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コラム column

2013年2月27日

著作権法裁判

「報道機関による投稿コンテンツの利用について考える」

弁護士 松島恵美(骨董通り法律事務所 for the Arts)

今年1月中旬、報道機関が第三者のツイッター上の写真を無断利用したことが著作権侵害とされた、という米国の裁判のニュースが流れました。
このニュースに対して、報道機関は、報道目的のためであれば第三者の著作物を許諾なく利用できるのでは? と考えた方も多かったのではないでしょうか。
そこで、今回のコラムでは、この米国判決を紹介し、あわせて日本の著作権法に基づく報道機関によるソーシャルメディア投稿コンテンツの利用について考えてみたいと思います。

■ 米国連邦地裁判決の事案
   (Agence France Presse v. Morel, 2011 WL 147718
    (S.D.N.Y. Jan.14,2013))

2010年に起こったハイチ地震。当時、この惨状をすぐに伝えることのできるジャーナリストは現場にほとんどいなかったようです。現場に居合わせたプロのカメラマンであるMorel氏が惨状を撮影し、その写真を地震当日の夜にツイッターに投稿しました。すると、すぐに全く関係のないSuero氏が自分のツイッターのアカウントにその写真を再掲し、地震の特ダネ写真、とツイートしました。
これを、今回の裁判の当事者であるAFP通信の担当者が発見し、Suero氏の名前をクレジットした形でMorel氏の写真を自社のデータベースに入れました。そして、AFP通信はストックフォト(注:使用料を支払うことで利用できる写真素材等)を扱うGetty Images社と写真素材の相互利用契約を締結していたことから、Morel氏の写真は、Suero氏のクレジットがついたまま、Getty Images社のデータベースへ送られ、これがGetty Images社を通じてワシントンポストなど他の多くの報道機関にもライセンスされ、利用されるに至りました。
AFP通信では、翌日、これらの写真がSuero氏のものではなく、Morel氏撮影のものではないかと疑義が生じ、直ちにクレジットの修正手続きをとりましたが、その頃までには、Getty Images社を通じて、Suero氏の名前がクレジットされた写真が多く出回っており、すべての写真を修正することはできませんでした。
なお、Morel氏は、Getty Images社のライバル社であるCorbis社と専属契約を締結していたのですが、大地震直後のネット環境に不安があったため、とりあえず、ツイートに写真を投稿し、有償で利用可能であるとツイートしたようです。Morel氏はCorbis社に対して、AFP通信やGetty Images社に写真の利用許可をしていないことを伝え、Corbis社からもGetty Images社に対して翌日抗議がなされました。Getty Images社では、この抗議を受けて、ストックフォト素材のサイトから写真を削除しました。

■ 著作権侵害について ~ツイッターの利用規約の解釈

Morel氏の著作権侵害の主張に対し、AFP通信は、ツイッターの利用規約では、ツイッターに投稿されたコンテンツを第三者が利用できる(たとえば、リツイートなど)ことになっているので、AFP通信もこれを利用できるのだ、と反論しました。

ツイッターの利用規約(リンクは事件当時のもの。現在は内容が多少変更されています)には、

(i)  ユーザーはツイッターに投稿することによって、ツイッター社に、コンテンツを使用、複製、改変、公表、送信、表示、配布するライセンス(サブライセンスを含む)を地域の定めなく無償でライセンスしたこととする。

(ii) このライセンスによって、ユーザーは、ツイッター社や他の利用者に対して、自身のツイートを世界中で閲覧できるようにすることを認めたこととなる。

(iii)このライセンスは、ツイッター社がそのパートナーである企業や個人に対し、投稿されたコンテンツを、コンテンツ利用の条件に従って、ユーザーに報酬を支払うことなく利用させることを含む。

などの記述があり、AFP通信は、このライセンスの恩恵を受ける第三受益者だというのです。

また、ツイッターの「放送などのメディアでの利用に関するガイドライン」(「メディアガイドライン」)(リンクは現在のものです)で、ツイッターを放送などメディアで利用することを歓迎する、と記載されていることも、AFP通信による写真利用を正当化すると主張しました。

これに対して、裁判所は、ツイッターの利用規約の具体的解釈までは踏み込まなかったものの、ユーザーのコンテンツの権利はユーザーが保有している、という文言が利用規約にあることを指摘するとともに、利用規約の文言によっても、第三者がツイッターの内容を自由に切り取って商用で利用することを明確に認めたとまでは解釈できないと判断し、AFPの主張を退けました。
また、メディアガイドラインでも、ツイッターの投稿内容を使う場合には、ツイート全文をそのまま使うこと、画像がある場合にはツイート全文とともに使うこと(したがって、写真だけを切り取るなどは許されない)、ユーザーの名前は必ず表示することが条件とされていることから、AFP通信の写真利用はガイドラインに沿った利用でもなく、正当化されない、と判断しました。

今回のケースでは、報道目的利用だから著作権侵害にあたらない、という主張はAFP通信社から出されなかったようです。これは、AFP通信社が自社で報道のために利用するだけではなく、相互利用契約によって、ストックフォトをライセンスするGetty Images社に実質的には有償で写真を提供していたからなのかもしれません。
(なお、誤ったクレジット表示をして写真が利用された点は、米国ではデジタルミレニアム著作権法上問題となりますが、未だ事実認定の問題が残っているとして、今回の判決では判断されませんでした。)

以上の通り、報道された米国判決は、投稿コンテンツの報道利用について判断されたものではありませんでした。


それでは、日本の著作権法のもとでは、報道機関は写真・映像などの投稿コンテンツをどのような形で利用できるのか、以下、整理してみましょう。

■ 時事の事件の報道のための利用(著作権法41条)

著作権法では、時事の事件の報道をする場合、その事件を構成し、または事件の過程で見られ、聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内で利用することができるとされています。
例えば、モネの絵画が盗難にあった、という事件の報道で、盗まれた絵画の写真を掲載したり放送する場合や、首相の訪米で歓迎セレモニーが開催されたという報道で、現地で流れている音楽も一緒に放送する場合などがこれにあたります。
それでは、俳優が病気で亡くなったという報道で、闘病中に俳優が綴った感謝の言葉などのツイートを利用することはどうでしょうか。俳優死亡という事件を構成するものとは言えないですし、事件の過程で見聞きされるものでもありません。しかし、その利用自体が権利者の経済的損失につながることもほとんどないだろう、として、緩やかな解釈をし、事件と相当な関連があれば、報道利用として認めてもよいのではないかという考え方もあります。

また、報道の目的上正当な範囲で利用することが必要ですので、報道のような体裁で観賞用の番組や記事を作ることはできません。もっとも、放送時間や掲載量について、のちに検討する「引用」のような主従関係までは必要とされません。

さらに、出所を表示する慣行があるときは、合理的と認められる方法・程度で明示しなければならないとされています。
投稿コンテンツの出所を表示する慣行の例として、一般のメディア利用の場合の条件ですが、ツイッターのメディアガイドラインにユーザーの氏名とツイッターの鳥のマークを表示するように記載されています。また、You Tubeのメディア関係者向けのページには、コンテンツ保有者であるユーザー名とYou Tubeのクレジットを表示するよう、記載があります。

■ 時事の事件性の「賞味期間」は?

ところで、時事の事件といえるのは、事件発生からいつ頃までなのでしょうか。
例えば、アイドルグループのYou Tube公式チャンネルに先日掲載されたメンバーの丸刈り謝罪映像は、多くのニュースでそのまま流され、海外でも広く報道されました。映像は所属事務所の判断で、掲載開始から3日程度でYou Tubeから削除されましたが、この映像を、報道目的として、事件から約4週間経った現在も利用することができるでしょうか。

時事の事件性について、「その日におけるニュースとして価値を持つかどうかの問題」と狭く解釈する考え方もありますが、実務上は、最近の事件でニュース性があるものであれば、時事の事件と扱われているようです。
この点について、これまで判例などはありませんが、4週間程度の経過であれば、まだニュース性があるのでしょうか。そのメンバーが試練を乗り越えて新たなステージへ、といった新たな報道をする場合には、その報道自体にニュース性があるので、その経緯の一部として利用できるようにも思えますが、謝罪事件だけの報道であれば、どうでしょう。今月のニュース、として報道することはまだ許されるのでしょうか、今年のニュースならどうでしょうか。ケースバイケースの判断になりそうです。
ただし、あの頃の重大事件特集、といったような数年前の過去を振り返る番組などでは、もはやニュース性があるとは言えないでしょうから、報道目的の利用ではなく、引用として許されるか、または原点に戻り、映像の利用にあらためて著作権者の許諾が必要になるでしょう。

それでは、事件直後に放送したニュース映像を、ウェブサイトにアーカイブ映像として残しておき、視聴者がいつでも見られるようにしておくことはどうでしょうか。 難しい問題ですが、時事の事件性の賞味期間という観点からは、時間の経過とともにニュース性は低下するので、報道利用としての許容性もこれに伴って低くなるように思えます。
なお、実務上は、ネットのアクセスのし易さ・拡散性という性質から、著作権法以外の要素、例えばパブリシティ権、プライバシー権などの人格権、といった観点からも検討が必要となる場合があるでしょう。特に犯罪報道に関する映像などの場合には、被害者の心情や社会復帰を目指す犯罪者側の事情も考慮する必要があるでしょう。

また、著作権法では、報道利用などの制限規定による利用は著作者人格権に影響を及ぼしてはならないとされています。例えば、未公表の写真や映像などを報道に使うこと(この点については、報道の必要性とのバランスの観点から議論があります)、写真や映像を意に反する形で改変、切除などして利用することはできません(もっとも、報道利用の場合、翻訳はできます)。

■ 引用(著作権法32条)

時事の事件性の賞味期間が切れた後、または事件を構成したり事件の過程で見聞きされる著作物でなくても、引用の条件を満たせば、公表された著作物を利用することができます。
この場合、公正な慣行に合致し、報道、批評等の引用目的上、(質的・量的にも)正当な範囲であることが著作権法の条文上必要です。具体的には、引用する必然性があり、引用するもの(放送番組や記事など)とされるもの(投稿コンテンツなど)との間が明瞭に区別され、質的・量的にも引用するものが主、引用されるものが従の関係にあること等が判例で要請されています。
したがって、報道利用の場合と比べると、質的・量的な点で制限が多くなるでしょう。
また、複製して利用する場合には、合理的と認められる方法・程度で出所を明示する義務があります。投稿コンテンツの出所明示の方法については、先に紹介したツイッターYou Tubeのメディア向けガイドラインが参考になるでしょう。
著作者人格権に影響を及ぼしてはならない点については、報道利用の場合と同様です。

■ 著作権制限規定に基づかない利用

以上のような報道利用や引用の条件を満たさない場合でも、投稿コンテンツを利用することはできます。その場合、原則としては投稿者から許諾を得ることとなりますが、ソーシャルメディアの利用規約などで一定の第三者利用が認められていれば、その範囲内でガイドラインに従った利用ができることとなります。先に紹介した米国の判決は、このケースにあたるでしょう(但し、判決では、利用の仕方がガイドラインにも沿っていないと指摘しました)。
ツイッターの利用規約の内容は先に紹介しましたが、You Tubeの利用規約においては、You Tubeが提供する機能を利用して第三者の投稿コンテンツ利用を認めるものとなっています。
ただし、いずれのソーシャルメディアも、投稿コンテンツを集めて利益を得るなど、商用利用や商品の推奨利用は禁止しています。
放送等のメディアでこれらの投稿コンテンツを利用する場合、利用規約によって投稿者から一定の第三者利用の許諾を得ていることを前提にしつつも、You Tubeのメディア向けガイドラインでは、使用したい動画の投稿者に直接連絡を取って許諾を得ることが規定されています。


ソーシャルメディアが普及したとはいえ、報道機関は引き続き情報発信者として影響力の大きい立場にあります。一般市民から投稿された特ダネ的な写真や映像コンテンツの利用については、投稿者の権利に配慮をしつつ、ルールの範囲内で節度ある利用を心掛けたいものです。

以上

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