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コラム・論文 column

1999.6

環境弁護士グループ「ちきゅう」著/一橋出版

『環境と法律――地球を守ろう――』「第6章 エネルギー」からの抜粋

弁護士 二関辰郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)

内容的には古いものですが、今回の震災や原子力発電所の問題を踏まえて、1999年に出版された本からの文章を抜粋して掲載しました。

T 問題の背景

従来はエネルギー問題といえば、エネルギーをいかに長期的・安定的に確保するかという資源問題が中心課題でした。しかし、その後、石油資源の埋蔵量がかつて考えられていたよりはるかに多いとわかり、また、石油ショック以降は石油価格が安定してきたため、エネルギー問題に占める資源問題の重要性は比較的低下し、現在では地球環境問題が重要課題になっています。化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど化石からできたといわれている燃料)に大きく依存した私たちの生活の結果、地球温暖化、気候変動、酸性雨などの地球環境問題が生じているのです。

地球環境問題の大きな特徴は、影響が広範囲に及び、いったん影響が及ぶとその回復はきわめて困難だということです。影響は見えにくいのですが、誰の目にも明らかになってからではもはや間に合いません。エネルギー消費を伴う私たちの日常生活により地球温暖化が着々と進行していることは確かなことですから、手遅れにならないようにすることが必要不可欠です。

ただ、私たちが石油などのエネルギーに大きく依存した便利な生活に慣れてしまっていることと、一般にエネルギー需要の増大は経済成長と結びついており歓迎される傾向があることから、化石燃料の使用を減らすことは容易ではありません。

しかし、現状のままでいれば、いずれは破綻を避けられません。現状のエネルギー需給体制そのものを変えるような積極的な対応により、取り返しのつかない事態に陥ることを避けなければなりません。



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ソフト・エネルギー・パス

一般に、エネルギーの需給関係を把握する場合には、各種エネルギーを、例えば原油のエネルギー値に換算して数値化し、その結果得られた需要予測に対しどれだけ供給が必要かを考えます。このような数値化は統計上必要であり、また、理解を助けるうえで有用ですが、エネルギーそれ自体は私たちの生活手段にすぎず、最終目的ではありません。手段に関する議論が、目的を離れて独り歩きしないように注意することが必要です。

この点に関するエイモリー・B・ロビンズの指摘は示唆に富むものです。彼は、異質なエネルギーの最終用途に応じた最も効率的なエネルギー供給の構成を再検討し、太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーの分散的供給を増大させることを提唱しました(彼は「ソフト・エネルギー・パス」と呼んでいます)。

たとえば、最終用途としての暖房や給湯などでは、せいぜい数十度の熱が得られれば十分です。その最終用途のために、遠方にある大がかりな発電施設で千何百度もの熱エネルギーを用いて発電し、それをはるばる送電設備を通じて調達することはきわめて不経済です。低温の熱エネルギーで足りる最終用途については、各家庭に備えつけた機器で太陽エネルギーなどをなるべく利用し、莫大なコストのかかる電力は、それが本当に必要な最終用途、例えば、鉄道、照明、エレクトロニクス、精錬などの分野に限定すべきだ、と主張しました。



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(3) 今後の課題

環境問題に関する新エネルギーの有用性は明白であり、また、日本は新エネルギーに関して技術的に先進国であるにもかかわらず、各種新エネルギーの普及があまり進んでいるとはいえません。その原因のひとつは、新エネルギーの経済性、つまり、新エネルギーは現時点ではコスト的に見合わないという点にあります。しかし、コストの問題は、関連技術の発展や大量生産化によってしだいに解消されるものですから、結局は、その問題解決に向けて政府がどれだけ積極的に政策を推進し、どれだけ予算を投入しているか、という問題に帰着します。

日本のこれまでの政策は、原子力を積極的に推進し、そのための予算措置を講じるというものでした。資源に限りがあるのと同様、国家予算にも制限があります。また、原子力を通じて電力需要がまかなえていれば、それによって一応日々の需要に応えられるため、新エネルギーの必要性も自覚されにくくなります。その意味で、原子力を積極的に推進することと、新エネルギーを積極的に推進することとは、根本的に両立し難いといわざるをえません。各国の例をいくつかみましたが、原子力発電に熱心なフランスが、新エネルギー普及にそれほど積極的でないこともそのことを物語っています。原子力発電の問題点はすでにいくつか指摘しましたが、ここでは、原子力発電の実際の経済性という問題を追加しておきましょう。

既述のとおり、英国では電力事業に競争原理が導入された結果、原子力発電の非経済性が明らかになったといわれています。「ニューズウィーク日本版」1996年2月28日号によれば、米国は1978年から、カナダは1973年から原子力発電所の新規建設を行っておらず、イタリアは1986年に既存の原子炉を閉鎖、スペイン、スイス、ベルギー、オランダも新規プラントの建設を見合わせると発表するなど、多くの国が原子力利用の見直しを行っています。その主要な原因は、原子力発電の非経済性にあるとのことです。それに対し、原子力利用にまだ積極的なフランスでは、先行投資分をコスト計算から除外するなど、原子力に関する実際の経済性をあまり国民に知らせないようにしているとのことです。日本もフランス同様情報開示が遅れていますが、諸外国の例や、放射性廃棄物に関して長期間の対策が必要であることなどを考慮すると、原子力発電に伴う実際のコストは、日本でも相当な額に上るはずです。この点からも、原子力発電を推進していくことに合理性は見出せません。一刻も早く従来の原子力偏重の政策を是正し、新エネルギー重視の政策に転換する必要があります。

この項目の冒頭に述べたように、エネルギー問題はかつて資源問題が中心でしたが、現在では環境問題が中心です。石油代替エネルギー法や省エネルギー法も、資源問題が中心とされていた時期に制定された経緯などから、その担い手は現在でも経済産業省とその関連機関などですが、いつまでのそのような体制でいくことが妥当かどうかを検証すべき時期に来ているのではないでしょうか。実際、これまで原子力政策を積極的に推進してきた経済産業省に、大きな政策転換を期待するのは難しいでしょうし、そのほかの点でも、結局のところ産業界の意向を重視していたのでは、長期的視点に立った環境問題の解決策は実施され難いからです。

また、各国の例でみたように、新エネルギー推進に積極的に取り組むためには、補助金などの経済的手法を取り入れることが不可欠です。この点は、すでに指摘したように、日本の予算、財政措置はきわめて貧弱であるといわざるをえません。また、経済的手法を取り入れる際、例えば、個人住宅について太陽光発電システムやソーラーシステムを普及させるにしても、建売住宅・マンションなどの集合住宅や借家など、住人に導入意思があっても、それを反映しえない場合もあります。この点の対策として、メーカーや建築業者などにインセンティブとなる経済的手法を積極的に導入することが必要でしょう。また、オランダやスウェーデンでは、すでに炭素税などの環境税を導入しており、日本でも、この点を真剣に検討すべきでしょう。

さらに、新エネルギーや省エネルギーに関する技術援助や財政援助などの国際協力を一層進める必要があります。確かにNEDOなども活躍していますが、まだまだ規模が十分とはいえません。1990年に勃発した湾岸戦争の際、日本がなすべき国際貢献について熱心に議論されたことがありました。新エネルギーに関する技術面・財政面での国際貢献は、地球環境問題に寄与するものとして例外なく各国の利益に資することですから、技術大国、経済大国である日本がまさに力を入れるべき分野ではないでしょうか。


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