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コラム column

2010年4月 7日

著作権法IT法

「Google Booksクラスアクション和解 アップデート
~経緯・現状・今後の展開(電子書籍ビジネスとの関係をふまえて)~」

弁護士 北澤尚登(骨董通り法律事務所 for the Arts)

Googleの書籍検索・配信サービスをめぐる米国でのクラスアクション和解案については、日本で話題となり始めた2009年2月から4月頃にかけて、本コラムで福井健策弁護士が解説しました。(「全世界を巻き込む、Googleクラスアクション和解案の衝撃」「(続)全世界を巻き込む、Googleクラスアクション和解案の衝撃 Q&A編」

その後、およそ1年が過ぎようとしています。その間、和解案をめぐって様々な動きがありましたが、一般向けのまとまった解説は少なく、「結局どうなったのか?」という疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、和解案の経緯・内容・問題点を、日本の書籍や作家・出版社とのかかわりを中心に、Q&A形式でお伝えします。


Q1:和解案は、現在どのような状態なのでしょうか。アメリカでの裁判の話と聞いていますが、裁判の行方はどうなるのでしょうか。

A1:和解案は、当初は2008年10月に当事者(原告=作家・出版社側と、被告=Google)間で合意されており、2009年1月以降に通知・公表を経た上で、裁判所の最終承認を得て成立する予定でした。

しかし、和解案が通知・公表されるや、その内容および通知の方法について、作家・出版社等の関係者や、ドイツ・フランスといった外国政府から多くの批判が寄せられました。さらには、米国政府も裁判所に意見書を提出して、和解案には修正すべき問題点があると指摘しました。これらの批判や指摘の内容は多岐にわたりますが、主な例としては、以下の三つがあります。
① 孤児作品(権利者不明の作品)や米国外作品について、権利者に無断でスキャンやオンライン配信が認められてしまい、著作権法上問題がある。
② Googleだけが競争上の優位を与えられてしまい、独占禁止法上問題がある。
③ 外国の権利者への通知が不十分であり、和解案の内容や手続を理解する機会が十分に与えられていない。

このような批判を受けて、当事者の合意により、2009年11月13日付けで和解案が大幅に修正されました。

修正による最大の変更点は、和解案の対象となる書籍の範囲が狭まったことです。修正前の原和解案では、米国外で出版された書籍も広く対象に含まれていたのですが、修正後は、2009年1月5日現在で以下のいずれかを充たす書籍に限定されました。
 (i) 米国著作権局に著作権登録されていること
 (ii) カナダ、英国またはオーストラリアで出版されていること

ただし、修正によって和解案の問題点が全て解消されたわけではありません。現に、米国政府は和解案の修正後に新たな意見書を裁判所に提出し、上記①②などの問題点が未解決であると指摘しています。

2010年2月18日に、裁判所が修正和解案を最終承認するかどうかを検討するための公聴会が開催されましたが、上記のとおり問題点が残っていることもあって、その場では結論が出ず、裁判所は審理継続を表明しました。このような経緯により、修正和解案は最終承認を得ておらず、かといって和解成立の可能性が消滅したわけでもなく、予断を許さない状況です。

Q2:日本が和解案の対象から外れたと聞きますが、日本で出版された本や、日本の作家・出版社が出している本は、和解とは無関係になったと考えてよいのでしょうか。

A2:上記のとおり、修正和解案では、対象となる書籍の範囲が(i)米国著作権局に著作権登録されているか、または(ii)カナダ、英国またはオーストラリアで出版されているものに限定されたため、日本で出版されている書籍の多くは対象外となりました。

しかし、日本の作家や出版社の書籍であっても、上記(i)(ii)のいずれかを充たすもの(例えば、ビジネス上の理由から米国で著作権登録を済ませてある日本語書籍や、英語圏で出版されている翻訳書)は、和解案の対象となります。従って、和解案が日本と全く無関係になったわけではありません。

Q3:和解案に対して、「日本で売られている本が、Googleによって勝手にオンライン配信されてしまう」との懸念もあったようですが、これは解消されたのでしょうか。

A3:この懸念は、原和解案によれば「和解案の対象となる書籍のうち、米国内で市販されていないものは、Googleがデフォルトで(=作家や出版社の許可を得なくても)配信できる」と読めたことによるものです。

修正和解案では、上記のように、対象となる書籍の範囲が(i)米国著作権局に著作権登録されているか、または(ii)カナダ、英国またはオーストラリアで出版されているものに限定されたため、日本で出版されている書籍の多くは対象外となりました。その意味で、上記の懸念はかなり解消されたといえます。

しかし、上記(i)(ii)のいずれかを充たす場合には、修正和解案の対象となり、懸念は残ります。修正和解案では、原和解案とは少々異なり、「和解案の対象となる書籍のうち、米国・カナダ・英国・オーストラリアのいずれかで市販されていないものは、Googleがデフォルトで配信できる」ことになります。

修正和解案の対象となる書籍の作家や出版社が、Googleによる配信を阻止したい場合は、Googleに対して、配信しないよう要求するか、または書籍のデジタルコピーをデータベースから削除するよう要求することができます。但し、後者の削除要求には期限があります(第一次期限は2011年4月5日)ので、注意が必要です。

Q4:和解案が日本にあまり関係なくなったとすると、日本でのGoogleによる書籍検索や書籍配信サービスは、今後どうなるのでしょうか。

A4:Googleのウェブサイトでは、「日本で提供されるブック検索の機能はこれまでと全く同じでなんら変更はありません」と述べられています(http://books.google.com/intl/ja/googlebooks/agreement/)。従って、日本において現在利用できる「Googleブックス」(検索結果+スニペットの表示)は、和解案の成否にかかわらず、今後も継続するものと思われます。

現行の「Googleブックス」における書籍の配信(オンライン画面表示)は、概ね以下の4つに分類できます。
① 全文表示...パブリック・ドメインの書籍、及び権利者が全文表示を許諾した書籍の場合
② プレビュー表示...権利者が一部のみの表示を許諾した書籍の場合
③ スニペット表示(検索語の周囲数行ずつ、3箇所まで表示)...権利者が書籍のページの表示を許諾しなかった書籍の場合
④ 書誌情報等のみの表示

すなわち、デフォルトでは(=権利者が何も言わなければ)、著作権のある書籍はスニペット表示のみとなります。作家や出版社は、日本の「Googleブックス」で書籍を全文配信したい場合は、Googleが用意している「パートナー・プログラム」に参加するなどして、Googleに許諾を申し入れる必要があります(これは、「パートナー・プログラム」へのサインアップによって、比較的容易にできるようです)。逆に、スニペット表示も禁止したい場合は、Googleに削除要請を行う必要があります。削除要請は、Googleのウェブサイトを通じて削除アカウントを作成することによって、これも簡易に行うことができるようです。なお、この削除要請を行うと、スニペット表示が行われなくなるだけでなく、検索結果にヒットしなくなることに要注意です。

Q5:電子書籍が注目を集めていますが、和解案は電子書籍ビジネスにどのような影響を与えることが考えられますか。

A5:最近では「キンドル」や「iPad」といった先進端末の登場に触発されてか、「電子書籍」をめぐる記事を新聞・雑誌でよく目にしますが、幅広い書籍のオンライン配信ビジネスを活性化するためには、端末などのハード面だけでなく、著作権処理の円滑化といったソフト面の課題も避けて通れません。

現行の著作権法の原則どおりに著作権処理をしようとすると、著作権者を探し出して許諾を得ない限り(すなわち、デフォルトでは)、オンライン配信を行うことはできません。しかし、孤児作品の場合、これは実際には困難です。この事態をそのままにしておくと、多くの孤児作品が死蔵されてしまい、貴重な文化資産の活用が妨げられかねないという問題があります。Google和解案は、孤児作品を含む「市販されていない」書籍についてデフォルトで配信を認めることによって、この問題を解決しようとするものです。

このような解決案は、法改正を経ずに著作権を弱めたのと同じことになりますので、著作権者などの反発を受けるのも無理からぬところがあります。しかし、和解案が「孤児作品の利用促進」という課題に一つの答案を示したことは事実で、日本の関係者としては、欧米で議論されているような広範な規模の電子書籍ビジネスを志向するならば、和解案に代わる答案を考え出す必要があるように思います。著作権法の見直し(米国のフェアユース規定や孤児著作物対策立法を参考にした法改正や、現行の裁定制度の更なる改善)、権利情報の管理システムの整備(集中管理機構や権利データベースの構築)など、様々な可能性をふまえた議論が求められそうです。

※追記(2010年5月26日)...Google Booksクラスアクション和解に関し、文化庁からの委託をうけて弊所の作成した報告書(和解案の和訳つき)が、文化庁ホームページに掲載されました。
タイトルは「米国における著作権関連訴訟文書に係る法的論点整理及び分析等」で、報告書・報告書概要(和文)・報告書概要(英文)・報告書別冊(修正和解案の和訳)が、4つのPDFファイルに分かれて以下のURLにアップされています。こちらも、是非ご参照ください。
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/chousakenkyu.html

以上

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