向け雑誌コーナー」に並んでいそうな)男性向け雑誌のシリーズで、本件で問題となった5冊の雑誌のいずれも、広告ページを除き、雑誌全体が、芸能人等の女性の写真(そのうちのほとんどにコメントが付記されていました)で占められていました。
(なお、5冊のうち2冊は全てがカラーページで、割合が最も少ないものでも、全体(全260頁)の半分がカラーページでした)
今回問題となった記事の見出しや写真につけられたコメントは、読者の性的関心を喚起するようなきわどい表現が多く、紹介の仕方が悩ましいのですが、イメージ化のために、その中のある記事(縦18.1cm×横14.8cm/カラー1頁)について、そのレイアウトを再現してみました。

記事レイアウトの再現


上半分の濃いピンク色部分が今回の原告の1人(X)の写真2枚(1枚が水着姿、もう1枚は黒色の服を着用した姿)で、下半分の薄いピンク色部分が別の女性芸能人の写真で占められていました。そして、右上の青色部分にはXの名前、中段の2つの青色部分には「このムッチリ感がタマらん!」あるいは「Xといえば、ムッチリボディ。ダイエットに成功した現在もいいけれど、やっぱりこの時期が最強!」というコメントが記載されていました。
(その他の記事の概要やコメント等にご興味のある方は、判決文[PDF:564KB]をご参照頂ければと思います)


● コメント付きグラビア写真の利用とパブリシティ権

それでは、本件でどのような判断がされたのか、具体的にみていきたいと思います。
まず、今回の記事のように、著名人の肖像写真をグラビア写真のように使用しつつコメントを付した雑誌記事が、パブリシティ権侵害の第1類型(肖像それ自体が独立して鑑賞の対象となる商品等としての使用)にあたるかについて、「写真の大きさ,取り扱われ方等とコメントの内容等を比較検討し,写真とコメントとの間に関連性がない場合又はコメントとの間に関連性があったとしても実質的にはコメントに独立した意義が認められない場合に限り」パブリシティ権を侵害するという判断基準が示されました。
そのうえで、本件の各記事に付されたコメントの多くは、写真の内容と無関係ではないと認定しつつも、①コメント欄の大きさが写真の大きさより小さいこと、②コメント部分が写真の肖像部分を妨げない配置に分散されていること、③コメント内容が「写真の内容を即物的に示したにすぎない」、あるいは、「写真の内容に即して筆者の感想や願望を述べるにすぎない」こと等を理由として、コメントには独立した意義が認められないと判断しました(記事によっては、判断材料として上記②がないものや、③のコメント内容の認定に差異もありますが、概ね上記のような要素を理由として独立した意義がないと認定されました)。
そして、本件で問題となった記事は、いずれも深田さんら対象タレントの写真を独立の鑑賞対象としたものであり、パブリシティ権を侵害すると認定しました。

ピンク・レディー事件判決では、金築裁判官の補足意見にて「グラビア写真」がブロマイド写真と並んで、パブリシティ権侵害の第1類型(独立鑑賞物)の例として挙げられていました。
ただ、「グラビア写真」といっても、大きさ・画質、雑誌の中での取り扱い方等、その態様は様々であり、どのような「グラビア写真」の利用が、独立鑑賞物としての利用(=パブリシティ権侵害の第1類型)にあたるかの議論は未解決のまま残されていました。
本判決では、雑誌に掲載されたコメント付のグラビア写真について、「(1)コメントの内容が写真と関係のない場合や、(2)コメント内容が写真と関連性があっても独立の意義がない場合に限り、パブリシティ権を侵害する」という一定の規範となる基準が示されました。この点で、パブリシティ権侵害の成立を典型的なフリーライド行為に限定して認める方向性を示したピンク・レディー事件最高裁判決の延長線上の判断といえそうです。


● パブリシティ権侵害による損害

本件の記事での肖像写真の利用がパブリシティ権侵害であるとして、いかなる請求が認められたのか。
まず、損害賠償請求については、(i)パブリシティ権の使用料相当額の損害と(ii)パブリシティ価値毀損の損害の合計額が、パブリシティ権侵害による損害額であると認定されました(プライバシー権侵害(*2)による損害とあわせて、対象タレント21人に対する賠償額の合計金額は約700万円でした)。

(*2 本判決は、デビュー前の写真やデビュー後のプライベート写真については、対象タレントが私生活における肖像等を顧客吸引力のあるものとして使用していないため、パブリシティ権ではなく、プライバシー権の問題と捉えたうえで、侵害にあたると判断しました。プライバシー権侵害の判断の詳細については本コラムでは割愛させて頂きます)

なお、精神的損害に関しては、パブリシティ権が肖像等の商業的価値に基づくものであることを理由に、慰謝料請求は認められませんでした。また、雑誌の印刷・販売の中止、廃棄の求めについては、すでに絶版扱いとなり、あるいは在庫が存在しないことから必要性がないとして、請求は認められませんでした。

上記のとおり認められた損害額のうち、(i)の使用料相当額は、【〈雑誌の販売価格×販売部数×掲載頁数/全体頁数〉×使用料率(*3)】という式により算出されました。

(*3 使用料率については、今回の肖像等の使用方法、雑誌の販売価格、販売部数、写真集における対価の支払い状況を踏まえ、20%と認定されました)

この点、ピンク・レディー判決の最高裁調査官解説(「Law & Technology」56号68頁「最高裁重要判例解説」)では、「パブリシティ権の権利者の地位は、肖像等の有する顧客吸引力を「排他的に」利用できる点で、市場において著作物を独占的に販売することができる著作権者の地位と共通する。そのため、パブリシティ権侵害による損害賠償額の算定では、著作権法114条の定める損害額の推定規定(パブリシティ権者が市場で侵害物と同種の商品等を販売していない場合には、実施料相当額を最低限度の損害額と定める114条3項)を類推適用することができる」という考え方が示唆されていました。
本判決では、調査官解説で示唆された上記の算定方法(著作権法114条3項の類推適用)を採用するとは明言されていません。 もっとも、(i)使用料相当額の認定については、「パブリシティ権を侵害する利用について、権利者が本来受けるべきであった金額(逸失利益)」相当額を損害と認めるという意味で、著作権法114条3項の類推適用を認めた場合と同様の結論となったといえそうです。

他方、本判決の大きな特徴として、(i)使用料相当額とは別に、(ii)パブリシティ価値の毀損も損害として認めています(*4)。この点は、パブリシティ権の内容として、「権利者は、自身の肖像等の顧客吸引力を毀損するような使用態様を排除することができる」との考えに立った上で、今回の記事のコメントの多くが性的な関心を喚起する内容であったことと(*5)、対象タレントは「いずれも女性の芸能人であり、キャラクターイメージが重要である」ことを理由として、パブリシティ権の価値自体が毀損されたという損害を認めたものでした。
具体的な金額については、現時点では、パブリシティ権の価値の算定方法がなく、立証困難であるため、裁判所の裁量により、「毀損されたキャラクターイメージの性質,毀損の態様,使用料相当損害額との関係,掲載頁数等を考慮して」損害賠償額が算定されました。

(*4 (i)使用料相当額と(ii)パブリシティ価値の毀損の両者が損害として認められた点は、あたかも、「レンタカーの店舗から、無断で車を持ち出して乗り回した犯人に対して、(i)車を無断利用していた時間分の料金に加え、(ii)犯人の運転方法が荒かったため低下した車の価値相当分(たとえば傷をつけられたドアの修理代等)につき損害賠償請求する」といった事案とパラレルに考えることができそうです。)


(*5 パブリシティ権侵害が認められた本件記事のうち、コメントなしの2件の記事、および毀損する要素のない1件の記事のみを除外して、上記(ii)の損害が認められました)


● 著名人のイメージへの配慮は、どこまで求められるのか

本事案では、問題となった雑誌の一部および「ENJOY MAX」シリーズの他の既刊号に関し、深田さんらの所属プロダクションを会員とする日本音楽事業者協会(音事協)が、被告となった出版社らに対して、数回にわたり、肖像写真の無断掲載に抗議し、謝罪と販売中止・廃棄を求めていました。また、被告らがパブリシティ権・プライバシー権を今後は侵害しないこと等を約束する誓約書を提出するとともに、「二次使用料(=写真掲載料)」の支払を申し出たのに対して、音事協は、被告らが支払うべきは、(許諾を受けられることを前提とした)「二次使用料(=写真掲載料)」ではなく(無許諾で肖像写真を利用したことについての)「損害賠償」であると指摘するといったやりとりがありました。
このような経緯からは、「今回の雑誌の販売は対象タレントの意に反するものであり、仮に本件の各雑誌での写真利用の許諾を求められても原告らは応じなかったであろうこと」を、被告らが認識しながら、あえて雑誌に肖像写真を無断掲載し、その販売を行ったものといえそうです。
こういった事情(被告らの過失の内容)や、肖像写真に付されたコメントの内容を踏まえると、本判決における「パブリシティ価値の毀損」という損害の認定も腑に落ちるところです。

もっとも、上記のような事情がないケースについて、(使用料相当額を判断する1つの要素にとどまらず別の損害としての)「パブリシティ価値の毀損」という考え方を、どの程度一般化できるかは、難しい問題です。
たしかに、多くの芸能人及びその育成プロダクションにおいては、彼ら・彼女らの魅力と魅力ゆえの顧客吸引力を収益に変換するビジネスモデルがとられています。
いかに彼ら・彼女らを魅力的に映し、顧客吸引力を向上させるか。収益化を実現する過程では、肖像等を素材のまま無断で利用する行為(写真をそのまま掲載した海賊版写真集)と同様に(場合によっては、それ以上に)、そのイメージを損なうようなコメントとともに肖像等を無断利用する行為(清純派アイドルの写真に猥雑なコメントを付した写真集)によるダメージは大きいのかもしれません。

他方で、芸能人の「イメージ」というのは、曖昧かつ浮き沈みする概念であり、特定の時点でその価値を財産的に捉えることは、いかにも困難です。 近ごろ、芸能人による炎上マーケティングなるものが、しばしば話題となるのは、一時的な好感度低下も、中長期的な収益化にとって必ずしもマイナスに作用しないことを表しているという一面があるのかもしれません。 意図的な戦略としてのイメージダウンではなくても、批判的な報道や従前のイメージに反する取扱いが、長期的にはプラスの評価、ひいては収益化の成功につながることもあるでしょう。
このような芸能人の「イメージ」と収益化の微妙な関係を踏まえると、「パブリシティ価値の毀損」の有無を判断するには、相当に細やかな検討が必要となりえます。

(上記*4では、レンタカーを無断利用された上、車体に傷をつけられた事案と対比しましたが、傷による車の価値低下という損害(≒傷ついたドアの修理代)と、パブリシティ価値の毀損という損害は、財産的評価の困難さの点で大きく異なるといえるでしょう。また、パブリシティ価値の毀損という考え方は、著作物の無断利用により作品イメージの低下という損害が認められるかという問題とも共通するといえそうです。「パブリシティ価値の毀損」という考え方が一般化された場合の影響を踏まえると、財産的評価の困難さを考慮した慎重な検討が望まれるところです)

メディアや個人による表現行為において、著名人の「イメージ」に配慮することは、どこまで求められるのでしょうか。
「パブリシティ価値の毀損」の損害が認められたという、今回の判決の結論が一人歩きして、芸能人の「イメージ」を守るべき法的義務が一般的にあるかのような誤解が生じては、表現活動の萎縮につながりかねません。
どのような事情がある場合に「パブリシティ価値の毀損」が認められるのか。
利用者の過失(落ち度)の内容との関係も含めて、今後の事例判断において、パブリシティ権に関するルールが、より明確となることに期待したいと思います。

以上

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